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第6話「パスコードは 1234」

 平日お昼のニュースではキャスターが来洒落たジャケットを羽織っている。


 うれしはずかし奇跡の生配信からいくらか過ぎたが、いまだに一部のネットニュースでは僕と作曲家との熱愛疑惑が騒がれている。

 そう。彼女は例のアルバムでデビューしたんだ。


「ッても、プロ意識ひっくいんじゃねェの? あァン?」


「ひとの心の声に絡んでくるな。彼女には彼女のペースがあるんだから、そうすこしさ……」

「オラオラあくしろよ~歌い手いつまでまたせンだァ~」


「あっ! ちょっと返せよ!」

 僕は奴にスマホを奪われ、慌てて取り返そうとするが、頭を押さえつけられて、もがく事しか出来ない。腕を伸ばしてみるも、リーチの長さは奴の方が上で、バタバタと寸でのところで届かず宙をかく。


「ッっよ! まぁまぁ俺様に任せておけってガハハ。こーいうのはな、ビシッと言ってやった方が男らしくってキュンキュンくるンだってッ」


「おまっ……ぐぬぬはっなせ、つーの!」

「あァハハハハ! ぷーくすくす。そんなにマジになんなって? ジョーダンだよ。なんもやってねェし。ほれッ」


 僕の慌てふためきっぷりを楽しんで、奴は満足したのか、最後はあっけなくスマホをこちらに放ってきた。

「おっとと……ったく、笑えねーんだよお前……。は?」


『歌詞まーだー?』

『はよ』

 <――12:11


「ざっげんな!!」

 やってんじゃねえかッッ!なにが冗談だ!

 メッセージは既読済みで、取り消したくても、どうする事も出来ない。こういう時、彼女のレスポンスの良さは、考え物だ。

 とはいえ、もう二度と彼女を失いたくないから、既読が付くこと自体は嫌じゃない。


「ダーハッハハッッァ!! おこ? おこなの?」

「…………うっせ」

「まぁ、あれだ。涙拭けよな。そんな日も、ある」

「お前がやったんだろ! クソがぁーお前のスマホも、よっこせええ」


 喧嘩するほど仲が良いと言うが、現実には、仲が良すぎて踏み込み過ぎた結果、喧嘩になるんだよな。それを許せるか許せないかで仲の良さが決まるとも取れるが、奴を許さんぞ。


 天秤に掛ける必要すらない。

 重めのローキックをキメて怯んだ奴からスマホを剥ぎ取る。涙浮かべながらヘラつくコイツには、お仕置きが必要だ。


「はい没収。黙って機材チェックもどれよな」

「つーッ、いてて。わーッたよ、大事なライブだもんなー来ンだもんな? ハハハハ」


 僕も鬼じゃない。他人のスマホで勝手にメッセージを送るような真似はしない。その代わりに、奴の大好きなゲームアプリを消してやった。

「ま、どーせバックアップとってんだろ……しらんけど」


 奴のスマホはポケットに滑り込ませて、代わりに自分のスマホを取り出す。

 チカチカと通知が届いてLEDが点滅していた。


『こ、今週中には……』

『残業がですね……』

『土曜日にやりますんで……』

 >――12:13


「残業……っか。無理してないといいけど。土曜日か」

 ほんとうは急かすつもりなんてなかったけど、その日はもう予定があるんだよな。


『ライブでむりそのひ』

『明日までねー笑』

 <――12:13


 せっかくのライブだから、仕事も作業も全部終わらせて、頭空っぽにして楽しんでほしい。自分勝手と思われても、仕方がない。だって、僕のワガママで企画したライブだから。

 そのことを彼女はまだ知らない。きっと彼女のことだから、思惑があることに気がついてもいないだろう。


『そうでした……アウアウ』

 >――12:14


「すこし、いじわるだったかな?」

 僕の計画に気がついているのは、奴ぐらいだろう。色恋沙汰となると奴の勘はピカイチだからな。そのくせ、悪巧みと冷やかしが大好物。


 遠目にヘラつく奴を眺めながら、僕は邪魔したら殺すぞと脅迫染みた笑顔を向けてみる。

 それに気がついた奴は、任せとけと言わんばかりの満面の笑みで親指を立てて返事をかえす。


「絶対バレてるもんなぁ……」

 はぁっとため息を吐き出して、軽くストレッチしてから、僕はスポットライトを浴びた。


 彼女がうたってみたなら、僕がやるべきことは一つだから。


 想像するだけで、口元がゆるんでしまい、ライブが楽しみで仕方がなくなってしまう。

「キミは喜んでくれるかな? すこしビックリするかな?」

 …………。

 ……。

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