第二話 世界を掌握するための足がかり
この世界には、どうやら能力というものが存在しているらしい。私は転移者なためそのようなものは持ち合わせていないが、ヴェアティは持っているらしい。自己満足によって強化される能力らしい。彼女の言うに、今まで非力さで長女たちに虐められてきたから、その能力を発動できなかったということらしい。"らしい"ばっかりだが、私はこの世界について何も知らないので仕方のないことだろう。
シェリルとヴェアティは馬車に揺られながら、この世界についての会話をした。この世界には天霊族や魔族、変虫族などがいること。今、天霊族と魔族は関係が非常に悪いこと、古くから続く宗教国家が最近力をつけてきたこと、改造手術の技術が発展してきたこと。逆に、シェリルから話したこともあった。元の世界では便利屋だったこと、身体強化施術を受けて身体能力が上がっていること、それと、この世界での目的。元の世界の様子も話した。ヴェアティの顔色は青ざめた。
春の柔らかな風が吹き抜け、私たちは街へと着いた。当然金は一銭たりとも持っていなかったため、代金は踏み倒した。私をか弱い少女と思ったことが運の尽きだったな、当分ベッドからは出られないだろう。金がもらえないと分かった途端襲いかかってくるから悪いんだ。
街には活気が満ちていた。人が多く存在し、昼だというのに灯りがついている。これは、なかなか拠点を置くのにふさわしい。シェリルとヴェアティは明るい街を歩く。時々、ヴェアティに視線が向く。その視線は好奇によるものか、恐怖によるものか。街中に魔族が突然現れたわけだから、少なくとも普段通りに済ますものはいないだろう。やはり、どこの世界にもイチャモンをつけるド底辺は居るものだ、そしてこの世界には奴隷商がいることも聞いていた。魔族の少女の奴隷など売ったら、さぞ高い値がつくだろう。ついでに人間の美しい少女も捕まえられるなら一石二鳥だ。
街を歩いていると、二人の大男に絡まれた。とても気色が悪い顔をしていて、軽蔑にあたいする。私は顔がいいやつしか好きじゃないんだ、一刻も早く目の前から消えて欲しいものだ。彼らに私たちが絡まれているのを見ると、街の過ぎ去る人々は言葉をヒソヒソと並んで歩く人に呟きながら、こちらに同情と嘲りの目を向けている。終わりだな、なんて言葉を吐いた奴もいた。
「ちょっとこっち来ねえか。良いもんあるからさ。」
ニマニマした笑顔を向け、シェリルたちに手を伸ばす。それを、シェリルははたき落とした。みるみるうちに、悪漢二人の顔が怒りで赤くなっていく。ヴェアティはこの状況に狼狽えているが、シェリルは堂々と彼らを睨んでいる。
「ヴェアティ、やってしまえ。」
シェリルは一歩下がり、怒りに染まった大男の相手をヴェアティに投げた。
「え、そんな私の力じゃっ───」
「……私の部下が弱いとでも?私が直々に部下にすることを許したのだから───あなたのことを認めてやったのだから、そんな雑魚程度頭を潰して終わらせなさい、私の一番目の配下さん。」
自信満々に、なんの躊躇いもなく、そう確信を持っているかのようにシェリルは命令を下した。そして、彼女は私の出る幕はないだろうとでも思ったのか、近くのベンチに座った。それを見て、ヴェアティは初めて自分が認められたことを実感した。この魔族の少女は、もとより自分が特別なことに喜びを見出すタチだったのだ。そして、その本質をシェリルはあの馬車の中での会話で暴いてしまったのだ。
今にも大男の片割れがヴェアティにつかみかかろうとしたその時、その大男は片腕を押さえて───いや、片腕があった場所を押さえてうずくまった。べちゃりと音がした方を見れば、血を流す腕が周囲に水溜りを作っていた。その光景が信じられないのか、怒りに感情を任せ、残った男が声を荒げる。
「お、おm───」
満足した。非常に満足した。ヴェアティは、初めて自らが力で優っていると実感した。だから、もっと強くなる。もう一つ、今度は頭を狙って、少女の細腕は振るわれた。
「もういい。十分だ。」
頭の弾け飛んだ大男の死体と、片腕を無くしうずくまるばかりの情けない男の姿を見て、シェリルはヴェアティを呼び寄せた。
「こ、これで良いでしょうか……?」
「ああ、素晴らしいな。一体なぜここまでの力を認められなかったんだ………皆嫉妬していたのかもしれんな。」
シェリルはヴェアティに向かって微笑み、一緒にベンチに座るよう促した。そして周囲の目線を気にせず、ヴェアティにキスをした。魔族の少女は白い頬を赤く染めた。
シェリルとヴェアティは再び街を歩き始めた。しかし、彼女らに向けられる視線は先ほどとは変わった。確実に恐怖の視線を向けられている。
「ヴェアティ、さっきの活躍、見事だった。以降も私のために働くこと。」
「はい、よろしくお願いします。」
こうして、ヴェアティは完全にシェリルに忠誠を誓うことになった。これは恐怖による支配ではない。ヴェアティの心の底にある欲望を認め、満たしてやることで勝ち取った、好意の支配だ。そして、何事があろうとこの支配が解かれることはないだろう




