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PupilleSegen  作者: モノグサ猫
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出会い リオルカ

夢を見た


とても大きい真っ黒なドラゴンが、たくさんのドラゴンの死屍累々の前で泣いていた。声を押し殺して、水晶の涙を流していた



"許さねぇ… 許してなるものか…!"



強い憎悪のこもった声が響いた。同族を殺した奴らを憎む、怨嗟だった

あぁ、そうだ。このドラゴンはまるで、伝説の邪竜のような姿をしている


邪竜は、三百年前に一つの国を滅ぼし、ミスール王国までも滅ぼそうとした伝説を残している。当時は竜狩りが盛んな時代だった。邪竜は真っ黒な体で、とても大きかったのだそうだ。その伝説から、ドラゴンは人々にとって畏怖の対象となっている


だがしかし、ドラゴンの脅威から人間を救った者もまた、ドラゴンだった


現れたそのドラゴンは、邪竜とは対象的に真っ白な鱗であった。当時の第一王子背に乗せていたその白竜は、王子の願いによって王国に降り立ち、邪竜と数日に渡り死闘を繰り広げ、やがて邪竜は敗北し、力尽きて死に、白竜は王国の救済者となった

現在にも、その白竜と、邪竜討伐の後に王となった第一王子との間に生まれた半竜半人の白竜が王城で暮らしている。伝説の白竜は、王を看取って後、数十年後に死んだそうだ


伝説では白竜が正義の味方で、邪竜は悪者とされているが… もしかしたら、邪竜は同胞の仇を討ちに来たのかもしれない。ただ、仲間を殺さられたのが悲しかっただけかもしれない…




ゆっくりと浮上していく感覚。あぁ、朝かと緩慢に瞼を上げれば、視界に広がったのは晴れ渡る空だった



「 … なっ!?っ!」



あまりの驚きに思わず起き上がろうとすれば、全身に激痛が走り、体の下に敷き詰められていた草葉に倒れ込んで悶えてしまった。どうやらこの草葉の上に寝かされていたらしい。痛みのおかげでいっきに目が覚めら一瞬で状況を把握する


たしか俺はどこぞの暗部の奴らに連れて行かれそうになって、道中なんとか逃げ出して、一番追っ手をかわすに有効な手段としてミロカブリエ山に入り、そしたらヘルヴォルフの群れに襲われて、それで…



「ようやく起きたようだね、寝坊助くん。もう昼だよ」



唐突に人の声がして、また反射的に起き上がろうとしてしまい再び悶える。すると、クスクスと笑い声が聞こえて来て俺の視界にひょっこりと女が現れる。晴れ渡る青空を背景に俺を覗き込む女は、毛先になるにつれて黒から紺色に変わっていくという特徴的な髪をしていた。そして、瞳は瞳孔が縦に細長く、蛇のような金色の瞳をしていた



「やあ、人間。まだ起き上がらないほうがいい。今の君は薬を塗ってボロ布を巻いただけだから」



淡い微笑みを浮かべた女は、そばに座ると再び俺の顔を覗き込んだ



「さて、私には時間がたっぷりある。まずは君の質問に答えるとしよう。何から聞きたい?」



どうやら状況を説明する気はあるらしい。しかし「まずは」と言ったことから、女のほうも俺に聞きたいことがあるようだ。だが今はとにかく現状の正確な把握からである



「 … あんた、誰だ」


「なるほど、まずはそこからだね。私は… まあ、ルシアと呼んでくれ」


「 … あんたが俺を助けたのか」


「そうだよ」


「あんた、人間じゃないな。何者だ」


「ドラゴンだよ」


「 … 冗談ではなく真面目に答えろ」


「おや、酷いなぁ。本当のことなのに」



たしかに、ミロカブリエ山にはドラゴンが住み着いているという噂はあったような気がするが、眉唾物だと思っていた。それに、ドラゴンご人間の姿をしているなど、冗談にもほどがある



「ドラゴンの姿に戻ったほうがいいかい?こっちの姿なら君も話がしやすいと思ったんだけど」


「おい待て、ドラゴンは人間の姿になれるのか?」


「もちろん。あれ、君たちのところには白竜がいるはずだよね?」


「あぁ。だが、聞いたことがない」



俺の言葉に自称ドラゴンは数回まばたきを繰り返すと、考え込むように押し黙る。ややあって首をかしげた後、再び俺に視線を戻して「まあいいか」と呟いた。そして立ち上がると、数歩後退して、俺から距離を取った



「じゃあ元の姿に戻るけど、恐がらないでね?」



横になっている俺の目線よりも低い地面に立っているルシアが妙に柔らかな笑みを浮かべる。彼女は先程からなんとなく、目が笑っていない気がする


そして、次の瞬間、俺の双眸は見開かれた



「黒い、ドラゴン… 」



まるで、伝説の邪竜のような姿をした大きなドラゴンが、そこにいた

なるほど、伝説の邪竜ならば人間は誰しも畏怖するだろう。けれど、



「美しいな… 」



思わず、ため息のような呟きをこぼした。何度か見た王城の白竜は、たしかに神々しかった。美しいと思った

だがこの黒竜はそれを上回る

黒竜はゆっくりと、人二人分よりも大きい頭を動かし、顔を俺の目の前へ近付けた。金色の鋭い瞳が、俺を見つめる



「私は… 君の、その群青の瞳のほうが美しいと思うよ」



今までどことなく無機質だった声色が、その言葉だけは柔らかくなって、胸の奥がムズムズした


それにしても、この瞳を褒められたのは初めてだ。俺の瞳の青さは誰よりも深く、父の空色の瞳も、母の翠色の瞳も受け継がなかった。俺の知る限り、これほどまでに深い青の瞳を持っている奴は他にいない


この美しいドラゴンに称賛され、己の瞳に対する印象が、少しだけ変わった

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