第一章ー4
実技の授業も終わりーー
「よしっ、では最後に先程話した五月祭に出場するための予選トーナメントに参加したい者を募ろうか。但し一人が予選トーナメントに参加できるのは二種目だけだ。全部は出れんぞ。ではまずチーム戦に出たい者は手を挙げろ」
楓がこう言うとクラスの約半数の生徒が手を挙げた。
すでにグループは決めてあるのだろう。
貴人達Aクラスからは三グループの出場となった。
愛斗も手を上げていたが生徒会チームとして出場するらしい。
「では次、タッグ戦に出たい者」
こう言うと先程よりは少ないがちらほらと生徒が手を挙げた。
のだが
「ほら貴人!私たちも手を挙げるよ!」
「おう!任せとけ!」
貴人達が手を挙げるとそれを見た他の手を挙げた者たちは手を降ろしだした。
「あれ?なんでみんな手を降ろすんだ?」
手を降ろす理由が分からない貴人。
隣の悠奈も不思議そうな顔をしている。
「貴人と氷上が出るんだったら勝ち目が無いからに決まってるだろ……」
愛斗の言葉に周りも頷く。
貴人自身も納得出来た。
貴人達というより、六王家の悠奈の影響だろうが。
「えぇ〜そんな〜」
悠奈は残念そうに言う。
実際残念なのだろう。
「まあ、対戦相手が減ったって事でいいんじゃね?」
そんな悠奈を慰める。
少し面倒くささが軽減されて貴人は内心喜ぶ。
「コホン、それではこのクラスからは一ペアだけだな。……しかし千凪が自分の意思で出場するとは以外だったな……」
「え?」
楓がボソッと呟いたのを貴人は不審に思う。
嫌な予感がする。
「あーその千凪?非常に言いにくいんだが……お前は今年も出場したがらないだろうと思って実は勝手に個人戦にお前をエントリーさせちゃってた。テヘペロッ」
「テヘペロじゃねぇよぉぉぉ!何勝手にエントリーしてくれちゃってるんだよぉぉぉ!」
貴人はテヘペロの顔を作る楓の言葉に突っ込む。
美人がやると様になる。
しかし、今そんな事を考えている暇は無い。
「仕方が無いじゃないか!お、お前みたいな逸材が名も知られぬまま消えて行くなんて私は不満だったんだ!」
「そんな後付け誰がしんじるかぁぁぁぁ!」
「ほ、ほんとに決まってるじゃないか!」
「で、本音は?」
「担任の生徒が好成績を残したらボーナスがちょっとだけ出るらしい。テヘペロッ」
「その金でなんか奢れよちくしょぉぉぉ!」
「テヘペロッ」
「テヘペロうぜぇぇぇぇ!それで許されると思ってるのも腹立つ!」
こんなやりとりもあり貴人はめでたく(?)個人戦にも出場することになった。
ちなみに貴人が出場すると知って他の人たちは個人戦に出場しようとはしなかった。
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放課後
「貴人っ!今日は活動するよね?」
「あぁ、活動。ありましたね、そんな事も。 懐かしいですね」
まだ個人戦にでなくては行けない事に対するショックから立ち直れてない貴人。
全てが億劫だ。
「もうっ、そんなに嫌ならすぐ負けちゃえばいいじゃないっ」
「そ、それとこれとはまた話が別で……」
悠奈の言葉に貴人はしどろもどろに返答する。
確かに個人戦に出るのはとてつもなく面倒くさい、しかし、だからと言ってわざととはいえ負けてしまう所を悠奈に見られたくない。
悠奈はああは言ってるが本当は自分が負ける姿は見たくないはずだ。
だから負けられない。
けど面倒くさい。
この考えがジレンマを生じさせていた。
はたからみればとてもくだらないことなのだろうが。
「もう本当面倒くさいね貴人って。ほらっ行くよ〜」
「あ〜」
悠奈に腕を掴まれ、引きずられながら教室を後にした。
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第三会議室、そこが貴人と悠奈の活動拠点である。
「着いたよ貴人」
悠奈は自分が引きずってきた貴人に向かって言う。
そこに
「あの〜、先輩達が千凪さんと氷上さんですか?」
と少女が貴人達に話しかけてきた。
「はい、そうですけど……もしかして何か依頼しに来たんですか?」
「はい!私は一年の船佐津々良です!」
そう言いながら津々良は微笑む。
短い茶髪、焦げ茶色の瞳、血色の良い肌をしたボーイッシュな少女である。
「津々良さんね。私は氷上悠奈よ、よろしくね。この大きい人形みたいなのが千凪貴人よ」
「人形って……」
悠奈も自己紹介をする。
まだ貴人は目が死んでいたので人形扱いにした。
「まあ、とりあえず部屋に入ってから話を聞くわ」
そう言いながら悠奈は貴人を連れて部屋に入った。