第一章ー13
津々良達の初戦も終わり、第七試合まで何事も無く進んでいた。
次はいよいよ貴人と悠奈達の試合である。
二人は入場口にスタンバイしていた。
そこに貴人達の対戦相手がやって来る。
貴人は対戦相手を見て驚く。
なんとそのうちの一人は生徒会会計の海だったからだ。
「や、やあ千凪君に氷上さん」
「会計の嶋先輩じゃないっすか。もしかして初戦の相手って……」
対戦相手を確認していなかった貴人。
「確認くらいしといて欲しかったなぁ……」
「ははは……ところで先輩のペアはこの人ですか?」
貴人は海の隣にいた女性に視線を向ける。
制服のスカートの丈をおもいっきり長くし、長い銀髪でガムを噛みながら鋭い目つきで貴人と悠奈を睨んで来る。
分かりやすく不良をしている。
でも怖くない。
「あぁ?なんだテメェやんのか?」
「こ、こら寧々、失礼だよ。ごめんね二人とも、この子は三年の高倉寧々《たかくらねね》。僕の従兄弟なんだ」
「従兄弟……」
悠奈が海と寧々を見比べる。
従兄弟だから余り似る要素はないのかもしれないがそれにしても似てない、そんな感想を抱いているのだろう。
「おい海!私の事を寧々って呼ぶんじゃねぇ!」
「はいはい」
テメェ、寧々が睨むが動じない海。
「すげぇ、嶋先輩がいつもより強気だ……」
いつもとは違う強気な海を見て驚く貴人。
どうやら寧々の扱いに慣れているらしい。
そこに貴人と悠奈が自己紹介をする。
「初めまして。二年の千凪貴人です」
「同じく二年の氷上悠奈です」
「ふんっ……三年の高倉寧々だ」
寧々は視線を合わせずに返す。
「ご、ごめんね無愛想で……」
「いえいえ、寧々先輩は恥ずかしがり屋なんですね」
「てめぇ、私の事を寧々って呼ぶんじゃねぇ!それに恥ずかしがり屋じゃねえ!」
「はは、ごめんなさい」
怒鳴る寧々だが貴人は軽く流す。
海とのやり取りを見てある程度寧々のキャラを理解出来た。
そうこうしているうちにアナウンスが響く。
「それでは選手は入場してください」
「さあ行くぞ悠奈!」
「うん!」
ーーーー
「そろそろ貴人君達の試合が始まるね!」
香が声を弾ませる。
「嶋君も出るからどっちも応援しないとね」
「ところで、この嶋先輩のペアの人ってどんな人なんですか?」
愛斗が問う。
「不良見たいな格好をしている女の子だよ!嶋君の従兄弟でもあるね!」
「そうね……あの子は一番下のクラスなんだけど、それは実技の授業を一回も受けてないからそうなっているの。だから実際はどのくらい強いのかは分からないわね……」
「未知数ですか……」
香と阿澄が質問に答える。
愛斗は親友の姿に目を向けた。
ーーーー
入場口から入場して来た貴人と悠奈に歓声が上がる。
「あれが六王家か〜!めちゃくちゃ可愛いじゃん!!」
「やめとけ!あの二人はラブラブバカップルだぞ!」
「二人ともラブラブパワーみせてくれよー!!!!」
「二人とも頑張って!!!」
一年生は悠奈に目を惹かれるが二年生、三年生は校内一のバカップルと知っているためすこし冷やかしが混じった声援を送ってくる。
貴人達のクラスメイトも必死に声援を送ってくれる。
一方海達の方は
「あ!多分あの人生徒会の人だ!」
「え?あんな人いたっけ?」
「あの女の人不良みたいで怖い」
「目を合わせたら殺されるぞ!」
と声援ではない言葉しか聞こえていない。
「はは、みんなひどいよ……」
落ち込んだ様子の海。
昨日もずっとこんな調子だったなぁ、と貴人は思い出す。
「そんな事でクヨクヨすんな!しっかりしろ!」
海に喝を入れる寧々。
寧々は全く動じていないようだ。
四人が向かい合う。
「第八試合を開始してください」
アナウンスが鳴る。
貴人達の初戦が始まった。