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第四話 配下のコミュニケーションも大事だよねって話

 シェリルとゲバルトが路地から出ると、ヴェアティがようやく追いついてきた。息を切らし、ふらふらになりながら、それでも全力で走ってきたようだ。羽があるのだから、飛べば良いんじゃないかと思うのだが………そうでもないらしい。どうやら、羽を使っても疲れるのに変わりなく、むしろ、使ったほうがさまざまな場所の筋肉を使うから余計疲れるとのこと。いったい今まで何していたのか聞けば、怪しげな捜索隊どもを追っ払って(殺戮の限りを尽くして)くれていたらしい。次回からは、もう少し目立たないように言っておこうとシェリルは思った。

 彼女らは、宿に向かった。事前に予約していたから、現在顔がバレているゲバルトを連れることになっても、引き止められはしなかった。どうやら、この世界も事なかれ主義が強いようだ。下手に手を出して死んだり目をつけられるよりかは真っ当に代金を稼ぐのが良いんだろう。

 案内された部屋に向かうと、シェリルは適当な配置を確認した後、すぐ部屋を出て行ってしまった。

「私は情報を集めてくるから───仲良くしておけ。しばし休むことだ、色々あったのだから……それぞれお互いを知ることは重要だろう。」

 彼女が去った後、部屋には沈黙が訪れた。お互い初対面かつ、別種族。あまり話に行こうと思わないのは当然かもしれない。気まずい時間が流れる。ひとまず、彼女らは足を休めるために椅子に座った。

 今は夜、外もすっかり静まり返り、それぞれが眠りにつく時間だ。そういえば、あの捜索隊はどうなったのだろう、とゲバルトは思った。また後日、シェリルがそれらを全滅させたことを知るが、それは別の話である。

 こんな沈黙に耐えられなくなったのか、それとも主人に言われた義務感からか、ヴェアティが話を切り出した。

「あの………シェリル様に従うって本当ですか?」

 まだゲバルトは警戒の姿勢を解こうとはしない。しかし、その言葉に答えるのはすぐだった。

「もちろん、従順に従わさせてもらう。約束したからな、俺の復讐を完遂するために。」

 タバコはないかと、部屋をうろつきながら、目線を縦横無尽に動かす。しかしそんなものが備え付けられていないことを知ると、悪態をつき、椅子に戻った。ヴェアティは目の前の元奴隷が敗北をせずに従ったことが不満なようだ。

「あなたはシェリル様の強さを知らないんです。きっとあの腕前を見たら、あなたの目的とか関係なしに従うようになると思いますよ。いつまでその姿を保てるのか見ものですね。」

 最大限の侮蔑を含んだ雰囲気で挑発の言葉を投げかける。ヴェアティは、あのときから盲信するがあまり、認められないということが解せないのだ。それは時として主人の意思と反することになる。

「………俺がそれを知る必要があるのか?少なくとも、あいつの実力なんて知ったところで俺になんの利もないし、それに俺は自分以外に関心を持とうとはしていない。それで俺の興味を引けると思ったか?穢れた血の小娘め。」

 穢れた血。それは魔族に向けられる侮辱の中でも一二を争う下劣さ。その言葉を向けられて理性で物事を考えられる人物はいないだろう。この少女も例外なく、顔を真っ赤にしてゲバルトに掴みかかった。

「その言葉はどういう意味か知っていてのものですか!?ええ、ここまで低俗だとは思ってもみませんでした。それほどまでに薄汚れた精神性なら、奴隷生活はさぞ楽しいものだったでしょうね!」

 ゲバルトもまた、ヴェアティに掴み掛かり、拳を振り上げた。そして、振り下ろそうとしたところで、手を引っ込めた。その行動にきょとんとしたのか、ヴェアティも先ほどまでの興奮は忘れ、蹴り倒してしまった椅子を直し、座った。やがて、ゲバルトは静かに語り出した。

「………生意気な娘ってのは、苦手なんだ。妹を思い出しちまうから───。はは、こんなことを言うのもおかしいが、お前、俺の妹にならないか。そうすればきっと───いや、なんでもない。そんなことをするのはどちらにも申し訳ないしな。ああ、もう分かったろう。俺はもうすっかり狂っちまった。どうだ、お前にもいるだろう、今すぐに自らの手で首を絞めてやりたい奴が。そうに決まっている、その目は!俺と一緒だ………。」

 半ば叫びのような言葉に、ヴェアティは怯んだ。途中反応をしようとしたのだが、それもゲバルトの自己完結で済み、必要ではなかった。だが、ゲバルトの告白に引っ張られ、ヴェアティも感情を吐露し始めた。

「もちろん、私にだってそういう奴らはいます───今すぐにでも、針で全身を串刺しにしてやりたい奴が、たくさんいます。あの時から私は落ちぶれ、一番じゃなくなり、認められなくなって───イライラする、何でこんなこと思い出してしまうんだろう、いや、思い出したほうがいいのか。あれらに受けた屈辱は永遠のものだから、その記憶もまた永遠である必要があるわけですね?ええそう、きっとそうに違いない。今もあいつらは生きているはず、ならば私の手で………やはり、こうして振り返ってみると、似てますね、ゲバルトさん。」

 こうして、少女と奴隷は手を繋ぎ、固い握手をした。いざ相手のこもった感情を前にしてみて、親近感が湧いたのだろう。もう先程までの反発心はなかった。そして、互いが復讐を大体の目的としていることがわかり、そして共にシェリルに従う───契約を結んだ───ことになったため、友情を築いていこうと、ゲバルトはヴェアティを抱き寄せ、友情のキスを………

「さて、仲をよくしろとは言ったがそこまでしなくてもいいんだぞ、まあ、仲が良いほどいいものかもしれないが、私がいる時は控えるように───」

 シェリルが帰ってきていた。服は血に塗れ、若干の疲れを見せているが、それでも笑顔は崩さない。そして、彼女が今の行動を見ていたと知ると、ヴェアティとゲバルトは顔を赤くし───片方は青くし───必死でそのような関係でないことを言った。終始笑顔だったシェリルだったので、その言葉が真実だと信じてくれたかはわからない。

「ところで、それはいいのだけれど……。」

 シェリルは落ち着いて地図を取り出す。そして指差した先には、とある王国があった。

「吸血鬼の街。今では独裁的なリーダーが支配しているらしいけど、なんだかちょっと小突けばすぐ崩れそうじゃない?と言うことで次の狙いはここ。準備をしなさい。」

 元奴隷と魔族の少女は、了解と告げると、各々身支度を始めた。そんな二人が思っていたこと。それは、ちょっとでもいいから寝かせろよ、だった。

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