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職場の地味OLが、幼馴染みの俺にだけ距離ゼロで甘えてくる件【ネオページ 現代恋愛 新作人気6位(2/14時点)】  作者: マルゲリータ鈴木


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4/10

二日酔い朝食に感動する、幼馴染み

「麗佳、朝だぞ。起きろ」


「あ、頭が痛い……もう少し寝させて……」


 昨日は相当たまっていたのか、愚痴も酒も止まらなかった。

 結局そのまま酔いつぶれて、介抱しながら連れて帰り、うちのベッドに寝かせた。


 ふと部屋を見渡す。

 ここは俺の部屋のはずなのに、麗佳の物があちこちに散乱していて、思わずため息が漏れた。


 最初はそれぞれの部屋で過ごしていたのに、最近はほぼ俺のアパートだ。

 週の半分はこっちで寝泊まりするレベルで入り浸っている。


 ――ベッドも持ってこようかな? 浩一にソファで寝かすのも申し訳ないし――


 本気で申し訳なさそうに呟いたときは、思わずどつき回そうかと思った。

 ちゃんと自分の部屋で寝る、って発想に至れよ。


 思い出すとまた腹が立ってくる。


 俺は無情にカーテンを勢いよく開き、朝日を麗佳の顔面に目一杯浴びせてやった。


「ま、眩しい……と、溶ける」


 まるでゾンビみたいにベッドの上を這いつくばり、朝日から逃げる。


「ほら、朝ご飯準備してるから来いよ」

「う、ういーす」


 頭が山姥みたいにボサボサのままの麗佳を引きずるようにして、リビングへ向かう。


「……え、すごい」


 テーブルの上の光景に、麗佳が思わず声を漏らした。


 湯気を立てた料理がいくつも並んでいる。


 琥珀色のしじみの味噌汁。刻みねぎと、ほんの少しの柚子皮。

 胃に優しい卵雑炊は白米じゃなく、さらさらの口当たりで、真っ赤な梅干しが一つ鎮座している。


 小鉢は二つ。

 薄切りトマトに塩をひとつまみ。

 すりおろし生姜をほんの少し効かせた冷奴に、大葉を添えた。


 極めつけに、グラスには透明で少しとろみのある液体――冷やした経口補水液。氷は入れていない。


「……どこの旅館これ?」

 

「お前が昨日しこたま飲んで、こうなると思ったからな。二日酔いに効きそうなもん作っといた」


 麗佳はふらふらと椅子に座り、真っ先にグラスへ手を伸ばす。

 ひと口飲んだ瞬間、目が見開かれた。


「……っ、あ、五臓六腑に染み渡る……」

 

「酒飲んだみたいな言い方するな」


 本来はうまい飯の感想でもあるから、使い方は正しいんだが、こいつが本来の意味を理解してるかは怪しい。


 次に、しじみの味噌汁。

 両手で器を包むように持ち、恐る恐る啜る。


「……うわ……しみる……。あったかいのが喉を通って……そのまま胃の奥に、とろって落ちてく……」


 味噌汁の感想だよな? 熱燗飲んだときの親父みたいだ。


 卵雑炊をひと口。麗佳は今度こそ、はっきり息を吐いた。

 次に梅干しを少し崩して混ぜる。

 酸味が立った瞬間、顔がほんの少し明るくなる。肩から力が抜けたのが分かった。


「はぁー……優しさが広がる。私の中のアルコールが成仏する。もう二日酔いなんて怖くないね。いくらでも飲める」

 

「簡単に成仏させるな。反省しろ。飲む量は考えろ。ほら、トマトも食え」


 トマトを口にした瞬間、麗佳の表情がとろーんと緩む。


「……やば……これ、最高……」


 もぐもぐ食べ進めるたび、目の焦点がだんだん合っていく。


「ゾンビか山姥が、だんだん人に戻っていくな」


 俺の軽口にも反応せず、麗佳は黙々と食べ進め――あっという間に平らげてしまった。


「ふー……ごちそうさま。ねぇ、浩一さ」

 

「なんだ?」

 

「朝ご飯も~、毎日食べに来たいな~」


「普段からこんな気合い入れて朝飯作らないぞ。今日は特別だ」

 

「それって……私のため?」


 頬杖をついて、にこっと微笑みながら問いかけてくる。

 朝日を浴びたその表情は神秘的ですらある。頭は寝癖でボサボサになってて山姥みたいだが。


「……まあな」


 照れ臭くて頭をかくと、麗佳は悔しそうに眉を寄せながら、ヨーグルトに蜂蜜を混ぜて最後にぺろっと平らげた。

 そして、両手を合わせるみたいにして、ぽつりと言う。


「……ありがと。ほんと、助かった」

 

「……どういたしまして。次はほどほどにしろよ」

 

「うん。たぶん!」

 

「たぶんじゃねえ」


 俺はため息をつきつつも、麗佳の“朝ご飯に感動する顔”が見られるなら――いや、やっぱり腹立つな。


「さーて。気分よくなったから寝ようかな!」

 

「そんなんだから最近、身体に肉がついてきたんだろ」

 

「え、嘘! ほんとに!?」

 

「いや、知らん。適当に言った」

 

「せっかく感謝したのになによ! やんのか? ああ?」


 結局いつも通り、軽口を言い合う騒がしい一日が始まるだけだった。

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