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PupilleSegen  作者: モノグサ猫
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彼の魔力


「さ、これで普通に話ができるね。えっと、君がどうして魔術を使えないかだっけ?」


「あ?あぁ、そうだ。あんたは原因を知ってるんだろ?」



はぁ、よかった。話を戻すことができた



「まず、君が魔術を使おうとする度に暴走してしまうのは、君の魔力が濃いからだ」


「魔力が濃い?」


「そう。例えば君と他の人間が同じくらいの魔力量を使用してロウソクに火を灯すとしよう。その誰か他の人間は普通にロウソクに火が灯るだけだが、君の場合、辺り一面が焦土と化すくらいの炎を生み出してしまうんだ。量は同じでも威力が違うんだよ」


「… そういうことか。魔力の濃度… それならば納得がいく。だが何故、」


「毎回寝込むハメになるのか、だろう?それは暴走を止められず体内魔力を全て放出してしまったせいだろうね。そして、そういう魔力が空になって寝込んだ奴は大抵、体内魔力の量が増える。心当たりは?」


「ある」


「魔力切れを起こすと、体内で魔力を生成しようとする働きが活発になる。そうすると、発熱してすごくだるくなる。また、魔力を生成する働きが活発過ぎるもんで、体内魔力の許容量を越えてしまうから、結果的にその許容量が増えるんだ」


「そういう仕組みだったのか」



この人間、どうやら頭の回転が早いらしい。以前、獣人にも同じ説明をしたことがあるが、「よくわからん」と言われ、説明に何時間もかかった。あの時の自分は今でも、前世を含め過去最高に頭を使っていたと思う。獣人は感覚派が多く、その上身体能力において人族の中では最も優れているため、比例して魔力が少なく、知識もそれほど持ち合わせていなかったりするのだ。あの時は本当に大変だった



「ドラゴンというのは、あんたみたいに魔法に詳しいものなのか?」



過去を思い出してげんなりしていると、リオルカがいかにも好奇心から来る質問をしてきた。少し、考える



「どうだろ。元来ドラゴンは排他的で、自分と同族のこと以外に関心が無かったからね。膨大な魔力を有する以上、様々な魔法に関しての知恵は本能として生まれつき刻まれている。ドラゴンはそれを数年で理解し、知識とする。ただ、私のように明確な説明をすることができる者は多くない。生き残ってる他のドラゴンに論理的に説明を求めても、ほぼ確実に断られると思うよ」



人間の王城にいるという白竜はどうだか知らないが、今までに会ったドラゴンは大半が感覚派だった。身体の全てが魔力でできているようなものなので魔法は呼吸と同じくらい自然に使える。魔法なんて使えればいいのだから理解を深める必要はない、ということだ



「私が魔法に詳しいのは、他のドラゴンと違って好奇心が強いからってだけ。多くのドラゴンは感情が平淡だから、私みたいなのは珍しい」


「ドラゴンはまだ多く生き残ってるのか」



リオルカの問いに、場の空気が一瞬で凍りつき、冷えた。突然のことにリオルカは目を瞠る。彼の見つめる金色こんじきの瞳が鋭さを増していた。細められた金色が冷たく煌めく。必死に頭を巡らせたリオルカは、ハッとして両手を前に突き出した



「他意は無い!ただの好奇心で、それを聞いて何かしようとは思っていない!」


「どうかな。私は君のことをよく知らないから、君が腹の内でどんなことを考えているのか知るよしもないし、何より私は人間を信用してないんだ」



リオルカが即座に自分の発言の過ちに気付いたことは称賛に値するが、今言った通り私は人間を信用していない。前世が人間だったし、人間にだっていろんな者がいることは知っているから、人間を完全に嫌うことはできない。けれど、過去に人間のエゴによって同族を次々に殺されていった身としては、信用するなど無理な話だ。ドラゴンをモンスターか何かだと思い込んで殺していったくせに、いざドラゴンが人間を責めれば、自分たちのことは棚に上げて邪竜呼ばわり。その上、ドラゴンを殺した奴は勇者や英雄と呼ばれる。人間の身勝手はもうたくさんだ


あのひとはただ優しいだけだったのに



「ルシア」



かつてに思いを馳せ無意識に歯ぎしりしていると、リオルカが初めて私を呼んだ。澄みきった群青色が真っ直ぐに私を見つめていた。吸い込まれそうに綺麗な瞳だ



『誓う。嘘、言った、ない』



それは随分とカタコトな古代語だった。けれど、古代語で誓ったことは絶対に破れない。少しも疑う余地もない、紛れもない誠意だった

ぎこちない発音で文法もなってない。間違った単語や文法で誓ってしまえば大変なことになるというのに… 思わず苦笑を浮かべてしまった



「文法になってないけどギリギリ正解。そんな下手くそな古代語で誓うもんじゃないよ」


「だが、」


「うん、大丈夫。君の誠意はちゃんと伝わったよ」



人間や同族のこととなると、どうも感情制御ができないらしい。片手で顔を押さえ俯きながら深く息を吐く。肺の空気とともに、この憂いも吐き出せればいいと思った。三百年経っているのに、消えない憂いは私を締め付けているのだった

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