86話 回復術師の勘違い
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「……私に何をする気? ……いえさせる気といった方がなの?」
サーラは自身の身体を抱き替えるようにしてこちらを睨み付けてくる。
「……へぇ」
この状況で俺らを睨み付ける胆力があるとは素直に驚きだ。
……まだ病み上がりには違いないんだがな。
まぁあの状況からもここまで回復できたなら僥倖だ、ちゃんとした場所で寝れたというのが大きいかもしれない。
2週間逃げ回ってたわけだしな。
イシュバルで蒼騎士たちをやってからから1週間。
あんなに蒼血騎士団をいたぶった俺たちだが、特に苦も無くイシュバルから脱出できた。
まぁ最初は追跡者もいたが、『お前らいるの知ってるよ』と軽ーく警告をしたらいなくなった、と言うか多分失神したか死んだかのどっちか。
それ以降は特に誰も来てないから多分おれらを見失ったのだろう。 ゼニスが幻術もかけていたし。
あれを突破できるとしたら、魔法に特化しているか、はたまた俺らと同じ以上の力を持っているかどっちか。
まぁいるっちゃいるだろうが多くはないだろう。
流石に俺も世界最強とは思っていないが、だがまぁ十中八九蒼血騎士団にはそんな実力者はいない。
(今頃イシュバルは大慌てだろうなぁ、ってお? 宰相が四苦八苦しているらしいな。 そりゃそうかサーラに逃げられ、蒼騎士たちが細切れになって帰ってきましたなんて王に言えないもんな)
ミリアとローリーの眼を通してひそかに混乱しているのが見て取れる。
「あぁいい気味だ、愉快愉快」
玲夜は自然と仮面の下で暗い笑みを浮かべる。
それを声音か何かでサーラは察したらしい。
「……何がおかしいのかしら?」
そう言えばサーラがいたんだったな、完全に自分の世界に入ってた。
サーラの声で少し冷静になる。
「……別にあんたに向かっていったわけじゃない、気にしないでくれ」
さて、イシュバルの混乱を見るのもいいがそれより今はサーラが先か。
が、件のサーラはいまだ警戒心を持ったまま。
起きた時に「ふふぇぁ?」なんて言ってたとは思えない。
「……何か聞きたそうな顔だな」
「……ええ。 助けてくれたことには感謝しているわよ、あのままだと私はあの蒼騎士共の慰み者にでもなってたでしょう」
「えらく他人事みたいに語るんだな」
俺の言葉に自嘲気な笑みを浮かべるサーラ。
「ただ感情の置き所が分からないだけよ、」
「……そうか」
沈黙が重い。
「でも今大事なのは私の感情じゃない、それに……」
「それに?」
「蒼騎士よりもよほどアブナイ場所に来た気がするからかしら?」
「……ここは猛獣の檻かよ、蒼騎士みたいな理性がないやつと一緒にしないでもらいたいね」
「何言ってるのよ、あなたあの蒼騎士を殺す時一瞬愉悦に浸ってたじゃない」
「……でもすぐ冷静に戻ったろ」
「私のおかげでね」
ゼニスの指摘通りなので反論しがたい。
だがそれを素直にも認めるのも癪だが。
「……とりあえず俺らにあなたを害する意図は、今のところないよ」
「……今のところ、ね。 それじゃあ私をここに連れてきたわけは?」
「俺らがあなたを助けた理由は一つ、やってほしいことがあるからだ」
「……そうでしょうね、で私に何をしてほしいの? 誰かを殺してくれとかそういうのじゃないんでしょう?」
「馬鹿を言うな、だったらあなたに頼まず自分でやる、それこそ蒼騎士の時のように」
「……なら私の回復術士としての力ってことかしら? でもそれもおかしな話よね、ここが獣人の国とは言ってもさすがに回復術士はいるでしょう? なのに私なの?なの?」
あくまで魔術師としてしらを通そうとするわけか。
「今更そんな嘘はをついてどうなる、必要なのは魔術師としてのあなたじゃない、あなたの魔法の力の方だ」
サーラの身体が一瞬だけ反応する。
「……っそ、それはっ!?」
ナニカを言おうとして、そして観念したかのように息を吐く。
「……そう、私が魔法を使ったところから見てたのね」
実際はもっと前からだけどそれをいう必要はないだろう。
「ああ」
「魔法の存在を知っているということはあなた達も?」
「ええそうなるわね」
「……でも待って。 それならおかしいわ、あなた一人ならわかる。 でも二人ともって、君はだって……え?」
「二人ともじゃおかしいか?」
「あれは年齢による制限等があったはず、でもあなたは確か16とかそのあたりでしょう?」
16って俺がか? 嫌々何を言って……あっ。
あーそゆこと、そゆことね。
サーラが俺の様子を見ていぶかしむ理由が分かった。
「あなたは俺の正体に予想がついている訳か」
ならサーラの様子にも説明がつく。
でもまさかばれるとは思わなかった。
「ええ、久しぶりでいいのかしら? ツキシロ レイヤ君?」
「……あぁ久しぶりだな」
今この部屋ににいるのは3人だけ。
なら仮面もいらないだろう。
「本当に生きていたのね、口調とか見た目とか色々変わってはいるみたいだけど~」
「生きるためには変わらざるを得なかったんだよ。 …………それにしても不思議だな」
「…………?」
「最初に会ったときは俺が横たわり、あなたが治療をしてくれたのに今じゃその立場が逆だ」
「…………短い間だけど色々あったもの、まぁその時は予想はしてなかったけどね~」
「追放される時はそんなもんだろ、くしくもここにいるのは追放されたという意味では全員一緒だ」
玲夜の言葉を額面通りに受け取る事は私には出来ない。
出来るわけがない、それほどのことをイシュバルは彼にしているのだから。
「……目的は何なの? 追放されてかわいそうだったからってわけじゃないでしょ? そうじゃなきゃ憎い私を助けるはずがない!」
憎い?
サーラを?
「…………なぜ?」
「え?」
「え?」
「「え?」」
困惑する俺ら二人をよそに、ゼニスは仮面を外し書物を優雅に読んでいた。
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