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竜の唄  作者: ナル
第一章 転生
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6話 竜のスペック

 この世に生まれてからもう半年は過ぎただろうか。

 相変わらず火を噴いて魔力を調整、歌を歌って過ごしている。

 その他は食って寝てるだけである。


 今は成長中だからか、歯が痒くなるのでそこらに転がる岩を噛み、痒みに耐えている。

 数回噛むと岩が砕けてしまうので、もう俺の寝床は砕かれた小さい石だらけだ。

 出来ればもっと固くしっかりした石が欲しいがそれは高望みというものだろう。


 しかし俺は才能が白紙とはいえこの体はどうなのだろうか。

 指の爪先にも神経が通っているかのようなレスポンスの良さ。

 まるで手足のように動く尻尾。

 魔力の流れから空気の流れまで視覚化して見えてしまう眼。

 いくら噴いても底が全く見えない魔力量。

 眠くはなるが疲れを感じない体。


 以前一日中火を噴き続けた事がある。

 出入り口用の大きく開いた穴に向かって朝から日が落ちるまで火を吹いていたのだ。

 だが魔力が尽きる気がしない。

 眠たくなってしまう方が先だった。


 母親がそれを見て大騒ぎしていたが、彼女は俺にとても甘いので参考には出来ない。

 全身を使って喜んでくれるから勘違いしそうになるが他の竜の子も同様の事は出来るだろう。


 なにせ魔力を練り上げ、喋る練習をしていた時、「おかぁしゃん」と一言言えた瞬間、母は眼を見開いて鼻から火を噴いた。

 彼女ほど大きな体格の竜が作る火は、いくら鼻からだったとはいえ凄まじい威力のものだった訳であわや大惨事となる所だった。


 俺は火傷も負わず、頭から岩にめり込んだ程度で済んだが父親がたまに大事そうに集めてくる光り物が全て灰になった。

 俺が生まれてくる前から集めていたようで結構な量もあり

値打ちもありそうな物もあるようだったけど……。

 被害は父親がもろに被った訳だが、一日中興奮していた母を責めることは出来なかったようだ。


 竜も涙を流せるのだ。

 新発見である。


 話が逸れたが彼女はそれほど我が子に甘い。

 何をしても褒めちぎってくれるだろう。

 なので彼女の言う事を鵜呑みにすると自分で言うのもあれだが危険だ。

 おごらずに出来る事をしコツコツと成長しなくてはいけない。


 でも俺の成長を喜んでくれるのは素直に嬉しい。

 地球にもあった『成人式』。

 竜にもそれはあり『成竜式』というらしい。

 名前から転生者が関わっていそうな気がしなくもないがいにしえの時代からその儀式はあるらしい。


 成竜式は15年に一度行われる。 その晴れ舞台にはまだ時間はあるが

そこで両親が我が子を誇れるように日々努力をしなくては。

 失望させたくないと考えるのはこの両親の子供だという自覚が芽生えてきたからだろうか。


 とにかくやれるだけの事はやりたい。

 思うに今出来る事は竜の体が本来持ち得るスペックなのだろう。

 比較対象が30歳の人間という事もあるがあの運動不足の体に比べれば竜の体はあまりにも優秀だ。

 だがそれは他の竜の子も同じという事。

 この先は努力で決まるはず。


 才能ポイント白紙がどう影響するのか分からないが、数字で人生(竜生)が決まるとは思いたくない。

 なので今日もまた火を噴いて歌うのだ。


……これも努力だと信じたい。









 とある岩窟。


 海に面した崖がある。

 そこに歪に削り開けられた縦長の穴。

 外から一見するとただの亀裂に見えないこともないが、その中には大きな空洞があり

そこに二頭のつがいが住んでいた。


 竜の巣。


 陸地を好む飛竜が海の近くに縄張りを張り、そこに巣を作るのは珍しい。

 竜が住み着いた際、海岸近くに住む先住民達は新天地を求めて旅に出た。

 だが飛竜が他者を気にする事は無い。


 逃げるのならそれも良し。

 立ち向かってくるのなら夕食が一品増えるだけだ。 なにも問題はない。

 二頭の番はなんの苦労もなく巣の周辺を縄張りとした。

 これから生まれてくる子供のため、より上質な餌を用意する為ここを巣に定めたのだ。


 その竜の番は二頭共、緑色の鱗を持っていた。


 竜はその生態上、生涯にたった一度しか卵を産めない。

 なので成竜式に合わせて卵を生む。

 15年後に再び来る成竜式で匂いを覚え、同年代で仲間意識を持たせ番を作るためだ。


 訳あって生後15年そこそこでは卵を生む事は出来ないが、良い縁を見つけ

そこで番となり、年月を共に育む事で卵を生む決意を固める。

 独身であれば独身同士で番を求めればいい。

 それこそ竜の寿命は長い。


 成竜式とは仲間の匂いを覚えるという目的もあるが、そういった番を引き合わせ

新しく生まれた子供達のお披露目を見て卵を生む決意を固める場でもある。


 長寿の種族は放っておくと気が付いたら絶滅寸前まで行ってしまうので先達の知恵なのだろう。


 そして先日・・の成竜式の後、覚悟を決めた一組の夫婦がいる。

 以前から考えていたものの最後の一歩が踏み出せなかった。


「いいのか?」

「覚悟は出来てるわ」


 心配そうな声で妻に声を掛ける夫。

 それに対し強く頷く妻。


「卵は絶対に俺が守る。 安心して産んでくれ」

「大丈夫よ。卵を産んだとしても死ぬ訳ではないもの。 私だって守れるわ」


 竜種は長寿だ。 だが一頭が二度卵を生むことは出来ない。

 ゆえにその卵になにかあると母親は長い一生の孤独に耐えられず

卵を失った母親のほとんどが自害する。


 飛竜にとって天敵と言える存在はほぼいないとされている。

 まれに縄張りを無視する飛竜はいるが、彼らとて自分の縄張りから出る事は滅多にない。

 空では敵なしなのである。


 だが卵は別だ。


 栄養価が高い卵を狙う動物はそれこそ巨万ごまんといる。

 中には知能を持たない動物もいて、愚かにも卵を狙い竜の巣に潜り込む者もいるかもしれない。

 卵を食べられた後、その愚か者に止めを刺しても遅い。


 そういった不注意を防ぐ為にも二頭は朝と夜の交代制で見守り続ける必要がある。

 卵が孵化するまでおよそ一年。

 その間、二頭は命懸けで卵を守る。







 緑色の竜の産卵が始まった。


 彼女が今感じているのは体の根底にある魔力を引き剥がす痛み。

 人の身でそれを経験したのであれば工程の五分の一も耐えられず命を失うだろう。

 いかに竜とて痛みに強い訳ではない。

 むしろ耐えられる土台があるというだけで天敵も少ない飛竜にとって、体を引き裂く程の痛みなど未知のものである。


 それが波を打って徐々に大きくなり先ほど感じた痛みをさらに超え、

より大きな痛覚となって脈々と襲い掛かる。


 際限なく強くなる陣痛。

 竜の出産は例外なく全て難産だと言われている。

 その状態を時間にして二時間以上耐え続ける必要があるからだ。

 身を引き裂き、魔力を引き裂き、自身の意識をも引き裂く。

 その痛みは気が狂うかと思う程。


 だが意識を失う事はしない。

 その先で母親としてしなければならない事がある。

 我が子のために必ずしなければならない祝福。


 竜が一生に一度しか産卵出来ないと言われる本当の理由。

 それをするまで意識を手放してはならない。


 例え今、死んだとしてもこれだけはやり遂げなければならない。


 砕けそうになる意識を無理矢理繋ぎ合わせる。


 もう少し……


 あと少し……


 それまではなんとか意識を……







 父親が今生まれたばかりの卵を大事そうに抱え、その卵を母親の胸元へ運ぶ。

 既に母親の意識は無い。

 呼吸は浅く、荒いが命に別状はないだろう。 

 気絶しているだけだ。


 だが意識を失う前に祝福は成功したようだ。

 母親はなんとか最後までやり遂げる事が出来たのだ。

 その証拠に彼女の鱗は白く変色している。


 竜が卵を産む際、鱗に蓄えた魔力を卵に全て注ぐ。

 そうして卵の中を魔力に浸し、より強く頑丈な子供にする。

 鱗に蓄えた魔力を栄養源にして次代へ繋げる。


 鱗の色は竜の格を示すもの。

 白から黒へ。 自身の魔力が強ければ強い程、色は濃くなり黒くなる。

 その色で自らの強さを誇示し、力が全ての竜種にとってそれがどれ程の意味を持つのか。


 竜の鱗が一度色を失うともう二度と色を帯びることはない。

 鱗自体は生え変わるが失われた魔力が戻る事はない。


 竜種の寿命は長い。 卵を産むと決めた時、母親は白い鱗で生きる決意をした。


 白い鱗は母親の色。

 この日黒い鱗を持つ竜よりも、尊い鱗を持つ竜が誕生した。



 そしてこの翌日、赤い鱗を持つ竜と、青い鱗を持つ竜が

こことは違う岩窟にある、竜の巣で同じ決意をする事になる。

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