第11話「自己否定のキミ」
「ーーッ!?」
一段と彼女の顔が赤く染まる。耳まで赤くなっているのが、とても可愛らしい。
「…………。あ、あの……なんだかすいません。ほんっと私……」
手を伸ばせば届きそうな距離だけども、頬に手をかける勇気などなく、それでもこの気持ちを形にしたくって、僕はそっと彼女の頭に手を乗せた。
「あっ……」
あまりの触り心地にうっかりそのまま、なでりなでりと手のひらを滑らせると、不思議と心が安らぐ。
「――ッ!? ふぉぬかぽォオオッッ! なななッ!? こほォ」
「あッごめん、つい! 髪、さわられたら嫌だよねッ」
バカバカ! あまりの触り心地で、何やってんだ!! うわぁぁぁぁぁぁぁッ変態したーッ!!
「い、いやでは……ないです。むしろ幸せっスうぇっうぇ。ただですね、ちょっと……心臓に……フォォーー」
お互いに、なんだか照れくさくなってしまい、目をそらして俯いて頬を染めた。
そんな僕らをよそに少年はメイク道具をかたづけている。いつまでも小学生に気を使わせるわけにもいかない、伝えるべきことを早く伝えよう。
顔をあげて、再び前を向く。
「わ、私っ!」
「ぼ、僕……」
ぴったりと息が合ってしまい、言いかけた言葉をのみこむ。どうぞどうぞ、と譲ってしまうあたり、僕は本当に気が弱い。
「私って……ずるいんです。はじめてメッセージもらった時から、だったらいいなと想像膨らませて、そのくせ実際に誘われても、自分から断って……素直になれなくって……いっつも逃げてばかりで、その度に助けてもらって……今日だって、せっかく手を差し伸べてくれたのに……どうしていいか分からなくなっちゃって……びっくりしちゃって、気がついたら廊下にいて……」
「うん。わかってる」
「嬉しかったんだ。ほんとに吐きそうなほど嬉しかった。素敵なサプライズ……夢みたく嘘みたいな出来事。でもダメだよ……きっと。……素人に毛が生えたような新参作詞家だしさ、私っ」
「そうだね。こないだも納期ギリギリだったしな」
「そう! 毎日残業残業で12時過ぎたら普通のバアさんだから無理もないって、思ってるよね……情緒不安定で、ライブ誘われたぐらいですーぐ舞い上がるチョロすぎのポンコツアラサーOL……チョロコツよ、私なんてっ! ……どっ、どうせなら、もっと可愛い子がよかったよね……? スタイルいい美人なおねえさんが、よかった……よね? だから……私なんかじゃ、隣に立てないよ……とてもじゃないけど釣り合わないよぉ」
「まぁね……案外小さいんだなぁっとは思った笑」
「でゅふぇ。で、ですよねー。身長だけじゃなくて存在もちっぽけなんで、ほんとすいません……ひとりじゃ何もできなくって、誰かに見つけてほしくって……繋がって、救われて、それだけで……会ったことない相手のことを――」
「全部。知ってるから」
「え」
「言葉から伝わってきたよ。全部。好きなことも、嫌いなことも、趣味も、性格も、顔も、きれいな容姿も、だから一目でキミを見つけられたんだよ? 他人と比べる必要なんてないよ。僕にはキミしか見えてないから…………ずっと前から愛してる……」
「……だから……いっしょに、うたって」
「 はいっ 」
僕のとなりにはキミがいて。僕のなかにもキミはいて。きっとキミのなかにも僕がいる。
「こんな素敵なことってないね」
「この服、変じゃないですかね? 大丈夫っす? シミとかねぇですか?」
「って、はなし聞いてないでしょ笑 だいじょーぶ。これでもかってほど似合ってるよ」
「んぉふっー……なにそれ天使かよっ」
「キミがね」
「ぴゃーやめろやめろーっ」
「あはははは」
いってらっしゃーい、と手を振る少年に見送られて、僕たちは控え室を後にする。
「(わわわわ……や、やややっぱり止め――)」
「(大丈夫。ひとりじゃないよ。僕が一緒にいるよ。だから一緒にいてほしい)」
ステージにもどると、大きな歓声が迎えてくれた。重なったスポットライトが一段と明るく僕を浮かび上がらせた。
奴が振り返ると額に汗が光っている。マイク片手に息を切らせて、それでいてどこか、ほくそ笑んでみえる。
「たっく、おっせーンだよ」
…………。
……。
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