表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

これが異世界召喚ってやつですか

 こんにちは!

 私は美菜。つい先程、流行りの異世界トリップなるのものを体験してしましました!


 友人と歩いていたら魔法陣とおぼしきさむしんぐ。気づいたら森の中。なんというテンプレ。


 ええ、まずは落ち着きましょうか。

 吸ってー

 吐いてー

 吸ってー

 吐いてー

 うん、深呼吸おっけー!

 じゃあまずは右を見てみよー。

 …うん、実に緑が豊かな感じですね。平たく言うなら実に森!って感じですねっ。

 気をとりなおして左側を…

「ふわっ!?」

 心臓が止まるかと!

 視界いっぱいの至近距離に人の顔とかちょーびっくりですってばっっ。


 思わず奇声をあげて飛び退った私を見て、一瞬驚いた表情をして。

 それから。

 ほわ、っと。

 笑いやがりましたなんだよもうかわいいなああああああああああ!!!


「やっとこっち向いてくれたね」


 ぶふはっっ(吐血


 いやいや吐血っつっても心の中でですけどもね!?


 ちょこんと小首傾げてこっち見てるとかなんなんですかこの可愛い生き物さらっていいですかーーー!!


 はい、だめですよね。落ち着きます。むしろ落ち着け私。

 そうだ!落ち着くには深呼吸だ!!

 吸ってー

 吐いてー

 吸ってー

 吐い―


「美菜?」


 だから頬に人差し指当てて小首を傾げるとかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 だ、ダメだ!落ち着くとか無理!!

 この可愛い生き物を前にして落ち着いてなどいられるかぁぁぁぁぁぁ!!!


「みーな?」


 げふっ(吐血)


 だから上目遣いで見上げてくるとか反則でしょうがぁぁぁぁぁ!!!


「美菜、危ない」


 祐がそう言って。

 ドン、って。

 突き飛ばされる感覚。

 訳もわからずふっとばされて地面を転がって。

 その上を通過していく、ぶっとくて毛深い何か。


「森のくまさん、ってやつなのかなぁ」


 地面に転がってる私の前で、

 膝立ちになってる祐の前には熊がいて。


「たたたた祐、あぶな―」

「うん、危ないから、美菜は下がっててね」

「祐だってあぶな―」

「僕は大丈夫」

 熊の方を見たまま祐が言い切った。


「馬鹿っ、そんなこと言って、怪我でもしたらぶんなぐるからねっっ」

「ぶっ―」

 あはははははは、と。

 思わず私が言った言葉に祐が爆笑して。

「怪我した上に殴られるの?ひっどいなぁ」

 笑ったまま私を振り返って、そこから熊が―


「祐!!」


 あとはもうよくわかんない。

 祐がなんともないようにひょいってかわして。

 それから懐から出した何かで。

 熊の顔の辺りを一突きしたら。

 そのまま熊が倒れて。

 それっきり。


「たす、く…?」


「うん?なぁに、美菜?」

 くるっと振り返った祐は笑顔で。でもふんわりした笑顔じゃなくて、ちょっとぞくっとするような、ぞっとするような、よくわからない笑顔で。


「えっと、無事?」

「無事だよ、僕はね」

 ほら、と祐がちょっとよけてみせた先にはもう動かない大きな熊。

 私はぐっと拳を握って。

 ふらりと祐の傍に寄った。


 べち。


「いたっ!?」


「危ないじゃないの!!」


「うえええええ!?美菜を突き飛ばしたこと!?」


「違うよ馬鹿!!」


「え?え?」


「死んじゃったらどうするつもりだったのよーーー」


 もうなんか目からぼろぼろ涙こぼれるしっっ。

 でもでもだって!

 なんかよくわからないうちに無事になってるっぽいけどっ。

 でもでもちょっとしたことでし、死んじゃってたかもしれないってことでしょ、今の。


「祐の馬鹿ーーーー」


 うぇぇぇぇぇぇぇ


 声まで上げて泣いちゃって。

 でも涙も止まんなくって。


 そしたら、さ。


「ごめん、美菜」


 祐がすぐ傍に来てて。


「美菜は、俺が死ぬかもしれないのが、怖かった?」


「あったり、まえ、で、しょ。ばかぁ…っっ」


「そっか、あたりまえ、なんだ」


 祐がほわ、って笑って。


「うん、ごめんね、美菜」


 小さな手で、私の頭を撫でてくれたんだ。


 正直、私と身長なんてそんなに変わらないのに。


 なんだかすごくほっとした。


「ねぇ、美菜」

「?なぁに、祐」

「美菜は、俺が、守るからね」

「…危険なのは、禁止」

「…ん、わかった」


 そしたら、どっちからともなく笑いだしちゃって。

 巡回に来た騎士のお兄さんに驚かれちゃった。


 そりゃそうだよね。子どもたちが熊の死体の前で笑ってんだもの。

 普通に怖いっての。



 そう、これが。

 私と祐の。

 異世界を巡る旅の、始まり。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ