第一章ー5
「失礼します!」
礼儀正しく津々良が部屋に入って来た。
「ようこそ、ANK部へ!」
悠奈は歓迎する。
部屋に入りながら津々良は全体を見渡していた。
この部屋には生徒会室のソファにも劣らない三人は余裕で座れる程立派なソファが二つ、さらに一番奥には会社の社長が使いそうな机と椅子が鎮座している。
その他にも冷蔵庫やテレビなどがあり、ここで生活することも出来る程色々なものが置いてある。
ANK部(あなたの願いを叶えますの略)とは悠奈と貴人が一年の頃結成したものだ。
部とはいうが二人しか所属していないため実際は同好会である。
つまり部費は出ていない。
なのになぜこれだけのものがあるのかには理由がある。
ちなみに貴人が部長で悠奈が副部長だ。
「どこでもいいから座って〜。今お茶とお菓子を用意するから」
「すごい豪華ですね……」
悠奈がお茶とお菓子を用意していると津々良が話しかけて来た。
「これ全部依頼して来た人達から頂いたものなんだ〜」
誰かの依頼を達成した時に、その人から報酬として何かをもらう、というのがANK部の方針であり、同好会が成立している理由である。
今まで色々な依頼があった事を悠奈は思い出す。
「それにしてもこのソファとその机は凄すぎる気が……。一体どんな依頼だったんですか?」
「猫探しだよ」
「は?」
津々良は悠奈の言葉に聞き返す。
「といってもその依頼主がうちの父だったりするんだけどね」
「あ、あぁなるほど」
つまり猫探しとは建前であってただ単に二人に買い渡しただけである。
津々良の顔に「親バカなんですね」と書いてあるのが分かった。
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雑談を少し交えてから、悠奈は本題に入ろうとする。
「それで津々良ちゃんはどんな依頼があるの?」
悠奈は先程までのさん付けをやめ、津々良ちゃん、と呼んでいた。
津々良も悠奈先輩と呼ぶようになっている。
「依頼と言うのは私は友人とタッグ戦のトーナメントにエントリーしたんですが、私の友人はとても強くて……だからトーナメントまでに私が足を引っ張らないよう先輩達に鍛えてほしいんです!」
「そういうことね、わかったわ。私たちも出るから一緒に強くなりましょう!」
津々良の言葉に快諾する悠奈。
貴人もその提案はやぶさかでは無いはずだ。
どっちにしろ練習はするつもりだったのだからだ。
「それじゃあ津々良ちゃんのペアの子も一緒に練習するのはどうかな?」
悠奈の言葉に頷く津々良。
「そうですね!まだ学校に残ってると思いますから呼んできます!」
そう言いながら津々良は元気良く小走りで出て行った。
悠奈が津々良の背中を見ながら呟いた。
「すごい元気ね・・・」
「本当すごいな・・・」
悠奈の隣でいじけていた貴人が起き上がった。
さっきまでの陰鬱な気持ちをようやく振り払ったようだ。
「それにしてもどんな子なんだろうね?津々良ちゃんの友達って」
「もしかしたら六王家かもしれないぞ?」
ははっまさかー、などと二人で笑いあっていると部屋のドアが開く。
部屋に津々良と一緒に入ってきたのは青色の髪をツインテールにしていて、人形のような顔立ちをした美少女だ。
「連れてきましたー。この子が私のペアの水月未来ちゃんです!」
「は、初めまして、つ、津々良ちゃんとペアの水月未来です。み、未来とよんでくだしゃいっ!」
未来の見た目と自己紹介に二人共言葉を失う。
「た、た、た、貴人!」
「ゆ、ゆ、ゆ、悠奈!」
二人の声がシンクロする。
「「キャラが濃い!!」」
ツインテールで恥ずかしがり屋でさらには六王家。
この子は強敵だ、と何に対してかは分からないがそう悠奈は思った。