10話 無職は予感する
「おはよーう、玲夜! 窓を開けて空を見てみなよ。今日もすっごくいい天気だよ。真っ青な青空だ。」
朝の6時02分にこんな風に陽気に俺の部屋へと飛び込んできて睡眠時間を無邪気に奪いにくるやつは最近では1人だけしか思いつかない。 最近とは言わず、人生で考えてみても思いつかないということは考えてはいけない。 主に俺のメンタルヘルスのために。
ちなみにこの世界の時間は地球と同じで24時間で1日という風になっているみらしい。 まぁ実際はそこまで厳密には時間は分からなくて市民が分かるのは、朝の6時と昼の12時、それに夜の18時と深夜0時だけ。 その時間に街全体に鐘の音が響き、その音で街の人とかは昼とかを判断するらしい。 俺が正確に時間を分かるのは愛用の腕時計のおかげだが。
「……おはよう、ローリー。 だけど6時02分なんてこんな朝の早い時間に来る必要はないんじゃないのかい?」
そう、この陽気な男はローリー。 最初に会った時から実はもう5日程が経っている。 この5日で俺の全身打撲はほぼ完治できた。 地球、さらに言えば先進国の日本でもこんなに早く治るなんてことはまずありえないんだけど、そこは異世界。 というより回復魔導の使い手であるサーラさんのおかげだ。 あのまま放置ってことはせずに、部屋に来て、寝たきりの俺に魔法をかけに来てくれた。……スゴイめんどくさそうにだけど。 その姿を見てなかったら俺は恋の魔導にもかけられていたかもしれない。
けどおかげで無事俺の怪我は完治した。 そしてローリーの日本語はめちゃくちゃ進歩した。 もはや普通の日本人と遜色ないほど。 やはりローリーは天才だったらしい。 そのことを本人に言ったら、「文法とか全て分かっていたから分かんなかったのは発音だけだったんだよ〜」と言われた。
だから「ちょっと何言ってるか分からない」という往年のセリフで返しておいた。
「何を言ってるんだい、玲夜。 時間というものはね無限じゃなくて有限なんだよ。 限りがあるんだよ。 それなのにその時間を睡眠だけに使うなんて勿体無いじゃないか。 だったら僕と日本語談義をしていた方がよほど有意義だと思うけどね、それに玲夜だってこの異世界のことを知れていいだろう? 正にwin-winってやつさ!」
こういう面もやばいと思う。 言ってることは事実ですごく良くしてもらっているので無碍にもできない訳だが……。
「そうなんだけど……にしても朝6時は早くないか? せめて8時くらいでも……」
「え? 昨日より遅く来たじゃないか、これでも辛抱に辛抱を重ね、そのまたさらに辛抱を重ねたんだよ?」
そっかぁ、辛抱に辛抱を重ねた結果が2分なのかぁ。 もうちょっと頑張って欲しいなんて、屈託のない笑みを浮かべるローリーにな言えるはずがないよなぁ……。
だって純粋な好奇心だろうからさ。
そう、ローリーはちょっと常識というものが足りないと思うんだよ、うん。
今度日本人の「察して」って言葉も教えるようにしよう。
「てことで日本語談義しようか」
「でもローリー、俺は日本語談義しててもいいのかな? 怪我も治ったし……、訓練とか……」
とは言ってみたものの、柊たちと同じ訓練に戻されるということはないだろう。 今回のことも俺が弱すぎて起きてしまったことだ。 2日前ぐらいに秋人が俺に謝りに来たときには、逆に俺がとても申し訳なく思ってしまった。
「その話は今日の午後かな。 午前中は昨日までと一緒で僕とこっちの言語とか歴史とかについてのお勉強だね〜、日本語で。 それで午後から玲夜は一旦、王のところに行かなきゃいけないんだ」
「え?王様に?」
「うん、王に。今後のことを話されるんじゃないかな。」
ローリーは王に様付けしないんだな。 あまりいい気持ちを王様に持っていないのかもしれない。 やぶ蛇になるかも知れないから触れないけど……。
「そうなのか、それじゃその後はまた勉強?」
「ほんっとうに残念だけど違うんだよ〜。 お勉強じゃない。 何をするのかは僕も分からないんだよ」
勉強しないのか、異世界のこと知れて面白かったのにな。 特に昨日話してくれた、【英雄アメリーとベトナーの冒険】は面白かったのに。
「僕もちょっと行かなきゃいけないところが出来てしまってね。 本当はもっとおしゃべり……間違えた、日本語談義したいんだけど。 今回は外せない用事で、でも安心して! 1週間ぐらいで戻れるはずだから、その後またお勉強しようね」
首をこてんってすな、可愛いじゃねぇか!
「……そ、そうだな、じゃあローリーが帰って来るのを楽しみに待ってるよ。 それまで俺はこっちの異世界の言語でも勉強していようかな、話せなきゃ何も始まらないし」
「それがいいよ〜。 うんそれじゃ君にこれをあげるよ玲夜」
そう言ってローリーが渡して来たのは2センチぐらいの淡青色の石がプレートの上に据え付けられたチェーンのついたペンダントだった。
「ん? これはなんだ?」
「えーとね……、お守りみたいなものだよ。 玲夜に何かあったときに守ってくれる……かもしれないやつ」
かもしれないってことは守ってくれないかもしれないんじゃないの!? デザインは好きだしほかならぬ異世界初のお友達、ローリーからのだからありがたくもらっとくけどね。
「でもなんで俺に? 出会って日も浅いし、特に何かをしてあげたわけでもないのに……」
「何言ってるんだい。 玲夜は僕と嫌な顔せずお話ししてくれたじゃないか。 僕は疑問があるとなんでも聞いちゃうから、周りの人は段々と避けていっちゃうんだ、それに他にも色々あってこんなに楽しく話せることなんてなかった。 だからこれはささやかなお礼だよ」
ローリー……なんていい奴なんだ。
おじさんもう涙が出ちゃいそうだ。
しかし、えてしてそういう幸せな時間というものは長続きしないものなのだ。
いや、違うか。
俺の場合は見ないようにしていた現実というものがただ見なきゃいけなくなっただけか……。
俺は今朝ローリーが言っていたことを改めて実感することになる。
時間は有限だということを。
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