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第10話「コスメボックス」

 涙を浮かべる女性の手を引いて、強引に人気のないバックステージに連れ込む男が、そこにいた。

「大丈夫大丈夫。誰もいないからいまのうち!」


「んのぉほーーっ⁉」

 他人に見られたら誤解されるだろうし、言い訳できない状態。

 展開のはやさについてこれなくて、彼女は目を回している。


「っと、ついたよ! ……ここ、だよ」


 ここに何があるか想像もつかない。それでも僕には迷いは微塵もなく、躊躇なく扉を押しあける。

「あっ? うっ……」


 ――やっちまった。


 扉が開ききると同時に、僕は自分の目を疑うと同時に、はげしく後悔した。

 控え室には先客がいらっしゃった。部屋には、少女が、控えていたのだ。


 透き通るような白い背中。ボタンが外され着くずされたデニムパンツ。骨盤から上に向かって滑らかなカーブを描くボディライン。上半身には遮るものがなくトップレス。ネイビーブルーのシャツとのコントラストが、純白の肌をより印象的に魅せる。


「ぅぁぁ ぁ あ あ あ っ っ ッ !? の、ノックして下さいーッ! き、着替えてますーッ!」


 見ればわかる。着替えているな。うん。

 胸元をシャツで隠しながら、恥ずかしがる少女の、サービスショットを目の当たりにして、僕はその場に立ちすくむ。


「…………」

 ノックしなかった僕が全部悪い。不可抗力とはいえ僕は最低の変態野郎に成り下がった。幼気な少女が潤んだ瞳でこちらを見つめている。

 オワ。オワッタ。オワイング。

 僕がクズになるまで1秒もかからなかった。


 ただでさえ大事件だというのに、僕の右手の先には……そう、彼女がすぐ後ろにいる。もうどうにもならない。終了確定ッ! 口からたましいを出しながら、ヒトとして尊厳を失うまでのカウントダウンを心の中ではじめる。


 ――3・2・1……


「わわわ私まだ心の準備がっ! できてま……あえ?」

 彼女の表情が面白いことになった。あんな顔もするんだなぁ。顔を見るたびに新しい発見がある。その度に、イメージ通りで、あぁ僕の知ってる彼女だ。なんて考えてみたりする。


「え? えっ? えっ?? ちょっ!? え!?」


 もうどうしていいかわからない。だれがこの状況を予想していただろうか。奴の用意してくれた、控え室というカードの使い方を間違えた気がしてならない。


「ご……ご、ごめん! まさか着替えてるとは思わなくて! その……本当にすいませんでしたあッッ」

 とりあえず、誠心誠意、謝っておくしかない。土下座だッ!


「あわわーっ!? お、おにーさん、何してるんですかーッ!? ボクこそ、なんだか、その……ごめんなさい。いきなりでビックリしちゃっただけなので、気にしないで下さい!!」


「そうはいかないよ……女の子のはだ、着替えを覗いちゃったわけだし……マジ、ごめんなさ――」

「ボク男だよ……あはははっ……」


「「うそやろ」」


「あわわーっ! ハモらないでくださいよー。ボク小柄だし華奢だからよく間違われるんですよねー。同級生にもからかわれるほどで……だから、大丈夫ですからっ、気にしないで下さいっ」


 少女は少年だった。彼はきっと俗にいう『男の娘』ってやつなのだろう。

「(ほんとにいるんだ……)」


 しっかし改めて見ても、シャツで胸元を隠す仕草から表情の細部まで、女の子にしか思えなかった。あられもない姿のままで見つめられるとドキドキするまである。


「えーっと。おにーさんとおねーさんは、忘れものですか? なんだか急いでるようにみえたんですけど?」

「あぁ。忘れ物とかじゃないよ。いうなれば『探し物』かな。ここに来ればわかるってしか知らなくて……」

「あっもしかしてコスメボックスとかですか? よかったら貸してあげますよーっ! あはははっ、そーだ! ボクがおねーさんの化粧なおしてあげるよっ! そこ座って!」


 ピンクの化粧箱を嬉しそうに抱えてはしゃぐ少年。やはり女の子なのでは……?

 そんなもの持ち歩いてる男なんて、普通いないだろ、常識的に考えて。



「あ、あのぉこれ……私いったいぜんたい、どんな状況なんでしょうか……? んーっ???」

 クエスチョンマークが頭の上に三つぐらい浮かんでいる彼女が座る椅子の後ろに立つと、少年はそっと肩に手を置いてにっこり笑う。


「あはははっ、安心してよおねーさん。ボクこーみえてオシャレ好きなんだっ! きれいにしてあげますよーっ!」


「は、はひぃ……ィ」

 混乱した彼女が、硬直してひきつった笑顔で、楽屋のハリウッドミラーと、にらめっこしているのが、少年の肩越しに見える。


 声には出さなかったけれども、大丈夫だよ、と口を動かしてみるも、その事に彼女は気づかなかった。


「おねーさん、肌きれいですねーっ!」

「ふぉおごぉ……そんなことないので、そんな見つめないで下さい……け、毛穴がぁひらくぅ~はずか死ぬ~」

「あはははっ! もっと自信持っていいですよーホントに綺麗ですからっ」

「そ、そそそうかな? ですか? そういってもらえると嬉しいなぁ。でもなんだか恥ずかしいです。えっへえ」


 時間にして五分ぐらいだろうか? いや、十分は経ってしまったかもしれない。


「はーい。おわりーっ!」

「おおっ! 自分でするより上手い! なんだかありがとうございますぅ……おろろろぉ、感動でまた涙腺が……」

「あわわーっ!? おねーさんガマンしてーっ、またメイク崩れちゃうー」


 赤面する彼女は、美人で、可愛くて、とても素敵だった。メイクもそうだけど、それ以前に彼女自身とても素敵なんだ。


 そうして、僕が見惚れていると、ハリウッドミラー越しに彼女と目が合った。

 今度は声に出して、ハッキリとわかるように言葉を伝える。

「綺麗だよ」

 …………。

 ……。

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