表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート

わかっていたら (ショートショート81)

作者: keikato

 仕事から帰宅すると、玄関に見なれぬシャレた靴があった。

 居間から娘の声が聞こえてくる。

――アイツ、また靴を買いやがって。ちっとは辛抱すりゃあいいのに。

 娘の祐子は一人っ子のせいか、ずいぶんわがままに育ってしまった。そして気が向いたときに、フラリと我が家にやってきては気晴らしをする。

「私のこと、いまだにわかってないんだから」

 またダンナの悪口である。

 こうして我が家に来ては、いつも妻にグダグダとグチをたれる。

――まだ新婚三カ月だというのに……。

 今からこれでは先がおもいやられてしまう。

 重い気分で、オレは二人のいる居間に入った。

「お父さん、お帰りなさい」

 祐子が軽く手を振ってみせる。

「おう、来てたのか」

「ねえ、お父さんも聞いてよ。弘樹さんたらね、私のこと、ちっともわかってないのよ」

「また、そのことか。どうせ、しまいにはのろけるんだろ」

 オレは笑って返した。

 祐子はグチをこぼすだけこぼし、そして気分が晴れると最後は、いいかげんのろけてから帰る。ようは我が家が、ストレス発散の場となっているのだ。

「ちょっと着替えてくる」

 その場から逃げるように、オレは隣の部屋に行って着がえを始めた。

 祐子の声が聞こえてくる。

「あたしたち、五年もつき合ったのによ」

「うちは結婚して、三十年。それでもそうなんだからね」

「お父さん、いまだに?」

「ええ、ちっとも」

「ねえ、お母さん。お父さんみたいな男と、よく結婚したわね」

 話題が、なぜかオレに飛び火した。

「どうしてなんだろうね」

「どこかいいところがあって?」

「ないわねえ」

「顔だってあんなだしね」

 祐子の笑い声が聞こえた。

――あんな……とは、いったいどんな顔?

 失礼なヤツだ。

「そうよね」

 妻も一緒になって笑っている。

「ホント男って、女心がわからないんだから」

 祐子のため息が聞こえた。

――女心?

 女心がなんだ。

 弘樹君だって、オマエのことがわかってたら結婚なんかするもんか。わかってないから一緒になったんだろう。

――そうさ、わかっていたらこのオレだって!

 オレは心の中で叫んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあ、自分と結婚するわけではないので、相手に不足があっても文句は言えませんね~。
[気になる点] 大事に拝読して参りましたが、終点に来てしまいました。 まだ、ショートショートは増えますか? [一言] 他の作品も拝読いたします。\(^_^)(^_^)/
[良い点] ほのぼの系で面白かったです。 これはおそらく実体験にヒントを得たのではないでしょうか。 男も女も一皮むけばホントとんでもないですからね。 主人公の最後の悲痛な叫び、いやに耳に残ります。(^…
2018/03/08 08:29 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ