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『けろへもアニメ』~へのへのもへじとケロ子のこの世で一番くだらない会話~  作者: 阿行空


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3/3

「イヤホンポケットのなかで絡まる法則」

放課後。ベンチ。

ケロ子は赤縁メガネの奥で、もへじの漫画を読んでる。カエルのヘアピンはいつも通り。

もへじは顔に「へのへのもへじ」の紙を貼ったまま、ポケットに手を突っ込んで固まった。


「……あった」


「うん」


もへじはイヤホンを引っぱり出した。

出てきたのは、イヤホンじゃなくて“事件”だった。


「……見て」


「見いひん」


「見て。ポケットの中で、文明が発達してる」


ケロ子はページをめくる。


「絡まってるだけやろ」


「違う。これは“結び”や。意思がある」


「ない」


もへじはイヤホンを持ち上げる。

片方だけが、もう片方を縛り上げて、さらに自分も巻き込んでいる。


「なあ、なんでポケットに入れた瞬間に絡まんねん」


「入れ方が雑」


「雑ちゃう。丁寧や。俺、丁寧に“ぐちゃっ”て入れた」


「丁寧にぐちゃって何やねん」


「ちゃんとポケットの底に、優しく落とした」


「優しく落とすな。」


もへじは紙の顔を押さえ直す。


「俺な、今までずっと考えてたんやけど、ポケットの中って異世界なんちゃうか」


「急にファンタジー」


「そう。異世界転生してる。イヤホンが」


「イヤホンの転生先、ポケットは嫌やろ」


「でも行くしかないねん。俺が入れるから」


ケロ子は淡々と返す。


「お前が悪い」


「いや、ポケットにも責任あるやろ。入れた瞬間、外界と遮断される。重力が変わる。時間も歪む」


「歪んでるのはお前の理屈」


もへじは絡まりをほどこうとして、すぐ手を止めた。


「待って……これ、ほどき方が分からん」


「引っ張ればええやん」


「引っ張ったら負けや」


「何に」


「イヤホンに。引っ張ったら、こいつら“これが正解”って学習する」


ケロ子は漫画を閉じずに言う。


「学習してへん。お前が同じことしてるだけ」


「いや、してる。ポケットの中で社会ができてる」


「社会?」


もへじは真剣な声で続けた。


「ポケットの中にはルールがある。まず、片方がリーダーになる」


「どっちが」


「右。右は政治家。左は一般市民」


「他方から意見がきてまうぞ」


「右が先に“輪”を作る。そこに左が通ってしまう。通った瞬間、税金が発生する」


「何の税金」


「絡まり税」


「最悪の財政」


もへじはイヤホンを掲げたまま言った。


「しかもこの税、納めたら納めた分だけ複雑になる」


「それはただの地獄や」


「地獄が社会やろ」


「違う」


ケロ子はページをめくる音だけで否定した。


もへじは急に思いついたように言う。


「分かった。検証する。今からもう一回ポケットに入れて、出してみる」


「やめろ」


「科学や」


「破壊や」


もへじはイヤホンをいったんほどけてないまま、ぐっとポケットに戻した。

そしてすぐ取り出した。


「……ほら」


「うん」


「増えてる」


「当たり前や」


「いや、数秒やぞ!?ポケットの中で何年経ったんや!」


「お前が押し込んだ時点で戦争起きたんやろ」


「戦争……」


もへじは紙の顔を押さえながら、深刻そうに言った。


「俺、ポケットに入れるたびに戦争を起こしてるんか」


ケロ子は淡々。


「起こしてる」


「うわぁ……最低や俺」


「最低の基準そこなん」


もへじは絡まりの中心を見つめる。


「なあケロ子、これさ。片方だけ絡まるように見えるけど、ほんまは“ポケットの壁”が黒幕なんちゃう?」


「壁?」


「ポケットの縫い目。あいつが全てを操ってる」


「縫い目に謝れ」


「縫い目ってさ、触ったら分かるけど、ちょっとザラついてるやん」


「うん」


「あれがイヤホンを捕まえる。捕まえて離さへん。まるで…」


「まるで?」


「ぬか漬け」


「例えがピンとこん」


「でも近い。イヤホンがポケットに漬かってる」


ケロ子は漫画を閉じた。

返却の時間じゃなく、ツッコミの限界だった。


「貸して」


「え、ほどけるん?」


ケロ子は答えず、もへじの手からイヤホンを取ると、自分のポケットに“ぐっ”と突っ込んだ。


「え?」


そして一瞬だけポケットの中でゴソゴソして、何事もなかったみたいに取り出した。


ほどけている。


もへじは固まった。


「……は?」


「はい」


ケロ子がイヤホンを返す。


もへじはイヤホンとケロ子のポケットを交互に見て、声が出た。


「なにしたんや!」



ケロ子は淡々と答える。


「反対意見は即、粛清。ポケットの外に追放」

「リーダーは強制交代。片方に権力集中させへん」

「結び目は国家機密。勝手に見たら逮捕」

「輪っか作った時点で違法。見つけ次第取り締まり」

「ほどき方は一つに統一。マニュアル以外は違反」

「ポケット内は常時監視。動きは全部検閲」

「イヤホン同士の接触制限。勝手に絡むの禁止」

「自由に絡まる権利は廃止。秩序が優先」

「ほどくには許可制。勝手に解放したら罰」

「反抗したコードは再教育。真っ直ぐになるまで出てこさせない」



もへじは一拍で理解して、叫んだ。



「この独裁者が!」




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