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木を隠すなら森の中

 一同に新たな情報がもたらされたのは、それから新月と満月を一度ずつ迎えた後のことである。


 この地方に群生している艶花を愛でる晩餐会が開かれ、そこにトルテュ王が参加することになった。


「その会場に、不審な男たちが頻繁に立ち寄っています」


 母は言った。男たちは人目を避け夜に行動していたが、龍種の目にかかってはそんなものは子供だましだ。


「やはり王妃自身は出てきませんか」

「集合している男たちは、みすぼらしい身なり。しかし動きはてきぱきしていたといいますから、食い詰めた退役兵でも雇ったのでしょうね」

「それなら、派手な手を使うでしょう。犠牲者が多くなりそうだ」


 アレクが言うと、母がうなずいた。


「王だけ狙えば、黒幕が誰かはすぐわかりますからね。全く、小娘ひとりが勝手のし放題だこと。地の神もお怒りになるはずです」


 母が悔しげに唇をかむ。何年前のことを引っ張り出すのか、とアレクは呆れた。


「確かにこの前、バティールで大きな揺れがございましたし、多大な犠牲も出ましたが、それとこれとは関係が」

「お黙り」

「わん」

「アレク様しっかり」


 部下たちに嘆かれてしまったが、怖いものは怖いんだから仕方あるまい。


「……とにかくアレクサンダー、絶対にこの計画を阻止するのですよ。我が家のありとあらゆる戦力を動員することを許します」

「はい」


 言われなくてもそのつもりだ。リリアーヌととうとう、真っ正面から勝負ができると思うと、胸が騒ぐ。


 さっそくアレクは自室に戻った。そこで図面を広げて、作戦会議を始める。


「会場は屋外庭園……まずは構造を頭にたたきこんでくれ」


 庭園は広い敷地をもち、入り口付近には蔓バラのアーチや植木が延々と続く。客の期待を盛り上げるため、もっとも植物が密集する地点であり、見通しもききにくい。しかし設営側もそれは承知しており、見張りを複数たてるだろう。王妃が狙うなら、ここではないはずだ。


 入り口を進むと、庭の中心部に入る。中央をまっすぐに噴水群が貫き、その左右に芝生と花壇がある。食事やイベントなどが行われ、多くの貴族が集まるのはここであろう。


「狙うとしたらやっぱり芝生のとこだよね」

「特に花が生えているあたりは、混むな。王も必ず立ち寄るだろうし、そこを狙ってくる可能性が高い」


 部下たちの意見を聞いて、アレクはうなずいた。


「よし、そこに警備をしこう。母上に根回しを頼む」

「しかし、どうするでござる。前回と違って、会場内に兵を入り込ませるのは、無粋だと向こうが嫌がりますぞ。アレク様がいるくらいはよいでござるが」

「会場近辺に広く、使い魔をやろうかと思う。蛇族なら、地中で身を潜めていられる」


 しかし、送り込めるのはそれが精一杯。後はアレクが単騎で使える魔法くらいだろう。苦心しなければならないのは、主力になる騎士や工作部隊をどこで待機させるかということだ。


「そこはこれから詰めるぞ。レオン、知恵を貸してくれ」

「はっ」

「ねえねえ、あたしは単独行動でいいかなあ。罠をかけるの、得意なんだよ」


 完全に狩人の顔になったクラーラが言う。アレクは許可した。


 三人の中で唯一、戦闘系の能力を持たないニコラウスは、輪からはずれて姿絵を見ている。戦になれば、彼は医療所を担当することになっていた。後で、別個に打ち合わせを行う必要がある。


 アレクは頭の中で、いくつもの案を平行して考えた。それを部下の考えとぶつけ合い、より良い形に練り上げていく。


 絶対に失敗できない作戦。その開始時間は、刻々と迫っていた。



☆☆☆



 王家主催の会が、晴天の下で華やかに始まる。庭の正門が解放され、名のある貴族たちが続々と車でやってくる。彼らは車置きに愛車を預けた後、木々をくぐり抜けて会場に入った。


 庭には、緑の芝が鮮やかに生えている。そして、白いクロスのかかった丸テーブルがあちこちにあった。ほとんどの卓の上にはオードブルや菓子が陣取っているが、遊びのために使われているものもある。


 沈黙の競りの卓。出品物がクロスの上に置いてあって、買いたい者は商品の前に備え付けられた紙に値段を書いていく。最終的に一番高い額を付けた一人が落札するのだ。もちろん記名もするので、あまり安い値をつけていると、物笑いの種になる。


 占い師の卓。頭まですっぽりローブでくるんだ女占い師が、水晶の前でなにやらしきりにつぶやいている。若い娘たちが、真剣な表情で長い列を作っていた。


 その他にも、道化や芸人が技を披露したり、異国の楽芸団が変わった楽器をかき鳴らしたりと見所は無数にある。貴族たちは自分たちの行きたいところへ、ひらひらと移動していた。


「……ちっ、いい気なもんだ」


 華やかな宴の様子をのぞきながら、術師の一人が毒づいた。今にも走り出しそうなその男を、首領はなだめる。


「勝手に動くな。その時が来れば、いくらでも殺せる」

「しかしエドメ、思っていたより警備兵が多いぞ。どう攻める」


 当初の予定では、獣道を通って庭園の後ろへ回り込むことになっていた。しかし、その道に大量の騎士たちが目を光らせていると報告が入った。


「このままつっこんだら袋叩きだぞ」

「なんで騎士がいるんだ。しかも他国の」

「跡継ぎの坊ちゃまがここにいるんじゃないか。過保護なことだ」


 術師たちは愚痴るが、来てしまったものはどうしようもない。そのまま計画を実行するか、変更するか、撤退するか。首領のエドメに全てが託された。


 迷った後、彼は口を開く。


「……幸い報告では、獣道にいるのは騎士ばかりだという。弓兵や魔法兵がいないのなら、計画を決行するまで」


 偵察兵たちの報告を見てエドメは言う。そして、立ち上がった。


「進行ルートは昨日言った通りだ。行くぞ」


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