表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

第9話「十二時の魔法」

「っ……」


 目頭が熱くなる。悲涙などではない。それは感涙で、僕の中の感情全部が込み上げたもの。嬉し泣きに他ならない。内側から、全身満たされていく感覚。


「……やっと、キミをみつけたよ」


 僕が今にも泣き出しそうな顔して感傷に浸っているのをみて、奴は驚いたことだろう。

 それでも察しの良い奴はすぐに状況を飲みこんだようで、喉を鳴らす。


「コホンッ、いッやぁ~久々に歌ったとは思えねェな! 俺のコーラス喰いまくりィッ! あれな、次はソロな笑。もうノド温まっただろ? 次の曲紹介たのむゼ」

「あっ……う、うん。次の曲は、バラード。新しい曲だよ。はじめてうたう」

「あン? 新曲? 打ち合わせとちが……まッ、いいか」


「ははは……サプライズってやつ、かな? 僕には秘密がたくさんあって、それのいくつかを今日はみんなにきいてもらおうかと思ってさ。しばらくスランプだったけど、今回は正真正銘100%僕が書いた歌詞。満を持しての自信作。それから……はじめてのラブソング、好きだとか恋してるとかそんなじゃなくて、僕がどれだけキミを愛しているかをうたってみた」


 口にするのは簡単だけれども、ちゃんと声に出せていなかった想い。言葉にするには複雑すぎて、いつだって逃げてきたんだ。

 でも、それも今日までだ。これからは声に出して伝えるよ。

「……だから……」


 感情かき集めて、リスクを取っ払い、勇気を出して、僕は観客席に手を伸ばした。もちろんその先には彼女がいる。


「いっしょに、うたって」


 一人ではできないことも、みんなでなら……キミとなら何だってできる。いまは、そうだって、わかるから。

 会場が騒めく。その中心に彼女がいた。

 スッっとスポットライトがその姿を浮かび上がらせる。俯く彼女が顏を上げると、頬にツーッと光るものが見えた。


「え…………?」


 彼女はスポットライトから飛び出して、逃げるようにして人をかきわけ、観客席から走り去る。目元は前髪に隠れて、目が合うことはなかった。

「まって……」

 いかないで、そう口にする隙さえなかった。


 注目されるのを嫌ったのか、それとも僕が何かを間違えたのだろうか?

 ……やっと会えたというのに、これほど近い距離まで来れたのに……。

 僕は、また彼女を失ってしまうのだろうか。

 いつだったかの別れの言葉を思い出して、違った涙が出そうになる。


「ッたくよォ。何してンだか……オラッ」


 ステージ上で立ちすくんで、動けないでいると、みかねた奴が背中を押してくる。

「はやくいけ! つないでおいてやっからよッ」


「ありがとう。いってくる」

 状況が呑み込めていない観客はガヤガヤ騒めきはじめている。せっかく来てくれたファンに申し訳ないとは思うけれども、僕にとってはこっちの方が……彼女の方がずっと大事なことだから、ステージを降りて追いかける。幸い奴がいることだし、振り向かずにいくよ。


「おうよ。……っと、そーだったアレだ、控え室。用意してあっからよ。いけばわかっから! ガハハハハッ! …………さーて、曲順チェーンジッ! つづきましてはノパトナ歌うからよ! 合いの手よろ~ッ」


 バックステージから廊下に出ると、そこに彼女はいた。

 近づくと、彼女が泣いているのがわかった。

「ひぃッく……ずず……っ」

「みつけたよ。キミのこと。やっと会えたね」


「む……む、むりむりむりっ! 無理です!」


 彼女はすごい勢いで手をはためかせながら、巻き舌っぽくムリと連呼した。

 対して僕は、落ち着いた素振りで大丈夫だよと返してみる。本当は不安でこわくて困惑してるけれども、きっと彼女は僕以上に不安だろうから、すこしでも安心させたくてクールぶる。


「いやいやいやっ! 全っ然ナシ。断固むりぃっ。ほ、ほらそれに、泣いちゃったからメイクオワですおすし~」


 自然に会話しているけれども、彼女と直接言葉を交わすのはこれがはじめてで、そう思うとすこし変な感じがする。どうしてか、当たり前のように思えた。


「もぅ、嬉しいやら感動やらで……ぐずッ」


「……しゃーなし。ちょっときて」

 僕はさっと手を伸ばし、彼女の手を引いた。正確には袖の上から手首を掴んだ。

 別にヒヨったわけじゃないぞ! あれだ。身長差。慎重さ? ちょ、ちょうどそこに手首があったから!


 彼女の手首は、僕の手のひらに小さく収まって、強くしたら壊れてしまいそうなそんな感じだった。でも、たしかにそこに存在していて、とても存在感があって、ぬくもりが右手に伝わってくる。

 奴の言葉を思い出して、彼女を連れてスタッフ通路を進む。

「いーから。こっち!」

「のぉぉお⁉ ちょちょちょ⁉」


「(ゴクリ)」

 大胆なことをしてしまっている自覚が遅れてやってきて、僕は恥ずかしさのあまり、歩幅を広げた。そうして、少し強引な形で彼女を楽屋に連れ込む。

 …………。

 ……。

 NEXT▶▶

つづき はもう少し待っていてほしいんだ。


第10話 5/19(土曜日)投稿予定ッ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※ コメント/評価は ※
※ 最新話のページ下から送れます。 ※

【原作楽曲】
戯言コンプレックス(niconico動画)

【関連作品】
――◆オムニバス ホラー小説◆――
『 怪談怪奇の路地裏書店 』
~お客様に格別の物語(恐怖体験)を~

――◆SS風 ガイド◆――
【初参加必見】コミケ一般参加を考えて
いる、みんなにハウツー

~音声ガイドAIが貴方を~
~ヲタクの聖地にお連れします~

――◆イメージ小説◆――
小説版 自己否定依存症【完結済】
~キミの言葉は僕だけの秘密~
◇原作楽曲◇
自己否定依存症(niconico動画)

――◆イメージ小説◆――
小説版 OVER ENDING/Re:bit編【完結済】
主人公補正?んなもんねぇよ。
- 俺にあるのは“ 残機 ”だけだッ! -
◇原作楽曲◇
OVER ENDING(niconico動画)

――◆イメージ小説◆――
小説版 Nameless Hero/ネームレス ヒーロー
- 僕は、一度もヒーローになれない -
◇原作楽曲◇
Nameless Hero(niconico動画)

【公式サイト】
(アンエク)UNDOT EFFECT

【Twitter】
同人サークルUNDOT EFFECT
(@UNDOT_EFFECT)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ