リオルカの頼み
あれから少し経った頃、日が落ち始めて、私はリオルカにどこへ帰るのかと聞いた
「何故そんなことを聞くんだ?」
「何故って君、明日帰るだろう。ここは山頂、帰るには下山する必要があるけど、今の君には無事にしたまで降り切る力はないから…」
「待て!少し、待ってくれ」
下まで君を運んで行こう、と言おうとしたら遮られた。魔術も使えない丸腰の彼が魔物たちに襲われずに山を降り切るのは難しい。やたらめったら喧嘩を売ってくる魔物もいないわけではないので、特殊な魔力持ちの彼は気配が独特ゆえに狙われやすい。魔物はそういうのに敏感なのだ
また何か聞きたいことでも出たのかと首を傾げていれば、彼の口から飛び出したのは予想外の言葉だった
「俺を、魔術が使えるようにしてくれ」
「…は?どうして」
「俺にはやらなくてはいけないことがあるんだ。だから、力が欲しい」
真剣な表情で詰め寄る彼に、苦い顔をして私は目を逸らした。はっきり言って、彼の頼みは聞き届けづらいのだ。彼が魔術を使えるように施すことはできるし、この特殊な魔力でどう魔術を使うのか興味はある。けれどそれは、私にとってはただの暇つぶし程度のこと。それに、彼が魔術を使えるようになったら、私に害をなるとも考えられないわけではない
そこでふと、彼の瞳に視線を戻した。綺麗に澄んだ、青い、青い瞳が、どこまでも真っ直ぐに私を見つめている。邪なるものなど微塵も存在しないその瞳と睨み合いのような見つめ合いがしばらく続き、やがて私は肩の力を抜くように小さくため息をついた
「…わかったよ」
諦めたように項垂れながら了承の意を示せば、彼は口角を少しだけ上げて、胡坐のまま深々と頭を下げた。と、同時に、ぐうぅ…、と盛大な音も響いた
「…」
「……」
「………」
「…果物を肉、どっちがいい?」
「…肉」
「じゃあ何か獲って来るね」
初めて見せた彼の穏やかな表情の余韻に浸る間もなく、私はドラゴンの姿になってふもとの森へと飛び立った。にやけている?スルーしたまえ