神様になりたかった猫
ある所に一人の猫がいました。猫は真っ黒な体をした黒猫でした。周りには様々な色や模様をした猫や犬や、他にも色々な生き物がいましたが、全く黒一色の生き物は黒猫一人だけでした。猫は他の誰かに合わせる事ができなくて、何時も一人でいました。
猫は空想する事が好きでした。空想の中でならどんな事でも出来たからです。その内猫は考えた事を紙にかくようになりました。ある時は絵で、ある時は詩で、ある時は物語で、自分の空想をえがきました。
空想の中で、猫は神様でした。空想の中のどんな事も猫の思いのままでした。
…でも――ある時、猫の世界は周りの生き物たちに壊され、踏みにじられました。否定され、嘲笑されました。
猫は、神様になりたいと思いました。誰にも否定されない、立派な神様になりたいと思いました。けれど、猫にはもう、空想の世界をつづる事が出来なくなっていました。
猫はもう、空想の世界の神様にもなれなくなっていました。
猫は空想を描く事が出来なくなっても、絵だけは描き続けました。美しい風景の絵だけを何枚も、何枚も、何枚も描き続けました。それでも、その絵に生き物が描かれる事は一度もありませんでした。
空、平原、森、海、川、湖…様々なものを描きましたが、生き物は一度も描きませんでした。
実際に他の生き物がいようといなかろうと、猫は生き物を描こうとはしませんでした。ただ、目の前にある物だけを描き続けました。
ある時、猫は聞こえてきた音楽に足を止めました。
その音楽には、世界がありました。猫はすぐ、その世界に引き込まれました。
猫は自分が空想の世界で神様だった時の事を思い出しました。その音楽の様な世界を作りたいと思いました。
猫は絵筆をとって、思うままにキャンバスに叩きつけました。心の中の何かを吐き出すように、一心不乱に筆を動かしました。何度も何度も絵具を塗り重ね、色を混ぜ、塗りつぶし、何かを描き続けました。
気が付けば、それは黒い猫の絵になっていました。黒い猫の周りには、様々な色の、沢山の生き物がいました。それらは皆、楽しそうに笑っていました。
猫は自分が何をしたかったのかがわかったような気がしました。
周りの生き物たちは猫の世界を見て、肯定したり否定したりします。でも、猫はそんな事は気にしませんでした。猫にとって大切なのは、猫の世界を描く事と、できればその世界を誰か他の人にも楽しんでもらうことだったからです。
誰が猫の世界を否定しても、猫の世界は猫の世界なのです。それがわかった今、猫は周りの評価など気になりませんでした。
猫の風景画に、生き物たちが描かれるようになりました。彼らは皆生き生きとした表情を浮かべていました。笑ったり、怒ったり、泣いたり、いずれも絵の中で生きているようでした。
猫は、空想の世界で何もかも自由にできる神様に戻る事はできませんでした。
けれど、自由にかけるための翼を取り戻す事はできました。全てを思うままにできなくても、その思いを思ったままに表現できるのはいい事だと猫は思いました。
猫は再び猫の世界を描く事が出来るようになりました。空想の世界を描く事が出来るようになりました。猫はもう神様になれなくたっていいんだと思いました。猫はもう神様になれなくたっていいんだと思いました。ただ、猫の世界を自由に描く事ができればそれでいいんだと思いました。




