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24時50分

作者: 水樹雫
掲載日:2026/09/02


 24時50分 土曜深夜の車中デート。

 知らない人が見たら、大好きな彼とこの時間までゆったりデート♡ なんて最高にハッピー! と思うかもしれない。ところが、私の場合想像するような『最高』とか『幸せ』なんてものはない。

 肝心の彼は、運転席(私の隣で)で爆睡中。



 彼はブラック企業で働く若手社員。新入社員ではないけれど心配になるくらい働いている。


 土日休み? そんなの嘘。土曜出勤は当たり前。残業するのが当たり前。だけど『残業するな』も当たり前。残業の記録を残さず日々裏で仕事をしている、いわゆる社蓄と言われるたぐいのもの……もごもご。


「そんなの適当にやればいいのに」

「そこまでやらなくて良くない?」


 私が何を言っても無駄。馬の耳に念仏。

 責任感が強く、真っ直ぐすぎ。

 へとへとになってもやり通す。

 根っからの真面目人間で頑固。

 そんな堅物の彼も、土曜日だけは早くに帰れる。とは言っても夜の9時。それでも私の為に時間を作ってくれるのだ。


 彼は必ず土曜の夜に、私の家に寄ってくれる。ちょうど職場と寮の間にあるからだ。だが、残念なことに私は実家暮らし。彼を家に上げることは出来ず、家の前に車を停めての車中デート。本来なら車のシートでなく横にしてあげたいのだけどね。


 そんなこんなの車中デート。デートといっても、コンビニで買ったジュースやお菓子を食べて他愛の無い話を1時間するだけ。だいたいそれくらいすると来るのだ。

 ────彼の睡魔が。


「ちょっと寝ていい?」


 彼の頑張りは1番良く知ってる。駄目だなんて、言える訳がない。


「飽きたら言って、帰るから……」


 その言葉を最後に、彼は眠りにつく。

 車の中は暗い。かろうじて街頭の近くだけど本を読むには暗すぎる。スマホを使うにもWi-Fiがない。出来ることと言ったら、車内に流れるラジオを聴くぐらい。


 ここで私は毎週思う。

 もしも私が別の血液型だったら、彼と一緒に夢の中に入れたかもしれない。けれど私はO型。枕が代わると眠れなくなるO型。大雑把、マイペースなどと、ガサツなイメージのある血液型だが、実は意外と繊細、旅行先で眠れたことなどありゃしない。しかもここ、外よ。ガラス一枚よ。強盗が来たらどうする? 熊が来るかもしれないし、隕石落下があるかもしれない! その時はどうしようもないけれど、どのみち心配で眠れるわけがないのだ。


 しかも自宅の目の前で、人の目もある。寝顔を他人に見られるのは絶対に無理!

 無理! 無理! 無理だー!



 そうこうしているうちにラジオの番組は進む。いつものCMが時刻を知らせる。そして番組の音楽が流れ、タイトルコールのタイミングもわかるようになっていた。暇だからちょっと小声でハモってみた。上手くハモれるとなんか嬉しい。


 普段の私はラジオを聴かない。

 こんなに長くラジオを聴くようになったのは彼と付き合いはじめてからだ。


 飽きたら起こして……だって?

 こんなに疲れているのに、中途半端に起こしたらそれこそ辛いじゃないか。

 どうせ明日は日曜日、きっと1日寝て過ごすのだろうけど、一体何時に起こせばいいのやら。これ、毎週悩むところ。めちゃくちゃ気を使う。いっそのこと自分で目覚めてくれたらいいのに。

 ああ、目の前に家があるのに入れない。お布団で寝たい。何より私はお風呂に入りたい。


 したいことは沢山あるのに、24時50分、ラジオを聴いて笑っている自分がいる。


 完


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