リオルカ
男の名はリオルカ。彼は生まれつき、妙な魔力の持ち主であった
魔力量は一般的に才能ありと言われる程度のものだった。彼の住むミスール王国の多くの子供たちがそうするように、彼も魔術師を目指した
しかし、王国の学院に入った彼に問題が発生した。魔術を学ぶための初歩的な魔術が使えなかったのだ。魔力はあるにも関わらず、魔術が使えないということで、学院の教師たちは頭を悩ませた。そしてある時、事件は起こった
魔力の暴走である
攻撃魔術を試みた結果、演習場が全壊し、リオルカはしばらく寝込んだ。それから彼は暴走をおこしては寝込むことを繰り返し、やがて周囲から孤立していった
成長した彼は魔術研究者となり、己を理解しようとした
研究室に籠り、ほとんど独りきりで研究を進め、研究者として最高峰に昇りつめてしばらく経ったある日、彼はその知識と技術を目的に、隣国の暗部の者に攫われたのだ
隙をみて襲撃者たちから逃げ出したリオルカは、多くの魔物が住み着き一度入れば出て来られないというミロカブリエ山へ追手を撒くために足を踏み入れた。獣道をひたすら走り、やっと追手の気配がなくなったことに安堵して一息つくと、今度は脇の茂みからヘルヴォルフが飛び出してきた
ヘルヴォルフは凶暴な魔物で、満腹でない限り必ず襲ってくる。追手に負わされた傷の血の匂いを嗅ぎつけられたのだ
(くそっ)
リオルカは疲労を訴える足で再び駆け出した。時折ヘルヴォルフたちともつれ合い、傷を増やしながらひたすら逃げ回る。そして、ひらけた場所に出たところで、前方から新たなヘルヴォルフたちが現れ、完全に囲まれてしまった
立っているのも辛くなってきたが、意地でも倒れてなるものかとヘルヴォルフたちを睨みつけていると、不意にヘルヴォルフたちが揃って天空を仰いだ。突然の行動に、魔物どもに注意を払いながらも、自分も上空を見上げる。すると、大きな黒い影が黄昏の空を旋回していた
[竜、なぜ来た]
(!?)
頭の中に直接響くような声がした。カタコトの言葉がいくつも頭の中で聞こえてくる。どうやらヘルヴォルフたちが発しているようだ。それに、血を流し過ぎで視界がぼやけているせいでよく見えないが、上空で旋回している黒い影はドラゴンらしい。そのドラゴンのものと思われる声が頭に響くが、もうほとんど気を失いかけているために何を言っているのかわからない
やがてドラゴンの言葉を聞いたヘルヴォルフたちは一瞬で方々へ走り去って行き、直後、とうとうリオルカは膝を折ってしまった。霞む視界に大きな影が降り立つ。金色の二つの瞳がリオルカを覗き込んでいた
(綺麗… だな… )
美しい瞳を最後に、リオルカの意識は闇に吸い込まれていった