「究極の二択」
放課後の駄菓子屋の前には、いつも通りのベンチがある。
いつも通り、そこにいるのも、二人。
ベンチの左側に、顔に白い紙を貼った男子高生。紙には、太いペンで「へのへのもへじ」。
もへじは、今日も自分が何者か分からない顔をしている。
右側には、赤縁メガネにカエルのヘアピンの女子高生。ケロ子。
手元の漫画に目を落としたまま、ページをめくる音だけが淡々と響く。
その漫画は、もへじのだ。
ケロ子は家に漫画がない。買ってもらえない。だから放課後、もへじが持ってきて、ここで読んで、ここで返す。
ルールは一応、厳密だ。
もへじは、ラムネの瓶を振りながら言った。
「なあ、二択の質問していい?」
「いやや」
「……」
「……」
もへじは瓶の中のビー玉を見つめた。
ビー玉は、何も答えない。
「ok、じゃあ質問を変えよう。カレー味のうんこか、うんこ味のカレー。どっち食べる?」
ケロ子はページをめくったまま、目だけ上げた。
「どさくさに紛れて二択の質問してるやん」
「こんな簡単な質問断られる思わんかったからな」
「長くなりそうやもん」
「ならへんよ。どっちなん?」
「条件による」
もへじの紙の顔が、少しだけこちらを向く。
描かれた「へのへの」が、若干ムッとして見えるのは気のせいじゃない。
「なんやねん条件って」
「その“うんこ味のカレー”は、どう再現するん?」
「そりゃうんこ味になるように色々入れるやろ」
「なんで出題者が曖昧やねん。入れるもんによってはカレーじゃなくて、ただのうんこになってるかもしれへんやん」
「うんこ入れへんよ。カレーにいろいろ足してうんこっぽくするだけや」
「じゃあ匂いはどうなるん? うんこ味でうんこの匂いなん?」
「味をうんこにするだけで、匂いはカレーのままや」
ケロ子は漫画を閉じずに、口だけ動かす。
「味うんこにしたら匂いもうんこになるやろ。匂いも味のうちや」
「うるさいな……。わかった。じゃあ味うんこ。匂いもうんこや」
「それはもううんこやん」
「うんこちゃうって。作り方はカレーなんやって」
「なんやねん、“作り方カレー”って」
もへじは、急に料理番組のテンションになった。
「まず野菜切るやん?」
「うん」
「肉入れて水入れて」
「うん」
「うんこ味のカレールー入れるやん」
「うんこ味のカレールーはもううんこやねんって」
「じゃあもう、カレー味のうんこ食べんねんな?」
「そういうわけじゃない」
「なんなんもう」
ケロ子は小さくため息をついて、漫画を一ページだけ戻して読み直した。
もへじの話が原因で内容が頭に入ってこない、と言わんばかりの動き。
「カレー味のうんこはどう作るん?」
「うんこは作らんやろ。出すねん」
「絶対食べたないわ」
「でも味はカレーやで?」
「じゃあもう、それ目瞑って食べるわ」
「アカン」
「なんでアカンねん」
もへじは、急に条件を盛り出すタイプの悪い神になった。
「盛り付けから見て。ちゃんとうんこ座りで待機してもらうから」
「だれやねんそいつ。勝手にセットポジションとるなよ」
「重要ポジションやで。演者や。カレーうんこ役がおらんと成立せえへん」
「そもそも、なんで直入れ前提やねん。容器に移しとけや」
「直入れが臨場感あるやろ」
「必要ないやろ臨場感」
もへじは、なぜか勝ち誇ったように言った。
「ちゃんとレバー下ろしたら出るようにする」
「バイキングのソフトクリームか」
「ほんま文句ばっかりやな」
「当たり前やろ。そもそもなんでどっちか食べなあかんねん」
もへじは、急に真面目な顔になった。
「そりゃ、なんか食べへんかったら死ぬとか言うデスゲーム的状況や」
「ないわ!そんな状況」
ちょうどその瞬間、駄菓子屋の引き戸がガラッと鳴って、店のおじいちゃんが顔を出した。
「今日も仲ええなぁ」
「じっちゃんセットポジションとって?」
「じっちゃんからは”そのもの”しか出んやろ!」
「お前、駄菓子屋歴60年なめんなよ!」
「舐めるもくそも、駄菓子屋歴全く関係ないやん!」
「まだ駄菓子屋歴は2年やでぇ」
おっちゃんは満足そうに頷き、引き戸を閉めた。
ケロ子は呆れたようには話を戻す。
「その状況やったらもうどっちでもええわ。 食べて、はよ解放される」
もへじは即座に返す。
「解放されへんよ」
「なんでやねん」
もへじは目を輝かせた。
「さらに究極の二択が迫られんねん」
「どんな質問なん」
ケロ子は漫画を閉じて、もへじの顔を見た。
「二択の質問していいかどうか」
「ええ加減にせぇ」
あとがき
ここまで読んでくれてありがとう。
どこか一瞬でも「アホやな」って笑ってもらえたら
高評価とブックマーク、ついでにしていってください。次の話のやる気が増えます。
ではまた次回、駄菓子屋の前で。




