表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

人類殲滅作戦<6>



「だ、誰か助けてくれえええ‼」


男性が逃げ惑う中、一匹の地底人が彼を追いかけ回していた。

男性が転倒する。

地底人は、にやにや笑いながら仁王立ちした。


「お前は火あぶりの刑にしてやる」


そう言って、地底人は、ぐっと息を吸い込むと、火炎放射器のように口から炎を吐き出した。

視界を遮断するほどの炎が男性に向けて放たれる。

しばらく放射し、それを止めた時、地底人は首を傾げた。

いつもなら、そこには黒炭の死体が転がっているのだろう。

しかし今回は、肉片の一つも残っていなかった。


「どこに行った?」

「おい! いつまでやっている‼ 早く退避するぞ‼」

「はっ! 了解しました‼」


地底人が慌てて筒状の掘削機へと駆け戻る。

こっそりと、男性が奥にある建物の窓枠から顔を出す。

私は地底人の影から顔を出し、男性に向け、口元で人差し指をたててみせた。




「よし。全員乗り込んだな。これより発進する‼」


ゴゴゴゴと音をたてて、掘削機は地中へと戻っていく。

私は影から物陰へとコウモリを集めて、姿を現した。

耳に手を当て、細谷君に連絡する。


「侵入した」

『よし。ここからは敵の本拠地だ。オレとの通信も途絶えることになる。決して気を抜くなよ』

「合点」


私は通信を切った。

細谷君に頼らなくてもできるということを、ここで証明してやる。


ガタンと、ひと際強い揺れが起こる。

どうやら目的地に到着したようだ。

次々と地底人が降りていく中、私は先程と同じ要領で影と同化して外へ出た。


それは圧巻の光景だった。

地下とは思えないその巨大な空間は、まさに軍事基地と呼ぶにふさわしい。

夜のスタジアム会場のように、光り輝く照明に囲まれていて、眩しいほどだ。

地上にマグマを噴射していた例の掘削機も無数に並んでいて、空間の真ん中には、それらを何百倍にも巨大にした筒があった。

あの大きさのものがマグマを噴射したら……。

さすがの私でも、それがどれだけヤバいかということは理解できる。


忙しなく行き交う地底人が何百人といて、備品を運んだり、壁を掘ったり、各々の作業をこなしている。

私は彼らの目を盗んで掘削機の陰に潜んだ。

ここでばれたら、文字通り袋叩きにあうだろう。


「抜かりはないな?」


その声に、私はぎょっとした。

赤い皮膚。威圧感のある瞳。

あの時の隊長だ。


「ん?」


隊長が、じろりとこちらを睨んだ。

私は思わず隠れ、両手で口を押えた。


隊長が一瞬でこちらに詰め寄り、物陰を覗く。


「どうかされましたか⁉」

「……いや、気のせいだ」


そこには誰もいなかった。

当然だ。私は今、隊長の影と同化しているのだから。


「隊長。既に準備はできております。中にあるレバーを引けば、我々が集めたマグマが吸引され、地上は火の海です」

「そうか。いよいよというわけだな」

「はい。これで我々の悲願が達成されます。部下を撤収させた後、我々も乗り込みます故、お先にお待ちください」

「頼んだ」


隊長は一足先に筒の中へと入って行った。

彼がボタンを押してドアを閉めた時、私は影から姿を現し、それを破壊した。

瞬時に、隊長はこちらを振り向き、私を睨んだ。


「これで二人っきりだね」

「ああそうだな。今度はもう逃げられない」

「あの時と同じだと思ったら痛い目見るよ」

「そうか」


隊長が、かっと目を見開き、私に鋭い殺気を浴びせた。

びりびりと震えるようなそれは、以前浴びた時の比ではない。

逃げてしまった時の恐怖。クラスでいじめられていた時のみじめさ。お父さんに殴られていた時の寂しさが、一気に去来する。


でもそれは、私が歯を食いしばると、別のものに塗り替えられた。

私を捨てずに付き合ってくれた人がいる。頭を撫でて、褒めてくれた人がいる。私を信じてくれた人がいる。

その温かい思い出が、隊長の殺気を吹き飛ばした。


「……心地良い殺気だね」


そう言って笑顔をみせる余裕すらあることに、私は自分自身驚いていた。


「どうやら口先だけではないらしい。少しは楽しめそうだな」

「それはこっちのセリフ」


隊長はにやりと笑った。


「俺の名はレッド。人類殲滅作戦を指揮する地上殲滅部隊の隊長にして、次期地底王となる男だ。お前を正式に敵とみなし、俺自らの手で排除してやる」


私は身構えた。

私はもう以前とは違う。でもそれは相手も同じ。

舐めた態度は取らず、本気で私を殺しにくる。


頬を一滴の冷や汗が流れる。

怖くない、と言ったら嘘になる。でもそれを自分の力にする術を、私はもう身につけた。

だから絶対にだいじょうぶ。

私は、ぎゅっと拳を握った。


「ではやろうか、ヒーローよ。見事この私を楽しませてみろ」

「その余裕ぶったセリフ、あとで絶対後悔させてやる‼」


私とレッド隊長の拳が、一気にぶつかった。

今までの敵とは比べ物にならない力。

しかし私は、歯を食いしばってそれに耐えていた。


「はあっ‼」


レッド隊長の一喝で、一気に力が増した。

腕が砕かれる。

最悪の未来を瞬時に予想し、私は全身をコウモリに変えた。

吹き飛ぶように辺りへ散開したコウモリが、レッド隊長の背後で集積する。

こちらを見ていないレッド隊長の後頭部に、私は思い切り蹴りをくわえた。

が、振り返ることなく、レッド隊長は私の足を掴んだ。


ジュウゥッ‼


掴まれた足に、溶けてしまうような熱が襲う。

私は思わず苦悶の表情を浮かべ、再びコウモリになった。

レッド隊長の辺りを飛び、出方を窺う。


「どうした? 来ないのならこちらから行くぞ」


レッド隊長が身体に力をいれ始める。

最初は何をしているのか分からなかったけど、異変はすぐに現れた。

室内が、どんどん熱くなっているのだ。


「お前、コードDの能力者だろう? 肉弾戦なら滅法強いが、この手の攻撃は力を拡散できない。お前の弱点だ」


熱い。

飛び回っていたコウモリの中で、遅れが出る個体が現れ始めた。

レッド隊長は、よろよろと飛翔していた一匹のコウモリを踏みつぶした。


「うぎっ!」


その痛みに、思わず元の身体に戻ってしまう。

私はレッド隊長の前で、膝をついていた。

サウナの中にいるような熱が、私から体力を奪っていく。

だらだらと流れる汗のせいで、喉がカラカラだ。


「戦うのもダメ。逃げるのもダメ。そのザマで、一体俺とどう戦う? ヒーロー」


レッド隊長が、私の首を掴んだ。


「あ、がっ……‼」


軽々と、レッド隊長は私を掴み上げた。


「コウモリになって逃げるか? そうしている間も、どんどん室温は上がっていくがな」


徐々に、首が絞まっていく。

なんとか引き剥がそうともがくも、力の差は歴然だ。


「諦めろ。お前はもう詰みなんだよ」


詰み……。

そう言われて、私はだらんと両手を離した。


「……私が誰よりも尊敬してる人はね。とっても頭が良いんだ」


レッド隊長が眉をひそめる。

私は構わず続けた。


「でも私は、あの人みたいにはなれない。ちょっと難しい話になるとすぐ眠くなるし、問題が分かっていても、それをどう対策したらいいかもわからない。だからね。私は私なりに考えようと思って。……知ってる? 最近流行りのアニメ。巨大トカゲに襲われた人たちが、知恵を出し合ってやっつけるの」


私は隠し持っていた手のひらサイズのタンクを、レッド隊長に向けて放り投げた。


「こんな風にね」


コウモリを刃に変え、私は液体窒素の入ったタンクを切断した。


「ぐあああああ‼」


液体窒素を顔に直接被り、レッド隊長は思わず私を離した。


「お、お前ええええ‼」


両手で顔を覆うようにしながら、レッド隊長は叫んだ。

この様子じゃ、私が今どこにいるかもわかっていない。

私はぐるんぐるんと腕を回した。


「私だって、誰かに頼ってばかりじゃない。私一人でも戦えるようになって、あの人に認めてもらうんだ‼」


拳をぎゅっと握りしめる。

今持てる全ての力を、この一撃に込める。


「これがヒーローの、意地の拳だああああ‼」


私の拳が、レッド隊長の身体を吹き飛ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ