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4meas.緊急事態(中編)


 神社から鳥居を抜けて、強い魔力の持ち主が近付いてくるのを感じ、俺は場所を移動した。

 錆は、今日は一人で下校だ。確か、上坂登が彼女とデートで、宇良山一が塾とか言ってたっけ。できるだけ一人にしたくはないが、怪しげな気配が錆に近づいている今、それを見守り続けているわけにはいかない。錆をあらゆる危険から守る。本人に気づかれぬよう。それが俺達の使命だ。

 神社から出てきた2人を木の上から確認して、俺は思わず目を見開いたね。それはもう、目玉が飛び出るくらい。


「随分、おっかねえ彼女だな……」

「誰だっ!」


 ぱっと振り返り、こちらを見上げたのは、「彼女とデートなう」の上坂登だった。


(おいおい……なんで今まで気づかなかったんだ?)


 頭をカリカリ掻いてから、もう一度、よく魔力の気配を感じれらるよう神経を研ぎ澄ましたが、上坂登からはなんの魔力も感じることができなかった。


能力無(ネニノ)か)


 それか、パンジーのように特殊な体質を持っている可能性もある。どちらにせよ、ずっと錆の近くにいた彼がこちら側に関わっていたとは、今の今まで気づかなかったわけだ。


「うちの王様になにか用かい? 可愛い彼女を見せびらかすつもりなら止めないけど」


 尋ねると、面倒くさそうに上坂登は舌打ちをした。


「お前らは、ずっとラセットを監視していたみたいだな。ヒュロスの仲間じゃあなさそうだが」

「……ああ。俺達はヒュロスから錆を守るために、こっちに来てる」

「なんのために?」


 上坂登の無情な声が心臓を抉るように突き刺さる。

 なんのために……?


「一体何を聞かれてるのか……新興宗教ならお断りします」


 薄ら笑いを浮かべると、苛立ち混じりに上坂登が声を大きくした。


「話を聞いてやろうと思ったが、予想以上に置かれている状況が分からない阿呆の集まりだったみたいだな」

「……!?」


 足元で地面がミシミシと音を立て、僅かに割れ目ができた。そこから何本もの木の根が襲いかかってくる!


「《断ち切れ(セバ)》!」


 向こうの勢いが強すぎて、咄嗟に唱えた魔術だけでは太刀打ちできない。そして、この根っこ。魔力を使えば使おうとするほど、分が悪くなっていく。


(魔力を吸い取られてる……!?)


 上坂登に魔力を感じられなかった理由が分かった。彼は他人の魔力を奪うことで、威力を発揮できるらしい。

 それにしても、喧嘩っ早すぎるんじゃねえの?


「《焼き尽くせ(ボル・ガシュ)》!!」

「無駄だ。そいつに魔力は効かない」

「お前らは何者だ?」


 足元を封じられた状態だが、聞きたいことは聞いておく。

 すると彼は、赤茶の短髪を掻き上げ、額を出した。そこには、選ばれし者だけが持つとされる呪術師の紋章が赤い光を纏って浮き出ていた。


「ナガレム家の長男、ノバ・ナガレムだ。こっちは妹のアオ」


 ナガレム家は言わずと知れた術師の一族で、占いを生業にしている旧家だ。よく王家もお世話になっているから、彼らの父親とは面識があったが、なるほど、言われてみれば確かに面影が残っている。


「すごいな……初めて見たぜ」

「そっちの噂もよく聞くよ。結界師の跡取り息子だって? 腕前も相当だと聞いている。そんなお前がどうして前魔王のお守りなんて得にならないことをしてるんだ?」

「はは、そりゃあ危険な状態の友人を放っておけないからだろ」

「友人? 錆はお前のことも知らないのに?」


 確かに錆は俺の友達でもなんでもない。正直今は赤の他人だ。でも。


「いいの。それくらいの恩を、俺たちはラセットから受けてるんだよ。……それで、お二人は、錆になんの用?」

「ヒュロスを倒すには、ラセットに頼るしかないと分かってね」

「それは占いの結果ってやつ? 詳しく教えてくれねえか」


 ノバは暫し沈黙した後、口を開いた。


「ヒュロス・キリアがこの数年の間に目覚める。俺たちに勝ち目はない。数年後に、全て、奴の奴隷となる。屍の山が築かれ、海は赤く染まるだろう。奴を食い止められるのは……」


 思わず俺は「はあ?」とノバの言葉を遮った。


「飛躍しすぎで訳わかんねえな。そもそも、ヒュロス・キリアが魔王になるには、王の宝があと2つ必要だ。そのうちの1つを次期魔王候補、モニカが持ってる。そう簡単に奪われることはねえ」


 俺がそう言うと、ノバは汚いものでも見るような顔になり、吐き捨てた。


「あいつには一番王になって欲しくないね。色恋に現を抜かした畜生以下の劣等種だ」


 頭にカッと血が上った。

 しかし、足元から少しずつ伸びてきた根が首元までやってきて声を出すことができなくなった。


「残念だが、邪魔をするならここで消えてもらう。この世界を守るためだ。とんだ期待はずれだったな、アーマス・ガーネット。モーニング・グローリーを信じたのが運の尽きだ」


(それは……どうかな……)


 ふっと笑みが零れる。

 なあんだ、あんたもちゃんと、怒れるんじゃないか。


 前に俺は、「アイボリーの前でならアイボリーの悪口を言えるが、モニカの前ではアイボリーの悪口を言えない」と話したと思う。

 逆もまた然り、らしい。


「……」


 俺と上坂登の間に入ってきたアイボリーは、恐ろしいほどに何も言わなかった。

 普段怒らない人ほど怒らせると怖いって本当だな。


 ああ、ここに登場するのは初めてだっけ?


 彼は俺達の中で一番年上のまとめ役。アイボリー・イールって名前で、皆からはアイさんって呼ばれてる。

 背の高さはまあ普通だけど、モニカとラセットには抜かされて悔しがってたっけ。

 黒髪短髪の正統派イケメンだけど、すぐ側に俺がいるから影は薄い。

 

 少しぼんやりしているところがあって、時々頼りないけど、俺は内心すごく尊敬してる。それはパンジーも同じだ。モニカは言わずもがなって感じだな。

 ほら、こんな風に、仲間のために誰よりも必死になってくれるんだ。

 しかも呆れるくらいお人好し。変に頑固なところもあるが、可愛いものだ。

 まあその話は次の機会にするとして。


 アイさんの良いところを並べると、たぶんこの物語が進まなくなっちまう。


 でも、この状況では出てこない方が良かったかもな、アイさん。

 あんた……。


「《能力無(ネニノ)》か」


 上坂登が嫌な笑みを浮かべる。まるで見下すような目だった。


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