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9meas.再来(後編)

 ノバは塀の上からアスファルトの地面に降り立ち、行く手を阻んだ。その背後にはアオも立っていて、簡単には通してくれそうにない。

 また来たか、と舌打ちした俺に対し、ノバは余裕の表情でからかうように言った。


「相変わらず派手な色をしてるな、お前は」

「お前こそ、陰キャがチャラい格好してもイキってるようにしか見えねえぜ」

「それは陰キャから抜け出せない奴の僻みでしょ」


 口を開けば腹のたつことばかり言う。口喧嘩はどちらかというと苦手で、俺は次の言葉を必死に紡ごうとした。それにしてもこいつ、嫌味なくらい爽やかな顔をしてやがるな。


「あいつらも、お前が操ってるのか」


 カズに絡んでいる同級生たちに視線をやりながら尋ねると、ノバは両手をひらひらさせて「今回は違うよ」と答え、歌うように続けた。


「そういえば、前の不良くんはお前らが記憶操作でうまく丸めてくれたんだってな。エリートで天才のアーマス・ガーネットはてっきり何も出来ない無能力ネニノである人間を下に見て、今回もラセット以外のことでは動かないのかと」

「!」

「その顔は、図星か」


 嘲笑するだけで、ノバは動かない。こちらが動くのを待っているようだった。


「聞いた話だと、お前は最初、そこにいる無能力を誰よりもひどく差別したらしいじゃないか」

「それはっ……!」

「アーマス。あいつはこうやって時間を稼ぎたいだけだ」

 

 アイさんが背後から肩を引いてくる。振り返ると、酷く厳しい顔がそこにあった。ちょっと怖かった。俺は何と言っていいか分からず、口をパクパクさせる。


「……何、アーマス」

「あの折は本当に申し訳ない」

「馬鹿。お前のは、もう十分伝わってるから」


 そう言って、アイさんが睨みつけるのは、俺でなくノバだった。

 相変わらずのイケメンぶりに、思わず顔を両手で覆ってしまう。

 だめだ。完全に、向こうにペースを乱されている。


 それにしても、錆はさっきから何をやってるんだ?

 何やら、カズが集られているところを撮影して証拠を残そうとしているらしいが、たぶんスマホの機能的に、撮ったらマナーモードでも音が出てバレるぞ?


 撮りづらいと思ったのか、錆は動画に切り替えたらしい。

 そして……ヒュウン! と予想していた通りの音が響いた。


(馬鹿……!)


 錆に駆け寄ろうとすると、足元から、この間と同じような根っこがアスファルトを突き破り現れた。


「アーマス、ここは俺に任せて」


 アイボリーが俺とノバの間に立つ。悔しいが、今の俺にはこの根に勝てる策がない。俺は横に抜けて、先に進んだ。その先にはアオが立っているのだが。


「どけ!!」


 指先で小さな弧を描き、払う。そこから火花が散り、避けようとしたアオの頬を掠った。彼女の白い頬から朱が流れる。

 彼女は真っ直ぐ切った前髪から鋭い目を覗かせ、俺をギロリと睨んだ。ああ……やっぱり女の子の顔に傷をつけるのはまずかったかな。


 一方、少し離れた場所からビビりまくった声。


「おっ、お前らがカズに集ってたの、全部動画で撮ってあるからな! ああああんまり調子に乗らない方がっ、いいぜっ!」

「なっ……」

「け……警察に差し出せば、お前ら、受験どころじゃ、な、なくなるからな」


 案の定、おかしなことになってるんだけど。

 王様、そういう台詞は、少しでも体を鍛えてから言った方が……。


 ああ! 言ってる傍から殴られてんじゃん!!

 女の子の顔に傷をつけた手前言い難いけど、正直、お前の良いところは顔だけなんだからな。鼻でも折れたら、いよいよパンジーに愛想つかされるぞ。


 錆が携帯を落とした。

 しかし、彼はそれを拾うどころではなく、三人掛かりで殴られ蹴られている。


 俺は右手の親指と中指を擦り合わせ、携帯のある方向に向けた。パチリ、と鳴らした瞬間、アスファルトの上に転がった錆の携帯が消える。次に、左手を受け皿にして、その上でもう一度、パチリ、と指を鳴らした。

 簡単なテレポートだ。


 とりあえず、錆の携帯は回収した。それをポッケの中に入れて、アオに向き直る。

 俺がそうしている間に、彼女は制服のスカートを翻し、風のような速さで目の前に来た。


 魔力を凝縮させた剣が俺とアオの間で火花を散らす。


(二刀流……!?)


 慌てて作った盾が彼女の剣と共に砕け散る。盾の赤と剣の青の光の欠片がパラパラと混ざり、宙を舞った。

 一旦距離をとるアオの手に握られているのは、錆の携帯。笑みを浮かべながらアオは手に持ったそれをひらひらさせる。


「うお、いつの間に……」

「女だからって油断しないことだわ」


 それはパンジーの例もあるし、重々承知なんだけど。

 地面に転がされ蹴られている錆が視界に入り、いい加減早く何とかしなければならないことを悟る。


「こいつの顔、どこかで見たことあるぞ」

「有名人か?」

「父さんが持ってた雑誌に乗ってたような」


 錆を蹴りあげながら、一人の少年が言う。

 凄い記憶力だ。しかし、確かに小学校、中学校時代の錆はよく「天才キッズ」として音楽誌に載っていたから、有り得ない話ではない。義母との関係の悪化で、ヴァイオリンの腕も落ちていったのだが。


「そうそう、思い出した。天才ヴァイオリニストだって」

「坊ちゃんが調子に乗って、俺たちに突っかかりやがって」

「むかつくから腕、折っちまおうか」


 嘲笑う声にぞっとして、アイさんの方に視線を移すと、アイさんもノバとの戦闘に苦戦しているらしかった。


「こっちに集中してもらえる?」


 アオが再び両手に長さの違う青色のソードを握る。

 俺を殺したい気持ちは分からないでもないけど、それは鋭利すぎるんじゃない?


 俺も負けじと赤い光を纏った盾を作った。

 間髪入れず、二つの光が交わり、弾ける。俺は盾の中で指を鳴らし、次の瞬間、ノバが呻いた。


 ノバの頭の上に落下させたのは錆の携帯だ。それが地面に落ちる前に再び己の手の内に戻す。

 一瞬の隙を見逃さなかったアイさんが脳震盪を起こしているノバの横をすり抜け、錆の傍に降り立った。

 一番手前にいた少年の手をスッと引き、関節を締め上げ地面に落とす!


 ただ、ノバの足を止められるのはほんの一瞬だ。


 どうするか考えるより早く、俺たちの前に一つの大きな男が現れた。俺の二倍以上高さも太さもあるその巨体に呆然とする。

 最初、ノバたちの仲間かと思った。

 しかし、彼らも目を丸くしているのを見て、第三勢力であることを悟る。


 男が地面を踏むたび、熱を帯びたアスファルトがぐにゃりと曲がるようだった。突然現れた彼は、アイさんの邪魔をしようとするノバの前に立った。


 そして、俺とアオの間にはもう一人、見知らぬ男がいつの間にやら立っていて、俺の視線に気づくとメガネをくいと上げた。巨体の男とは正反対に、こちらはかなり細身だ。背は少し高いようだが。


「な……なんだ、お前ら」


 ノバの動揺する声が聞こえる。巨体の男も細身の男も、何も答えなかったが、電柱の上から返答があった。


「こんばんは、H(へっぽこ)PM(ピウ・モッソ)の皆さん!」


 無邪気に笑う顔が青い月明かりに照らされ、不気味に歪んだ。

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