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第4話「ほこりかぶった 秘密」

 一日たって、一週がすぎて、月がかわった。彼女への思いは薄れるどころか、より大きくなり、心の奥深くまで達していた。


 もう、癖みたく、気がつくとアプリを起動して返信がきてないかを確認してしまってさ。そんな今日この頃。


「あーうん。ごめん。もう少し待ってほしいんだ。そう、クレジット……いや、納期あるのはわかってるけどさ……うん……」


 受話器越しに、せっつく奴を言いくるめるのも、そろそろ限界かもしれない。いまさら彼女から連絡がくる可能性なんて低い……わかっているさ。でも、もう少しだけ、ギリギリまで待っていたいんだ。だってこのアルバムは……


「……彼女のアルバムでもあるからさ……作詞には彼女の名前を載せたいんだ……」


 彼女の言葉は日常を描き、まるで全部知っているみたいな錯覚があった。

 でも、実際には全然知らなかった。たくさんのメッセージをやり取りしたのに、僕たちの距離は離れたままで、顔も名前も生まれも育ちも何一つ知らないんだ。

 ネットでの関係なんて、そんなものだと言ってしまえばその通りで、そこで話は終了なんだけども。僕にとって彼女は特別だったから……そのことが辛くて苦しくなる。


「……連絡……してるんだけどさ……。今週中には……うん。それでたのむわ。うん。それじゃあね」

 通話を切ると、一時間以上も話していた。スマホのバッテリーが赤くなり、いまにも切れそうになっている。


「ああぁ、どうしろってんだよ……」

 背中を伸ばして胸にたまった息を大きく吐き出す。僕がどれだけメッセージを送ったところで、既読はつかないし、連絡先なんて番号どころかメアドさえもわからない。唯一の繋がりが絶たれた僕には何もすることはできない。どうしたら、いいのかわからない。

 仰け反っていると、壁に掛かった時計の針が、あることを思い出させる。


「もうこんな時間かー。告知しないと……せっかくだしアレ使うか?」

 SNSに告知を投稿してから、久しく使ってないマイクセットを引っぱりだす。当時はけっこうな値段したマイクも、歌わなくなってからはテーブルの隅でホコリをかぶってしまっている。


「ふぅ~ッ! まだ使えるかな? あーっと。あとはカメラだっけか……」

 顔出し丸見えの生配信まであと三十分。


 奴が企画したネット交流会兼、アルバム宣伝の一環でやることになった今日の生配信。正直それどころじゃないんだけども、納期の件で奴には無理いってるし……ギブ&テイクとしてオッケーした。


「チェック! チェック~!」

 レベルメーターの跳ねを確認しながら、ゲインを調整していく。


「あーあーッ! キ エ ェ エ エ エ ッ ッ ! ! 」

 奇声もバッチリ笑

 なんか、前より声高くなったかな?


 予約した時間になると、観客が集まっていく。すぐにアリーナ席は満員になってしまった。

 カメラのスイッチを入れると、モニターに自分の姿が映った。前髪をなおして、にっこり笑ったりしてみて顔のストレッチをする。


 そして、静止画を切り替えると、僕の生配信がはじまった。


『キターーーー』

『すきぃ~』

『おおおおおおおおお』

『イケメン』

『パチパチパチパチ』


 コメントが画面を埋め尽くして、僕が見えなくなる。このタイミングで僕が席を立っても誰も気がつかないんじゃないかな? なんて遊び心をくすぐられる。


「おまたせー。聞こえてる? おっけ?」


『聞こえてる』

『美声』

『おおおおおおおおお』

『イケボキターーーー』


「あいあい。いらっしゃいませーしゃっせー。えーっと。まずは自己紹介からしてこうか。……そのあと質問コーナーするからね! 時間あったらアルバムの裏話とかできたらな~って思ってるよ」


『質問:好きなタイプは!』


「はえーよ笑」


『質問:アルバムの発売日いつ』

『質問:もう歌わないの?』


「発売日とか後で告知するから! 僕は今回歌ってないよー」


 質問まだだって……せっかく説明したのに、まったく聞いてないとか……正直うざったい。


「自己紹介とかいらない? もう知ってる? 僕の事」


『しってるー』

『すきー』


「(ほんとうかな?)」

 僕は、ひたすらに努力して、追いついたかと思ったら離されて、マイリス一つ増えるたびにニヤけちゃって、それでも追いつけない奴がいて……気がついたら奴の曲を作るようになっていて、モチベーション保つために自画自賛して……。そんな僕を、みんな知らないでしょ? 


 僕は秘密ばっかり抱えて、嘘ばっかり口にして、そのくせ寂しがり屋で。

 そんな本当の僕を知ったら彼女は軽蔑するかな?

 それでも、彼女のことを知りたい気持ちと同じぐらい、彼女に僕を知ってほしいって思っている。

 だって、そうすれば、連絡がなくっても、繋がりを保てる気がするから。

 とはいえ、全部。みんなには秘密だから。僕は戯言をつづける。

 

「それじゃー、質問コーナーやるぞー」


 そのとき、スマホが震えて通知が入った。もしかすると、彼女からのメッセージがついに来たのかもしれない。

 配信中にも関わらず、僕はアプリをタップした。

 …………。

 ……。

 NEXT▶▶

毎週末に投稿していけたらなと思っています。

よろしくお願いします!


第5話 4/8公開予定

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