第一章ー6
悠奈と貴人も簡単に未来に自己紹介をしたところで津々良が悠奈と未来の事で質問する。
「悠奈先輩と未来ちゃんって六王家同士なのに面識なかったんですか?」
「あ、それは……」
未来が何処か言いにくそうな顔になる。
それを見て悠奈が訳を説明する。
「基本的に六王家は頻繁に情報を共有しあったりしてて、ある程度付き合いがあるものなんだけど……ウチがちょっと特別で、あまりそういった繋がりが無いの」
「あぁそうだったんですか……」
悠奈の言葉にややこしい事情があると察したらしい津々良は罰が悪そうに下を向く。
そこに悠奈が
「まあ大した理由じゃないよ。父も頑固な人だから協調性がないというか……」
と津々良にフォローを入れた。
「でも確か水月って去年の神無月祭に他の高校から出てるって聞いたんだけど?」
この話を終わらせるように貴人が話題を換える。
悠奈の事に貴人が口出しするつもりは無かった。
「あ、あれは私の姉です。わ、私の姉は聖高校の三年生です」
貴人の疑問に答える未来。
聖高校とはウィザード養成の学校の一つである。
夢ノ丘と聖以外にウィザード養成の学校は竜峰、雲海、三つ葉があり、神無月祭はこの学校の五つで行われる。
去年の総合順位は竜峰、聖、夢ノ丘、雲海、三つ葉、の順である。
「あー、未来の姉ちゃんだったのかー。個人戦一位だったんだよな確か」
「す、水月家屈指の才能の持ち主、と言われてますから」
誇らしげに言う未来。
実際、未来の姉は水精霊という二つ名があるのを貴人は知っている。
二つ名が付けられるのは相当な実力者のみである。
六王家の当主達ですら二つ名持ちは半分しかいないのだ。
ただ単に本気を出したことがないだけの場合もあるのだが。
氷上家当主の弦がそれである。
実際なら二つ名持ちだろう。
「なんで未来は聖に行かなかったんだ?」
「お、お姉ちゃんが私が聖に来ちゃうと、そ、その、学校のパワーバランスが崩壊しちゃうからって……」
「あぁなるほど……確かに六王家が二人も出場となるのはちょっとな……」
六王家らしい理由に貴人は苦笑する。
結局夢ノ丘に六王家が二人いることになってるのだが。
「でも、たしか竜峰に六王家の人が二人いた気がするけど」
悠奈は思い出したように貴人に告げる。
しかし貴人には心当たりが無い。
「いたっけ?」
「いますよ、火賀家の兄弟が。去年の神無月祭はあの二人の力もあって竜峰が総合優勝しました。ていうかなんで私が知ってるのに先輩達が知らないんですか?」
津々良の最もな問いに
「去年の神無月祭は何もみてないからなー。悠奈と出店回ったり家でゴロゴロしてたから」
「あの時のたこ焼き美味しかったよね〜」
と答える貴人と、その時の光景を思い浮かべてる様子の悠奈。
貴人が未来の姉が個人戦で一位をとったことを知っているのは愛斗から聞いた情報だ。
「み、三日もあって一つも見てないなんて……」
未来は呆れた風に言った。
神無月祭は三日間行われ、一日目にチーム戦、二日目にタッグ戦、三日目に個人戦という日程なっている。
五月祭も同様の日程が組まれている。
「てことは、MVPの事も知らないんですか?」
「MVP?」
津々良の言葉に反応する貴人。
津々良は呆れた風に
「やっぱり……MVPというのはその大会で一番優秀だった者が選ばれるんです。賞金も出ますね」
と言った瞬間、貴人が目を輝かせる。
そんな制度は知らなかった。
「賞金!?そんなものがでるのか!!」
「いちおう……」
「お、お姉ちゃんがお金もらって来てました……」
「まじか!」
貴人は未来の言葉にさらに目に輝きが増す。
未来の姉がMVPだったことは気にも留めない。
「さすが世界警察だな。これはMVPをとるしかないな!」
いきなりテンションがあがる貴人。
ちなみに神無月祭、五月祭ともに世界警察日本支部が主催している。
「でも……今年は今までで一番を争うほど激戦ですよ?」
喜んでいる貴人に津々良は無情な言葉を告げる。
「竜峰は火賀兄弟が今年も出場しますし、聖には未来ちゃんの姉が、さらに雲海の三年には土門家が一人と今年から風城家の人が入学しましたし……」
「なんで今年はそんな六王家が多いんだよ……」
さっきまでのテンションから一転、MVPへの道のりは長そうだと貴人は溜息をついた。