88話 狐人族と回復魔法士の決意
サーラメインです。
「……これは帝国のもので間違いないわ、帝国にいたことがあるものとしてはっきり言うわね…………残念だけど現状この呪いを魔法で治す手立てはないわ」
サーラの回復術師としての忌憚なき意見。
「……それは回復魔法を使っても、か?」
「…………残念だけど。 精々が病状の進行を抑制できるくらいかしら」
「そうか」
「……私の回復魔法が未熟なのもありはするけど、そう簡単には上達するわけでもないし…… こんなことなら魔法がばれないように使わないんじゃなく練習しておくべきだったわね~」
自嘲するように俺らの方を向くサーラ。
「……え?」
カタリ、と音がした。
後ろを振り向けばドアの奥を走り抜けていく音が聞こえる。
「……ミスったな」
「そうね、思ってたよりもかなり呪いが深刻だったわね。 聞かれても問題ないと思ってたから放置していたけど」
「しかも肝心なことを聞き逃してるしな」
「……もしかしなくても聞かれちゃったかしらー?」
「多分様子を見に来たファナだろうな、しょうがないここは俺が誤解を解きに行くとするか」
久々に地球の仕事で養われた、話術と言うものを発揮する時が来たらしい。
上司のミスを何度フォローし、そして何度俺の責任になったことか。
まぁ上司のミスはほとんどただのミスだが、それを何とか言葉の綾です、ととりなしただけなんだが。
だから必然的に悪いのはうちの会社だがそこを何度も俺の巧みな話術でさばいてきた。
そして今もまたそれを使う時!!
「……玲夜、ここはあんたの出番じゃないわ、待ってなさい」
ゼニスに待て、される俺。
でもちょっと待ってほしい。
「ノンノンノン、ちょっと待ってほしい 俺が行かないってことはゼニスが行くんだろ、それはさ、ほら言葉がチョーっと辛辣なゼニスには厳しいだろ? だからここは俺が一肌脱いで……」
「サーラ?」
「はい、分かってるますよ~、私も今行こうと思ってました」
「ちゃんと自分の出来ることを分かってるじゃない、ある程度は……」
「これでも勇者パーティーの精神面のフォローもしてたんですよ?」
うふふふ、とゼニスとサーラが和やかに笑い合う。
あはは、と俺も空気を呼んで笑っておく。
「じゃあ行ってきます」
「ええお願い、場所は、ここから約200メートルぐらい離れたところの小川のほとりあたりにいるわ」
「……そんな、一瞬で位置を……って驚いてる場合じゃないわ、それでは失礼しますね」
そう言ってファナの後を追いかけていくサーラ。
「ああやって人の為に献身的になれるから、サーラは回復魔法が向いてるんだろうな」
「ええ、昔はどうかは知らないけど今の私たちに使えないのは道理ね」
「だな、でもサーラあいつ気づいてないぞ?多分」
「さっきの話ぶりからするとそうよね……」
「じゃあ」「つまり」
「……また訓練の日々に戻るとしますか」
「しかないわね、でも帝国や第三者に情報を持ってかれないようにはする必要があるわよ? サーラは完全に信頼出来る仲間というわけじゃないから」
まぁそうだな。
俺とゼニスのようにお互いを完璧に信頼してる訳じゃない。
「しゃあないじゃあ俺はリビングでチビの相手しながらゆっくりするか……」
「じゃあ私は本でも読んでゆっくりしようかしら」
「そのうちまた地獄が始まるからな、休めるうちに休んどかないと」
「でもあの頃より進化してるからもう少し楽なはず……だけどね」
その間は怖いぞ、ゼニス?
*
「ハァハァ……。見つけたぁ」
サーラがゼニスに言われた場所は存外わかりやすい所にあった。
私が近づく足音には気づいてはいるはずだがファナは振り向かない。
狐耳もシュンと垂れ下がっている。
「ファナちゃん……」
名前を呼んでようやく振り向いてくる、その頬には涙のあとがあった。
「サーラさん……」
絞り出すようなファナの声。
「お母さんは……死んじゃうんでしょうか?」
「…………それはっ」
サーラは回復術師であるがゆえにおいそれとうなずけない。
ここで安易に大丈夫よと声をかけることもできる、だがそれは無用な期待を寄せさせることになってしまう。
ちゃんと伝えるのもまた回復術師の務めでもあるのだからここで嘘をつくことはありえない。
だがそれをこの成熟していない子に言うのもはばかられる。
だからこそサーラは答えられなかった
「……いいんです、分かってますから」
そう言ってファナは笑った
あぁどこまで優しい子なんだろう。
会ったばかりの自分にも優しさを振りまく。
他人のためを思える子。
「さっきの話聞いてたのよね?」
「……盗み聞きするみたいになってしまってすいません」
「いえ、良いのよ。それじゃあさっきの話聞いていた?」
「だから助からないんですよね?」
何度言わせるんだ、という抗議の目。
だからこそ勘違いを正さないといけない。
「回復魔術では治せない、それは間違いないわ。 どんなに進化しても多分無理だと思うわ〜。で、私の現状の回復魔法でも治せない、私はこう言ったのよ?」
違い、分かる?とほほ笑みかける。
それは夏希に見せていたような笑顔。
ここ最近のサーラからは失われていた表情。
「…………い、いえ」
何を言いたいのか分かってなさそう。
「ファナちゃん?」
「……はい」
「私はね人を助けたくて回復魔術を学んだの、何も無い自分がせめて誰かを癒せるように、と。私にはある時期までの記憶が無いのよ、でも周りで悲鳴を上げていく人の声は聞こえていた。私はそういう声を減らしたくて……回復魔術、魔法を使うようになったの」
何を言いたいのかピンと来てない顔をしてるわね。
「だからね治せない人が今いるとしても、私は諦めることをしない。1度は自分の命を諦めた私でも救える可能性のある命は救うの。 それが私の矜恃! だから私はあなたのお母さんを死なせはしないわ! たとえ今助ける手立てがなかったとしても私の魔法で治してみせる、それが私の回復魔法を使う意味だからね――」
「ーーだからその涙は必要ないわ、涙は嬉し涙に取っておきなさい?」
「さ、サーラさん……」
「今は私を信じなくていいわ~、でもファナちゃん、あなたはあなたにできることをなさい。家族の面倒を見てお母さんの支えになってあげなさい、病気は私が絶対治すから、ね?」
「ど、どうしてそこまで?」
そんなのは簡単よ?
「命を救うのが回復魔法士だから、それ以外に理由なんていらないわ」
「私……強くなります、もう泣きません!!でも……今は今だけは胸をお借りしてもよろしいですか?」
「別に泣きたいときは今だけじゃなくていつでも泣けばいいと思うけどな~?」
「そんな甘やかさないでください……っ?!」
サーラは柔らかなほほ笑みでファナを迎え入れる。
その後30分間ファナはサーラの胸の中で嗚咽を漏らしていた。
ファナを慰めるその姿はかつてイシュバルで玲夜が見た、在りし日の、なんだかんだで怪我を必死に直してくれたサーラの姿そのものだった。
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