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第12話「つながり」

 奴からマイクを受け取って、観客席に向かって改めて挨拶をする。


「おまたせー。ただいまーもどってきたよ! ちょっと聞いてくれる……? みんなにも知っていてほしいんだ――」


 唐突に自分語りを始める僕に、はじめはみんな驚いた様子だったけど、丁寧にそして赤裸々に、これまでの出来事と経緯を説明するにつれて、みんな真剣に聞いてくれた。


 観客席は時おり、キャーやらワァーなんてざわついて、僕のことは勿論、彼女のことをみんなに紹介した。

 彼女と僕は、SNSで繋がって、アルバムで絆を育んで、今日はじめて出会ったんだ。


「――とまぁ、長くなったけどこんな感じ。んで、彼女が……そう」


 スポットライトの一つが僕から分かれて、となりに寄り添う彼女をスッと照らす。


「えっっと、そうです私です。いま流行りのゴーストライターです……なんて、へへへ。……あのぉ気に入っていただけたでしょうか……アルバムの……歌詞。頑張ってみたんですが……」


 シーンとするなか、不安そうな彼女が顔を上げる。

 すると、地面が、揺れた。


 天井から釣り下がったライトが落ちてしまうんじゃないか心配になる。それほどに、すごい声援だ。彼女が挨拶しただけで、今日イチの盛り上がりを更新してみせた。


「うぉぅふっ!?」


「ホラ。心配いらんかったでしょ」


「(き、緊張したぁ。でもよかったぁ……めちゃ感動だよっ!! ふぇへえっへっへ……な、泣きそっ……)」

「(泣かないで、わらって)」


 彼女を見ていて、不思議と、はじめてライブした時のことを思い出した。


 あの時の僕は、ガッチガチに緊張してしまっていて、足は震え、手は汗でびっしょりだ。心臓はこれでもかってぐらい激しく鼓動していたのに、身体には血の気がなくって、寒くもないのに鳥肌が立っていた。ファンの歓声が耳の奥を突き刺してきて、重低音が心臓の鼓動をかき消す中、ワクワクとプレッシャーで右も左も分からなくなってしまった。


 そんな不思議な感覚だったのを覚えている。

 僕にとってこれは初ライブではない。でも僕たちにとってはコレが最初で、今後どうなるかなんて誰にも予想なんてつかないけれども、願わくは今後も繰り返したいキッカケのライブだ。

 しっている。わかっている。ここまでこられたんだ、きっとうまくいくし、これからもきっと……大丈夫だ。


 やっとはじまった。スタートラインに立つことができた。それだけで満たされてしまって、何をするか忘れてぼーっとしてしまう。


「ど、どどどどうしよ。語彙ィーっ! 私なにすればいいんですかねぇ?」

「うーん、どうしようか笑」

「えっ?! リードしてっ! わっかんないからホントに!」


 舞台の袖から奴が両手を左右に広げるジェスチャーをして、時間を稼げと指示しているのが見える。


「あー。セッティングもう少しかかるっぽいわ……」


 僕に気づいてもらおうと必死で、アピールしている。大またで腰を低くしながら両腕をフルに使うものだから、相撲取りがツッパリをしているようにもみえて、思わず吹き出しそうになる。

 正直マイクパフォーマンスは得意な方ではないんだよな。


 奴からすれば、場をトークで繋ぐなんて、ちょちょいのちょいだろう。そうでもなければ、僕が中抜けして彼女を追いかけることを、あれほど快く承諾してくれなかっただろうしな。

 ……あとでお礼しなきゃ。


 とはいえ、まいったな。


「あーっと? ええぇ、今日はきてくれてありがとね! って……それはもう言ったっけか?」

「うそでしょ? ヘタクソすぎませんかね?」


 うるせー皆まで言うな笑

 キミにいいところ見せようと、これでも必死になんだい!

 普段からたまにちょいちょい黒くなるよな彼女。……でも、それも嫌いじゃない。むしろ彼女っぽくて好きだ。ツッコミが率直すぎて、ハートが痛いのはアレだけど笑


 ……って、そうじゃなくって、なにか……話さなきゃ……。


 オロオロしながらも、話のネタがなにかないかと探していると、あるものが目についた。 見間違えなんかじゃない、それは確かに見覚えのある物だった。

 それは、いままさに求めていた、救いの手。


「ぎゃぁあああ!!??」


「 みてみてーアルバムかったよー! 」

「 ウチにまいかった! 」


「ぎゃぁあああ!!??」


 観客の中に、例のアルバムをわざわざ持ってきている人がいて、ステージから見えるように上に掲げて手を振っていたのだ。


「おー持ってきてくれたんー!? わざわざ?! ありがとー! ちなみに他にもおる?」


 すると全員とまではいかないが、かなりの人数がつられてアルバムを取り出した。

 これだけ大勢に大事にされていることが、驚きで、嬉しくて、感激で、感動のあまりなみだぐんでしまう。さっき彼女に泣かないで、と言ってしまった手前、僕は必死で涙をこらえる。


「ぎゃぁあああ!!??」


「 さいこーですた! 」

「 歌詞泣いた! よかったよー 」

「 めちゃすこ! 」


「ぎゃぁあああ!!??」


 大きさにして15センチ四方のプラスチック。そう言ってしまえば、とてもちっぽけに思えるかもしれない。

 それを手荷物に足すぐらい、正直いって造作も無いことだ。CDケースなんて、たかだか100グラム程度の重さで、厚さ1センチにも及ばないのだから。

 でも、そのアルバムは僕たちが全力で創ったもので、特に僕と彼女にとっては、強い思い入れがある大切な代物。


 そのアルバムをライブ会場に持って来てくれた。

 そして、こうして一緒に共有してくれている。喜びを、衝撃を、感動を、それも、こんなにも大勢が!


「うぉふ。めっちゃ感動ですっ! なにこれ。きょう私、誕生日だっけか……ありがとうございます!」

「ありがと! ほんとにみんなありがと!!」


 こんなに嬉しいことはない。


「ほんとに……よかったぁ。やってよかったぁ……作詞してよかったぁ……キモチを言葉にしてよかったぁ……続けてきて、ほんとうによかったぁ。ご、ゴーストサイコーだっ!」


「僕は、キミに会えてよかった」

「んなッななな何を……」


「スランプサイコーだ! ……なんてね」


 はずかしそうに俯く彼女を見ていると、つい視線が手元にいった。

 不思議と緊張もせずに、さりげなく、それが当たり前のように、スッと伸ばした手が彼女の手に触れた瞬間、僕の心臓はほんの少しの間鼓動を忘れた。


 視線を顏へと向けると、頬を染める彼女と目が合う。時が静止して、音が消え去る。僕ら二人だけしかこの世界に存在していないんじゃないかと錯覚してしまうような、とても壮大で満たされた贅沢な一瞬。


 ああ、これが所謂、恋愛感情ってやつかも。きっとそうだ。好きとか愛とか、平凡な言葉しか思い浮かばないけれど、この感覚はそれに間違いない。


 ずっと抱いてきた感情が、現実となって全身に満ちる感じだ。

 ずっと一緒にいたい。

 そう確信した。

 もう二度と、この手を……彼女のことを離したくなくなってしまう。


「……準備できたみたいだ」


 舞台袖で奴が両腕を大きくつかって丸を作りながら満面の笑みでこちらを覗いていることに気がついた僕はそういうと、そっと目をつぶってから呼吸を整えるように小さく深呼吸をする。

 ついにこの瞬間が来たんだと覚悟を決める。そして。


「……きいて。……新曲――」


 この曲にはタイトルがまだ無い。何故なら、彼女のために作った曲だから。この曲を歌うたびに彼女を想えるように。この曲を聴くたびに僕を思い出せるように。

 きっと次にこの曲を歌う時には、タイトルは決まっているだろ。なぜなら……この曲には、僕たちの名前を付けたいとおもっているからだ。

 少しクサすぎる気もするけど、ミュージシャンなんてのは、ベッタベタでロマンチストってのが相場なのさ。


 とはいえ、呼び名がないと曲紹介もできないから、今日のところは仮に、こう呼ぶとしようかな――


「――キミの言葉は僕だけの秘密……ッ」


 声援でいっぱいになる。それを打ち消すばかりの音圧で伴奏がはじまる。

 楽器の演奏に紛れて、耳元に彼女の笑い声が聞こえてきた。


「(っぷ……自分でいって恥ずかしくないの?)」

「(ぜんぜん。キミは恥ずかしい?)」

「(ちょっぴり……。うそ。めちゃくちゃ恥ずかしいっ! だってみんな見てるよぉ……また逃げ出しちゃう……かも)」


「(そしたら、この手を引くよ。もう一人にはしない)」


 僕は彼女の手を握りしめ、間違いなくそこにある存在を改めて確認した。

 口元にマイクを近づけて、大きく息を吸い込む。

 そして――――


 …………

 ……

 NEXT▶▶

つづき はもう少し待っていてほしいんだ。


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