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第14話「一人ではできないことも、みんなでなら」

 店内に奴の下卑た笑い声が響く。聞いていてワクワクドキドキしたのは最初だけで、いつのまにかラブストーリーは自慢話に変わっていた。それでも奴の話は新鮮で、聞いていて飽きない内容だった。


 ほどなくしてお水が運ばれてくる。


「お待たせしましたー。ごゆっくりー」

 よほど酔ってみられたのか、大ジョッキになみなみ注がれたお水がテーブルに置かれた。氷は少なめでとストローが刺さっている。細かいところまでお気遣いいただきありがとうございます。


 火照った身体に、キンキンに冷やされたジョッキで、新鮮なお水を流し込む。

 ゴクリゴクリと喉を鳴らすと、自然とリラックスして、肺の深いところから息がこぼれた。


「「「ッかぁ! うんめぇなぁ~オーイ!」」」


 三人の男が揃って同じセリフをくちにした。


「ふごぉっ!? や、やめてぇ~っ、もうそれは忘れてぇ」


 それを聞いた僕らは、健康な笑い声を店内に響かせる。


「ンでよォ、偶然だったんだよな。もうよ運命感じちゃったわガハハハ」

「ちょっとした奇跡ですね」


「てか、お前がノパトナ引退したらアイデンティティ皆無じゃん。大丈夫? あっ、ほら影薄くなってるよ? ほんのちょっと」

「なわけあるかッ」


 このノパトナってのは僕らが考えた言葉で、ノーパートナーの略だ。カノジョカレシがいない独り身の状態、孤独を強がる負け犬を指す。みんなも使おう。ひとりじゃないよ!

 みんなにもきっとどこかに運命の人はいるさ。 大丈夫だよ、なんせ奴にだって相手が見つかったぐらいだしな。


「私おもったんですが……そのカノジョさんって……もしかしてライブ会場にきてました? ぐっ、グヘヘ」


「――ッ!?」

 キミのその顔、もしかして……まさか控室にいたあの子のこと言ってる??


 いやいやいやぁ、あの子は男の娘だよ? それに歳だってかなり下にみえたけど……いやまてよ? 奴のことだ二次元と三次元をゴッチャにして、ダメな方向に進化してしまった可能性も微レ存か? そも奴には二次元のキャラ以外との恋愛経験がないわけだし。


 ……そういえば奴の好みって、聞いたことないな。


「なぁお前の好みってどんなんなの? 急に興味わいたわ」

「チミチミ? なに今さら言ってん、まえにも言ったじゃねェか。年下で小さくて可愛い系の美少女」


「フォヌカコポォオオッおッおッお~っ香ばしくなってまいりましたあっ! おっおっおっーッ」

「二次元の話じゃなくてさ、現実の話。実際はどんな子が好みかってきいてんの僕は。あとキミは少し落ちつこ? よだれ拭いて」


「あン? 二次元だって三次元だってかわんねェよ。俺はそーいう差別しねェの。……つってもまぁ……カノジョはちょっと違ったかな。タイプってかなんつーか」


「コホォ、そ、そそそれは、好きか嫌いでいえば好きだけど、現実は色々と違っていたということでしょうか? せ、せせせいべつとか!?」

「あーそれそれ。たぶん会ったら驚くとおもうぜ」


「あっ、これアタリですね。ごちそうさまでしたあぁぁぁ……ふぅぁぁぁ」


 かお! 顔やばいって。満ち足りた表情しながら遠くを見ないで!


「おちついて! まだそうと決まったわけじゃ……それマジで?」

「まじまじ、まじ卍。ちょい、いま連絡するよ」


 奴はそういうが、いまだに信じられない。僕はその事実を受け止められないでいる。


「……ぐぅえへへへ。あるんですね、こういう奇跡って……」


 でも、あの子と奴が付き合っていると仮定すれば、キッズが関係者以外は立ち入り禁止の控室にいたのも説明がつくな。ノンケじゃなかったのね……。


 そこに噂の主がふらりと登場した。


「よばれてとび出て、じゃじゃじゃじゃあーっ!! あのときの、おねーさんとおにーさんだ~っ! わーい」


「おめでとうございまっ! 私応援しますよ! 応援させてくださいっ!!」

「ま、まじかあああああああああ」


「わーい、ありがとーっ??」


「ン? おめでと……ハッ!? おいいいいいッッッ!!! ちっげぇええよ!! そういうことか今わかったわッ!! ちっげええよ? ったく姉ちゃんどーした?」


「おねえちゃんはいえでねてるよー? メイク道具わたされて家から追い出されたのーっ代わりにやってきてーって。休日は部屋から出たくないんだって」


「はア? んなはず。俺……今日一日ずっとメールしてたしよ……ライブの感想とかも……」


 すると、少年のポケットからピロリンッと電子音が鳴る。


「あーうん。メールの相手もおねがいされたのっ……ごめんねぇーでもいうこときかないと、おねえちゃんあとで怖いから……あはははっ」


「 あのオンナァアアアア!!! 」


 どうやら、そういうことらしい。奴のカノジョはちょっと凄い神経のヒトなのかもしれないな。


「ちょっおまっ、ええええええええ!? ンー??? 私にもわかるように説明してくださいっ」


「こいつ弟。カノジョのな」

「 ちょっとォォォッォォ!?!? 嘘つくなんてヒドイ! 興奮を返してッ 」

「しらん! 勝手に変な妄想するのがワリィんだろーがッ! おまえのカノジョだいじょーぶか?!」


「まぁそうだよね。そういうことだよな。ちょっと安心したわ……」

「んー? どういうことっ? あっそういえば、興奮で思い出したんだけどねこのメールの『ぬらすんじゃねェぞ』ってなんのことだったの? ボクわかんなくてテキトウに返信しちゃったんだけど……きょう雨降ってないよねっ?」


「ぶッッッ!」

「ズズズズウウーーーッ!? よ、世の中のリア充は、そ、そそそそんなことされているんですかっ? デュフフコポォ」

「いや、コイツだけだよ。ノパトナ長いとこうなる」


 ライブの途中になんてメールしてんだコイツは……。僕が彼女を追いかけている裏では破廉恥な事情が繰り広げられていたとか台無しな気分になるよ、ホントにさ。


「……ん~っ。あれ、寝落ち……しちゃって、た……なにかあったっス?」

「あーいや、いろいろあったけど、どれも説明するにはくだらない内容だから大丈夫」


 もがき暴れる奴と変なテンションになった彼女が騒いで机をバンバンしていると、それに起こされ、酔い潰れて寝ていた彼が目を覚ます。


「ちっくしょぉがァア!! 飲み直すぞ! てめぇら全員朝まで付き合えッッ」

「……ん~っ。おっけーっス! いきましょー……ふぅあああっ」

「っしゃあ、グラスもて! オラッ、オマエなんか言えよな、音頭とれ主役だろォ」


 無茶ぶりにも程がある。僕は、いきなりのことに戸惑い、小さく声をもらした。

 そもそも、そんなに飲み会の経験もないし、こうして打ち上げに参加することもしばらくなかったから、何を言ったらいいのか考えがまとまらない。


「えーっと、今日は僕のワガママに付き合ってくれてありがとうね。おかげで彼女とこうして出合うことができたよ」


 僕は彼女の手を握り、その目をまっすぐと見つめる。なんだかこはずかしくって、つい目を反らしたくなってしまいそうになるけれど、頬を赤く染めながらも彼女がこちらを見てくれているうちは、絶対に視線を反らさないぞと必死にみつめかえす。


「ッたく、オマエらいつまで見つめ合ってんだよ……すすめろーッいつまでも飲めねーじゃねェか」

「いいじゃないっスか~こんなの滅多にみれるもんじゃないっスよ?」

「……まあそーかもな。絶滅危惧種みたいなもんだしなコイツら」

「ひゅーひゅーっ! おにーさんたち顔まっかーっ」


「や、やめて笑」


 思い返せば、たくさんの人がファンとして応援してくれて、何年振りかのライブだというのに、あれだけ大勢が来てくれた、僕はいつからか一人で曲を作っている気でいたけれども、それは間違っていたんだ。


 背中を押してくれた奴がいて、助けてくれたキミもいて、歌ってくれる彼もいた。そして、完成した楽曲をいいねと言ってくれるファンがいる、それはすごく嬉しいことだ。

 今日改めて、みんなが認めてくれて、喜んでくれて、受け入れてくれた。


「……みんな本当にありがとう。そして、これからもよろしくお願いします!」


 これは間違いなく、僕一人ではできなかったことだとおもう。


「んだよ、柄にもなく、あらたまりやがって。オマエもその『みんな』に入ってんだぜ? そうかたくなんじゃねェ」

「うん。ありがとう……。……ライブの成功を祝し、て……」


 あーいや、違うな。


「こうして、みんなであつまれたことに感謝してッ! ――」


 高くかかがられたグラスを重ね、僕たちは心の底から互いに感謝の言葉をうたう。



「「「「「――みんな、ありがとうっ!! 」」」」」



 そう。一人ではできないことも、みんなでなら、なんだってできるんだ。




 ―― fin?


 …………

 ……

 【あとがき&おしらせ】▶▶

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