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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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5.クロイツェル伯爵家

「はぁ、はぁ、はぁ・・・まさかお越しいただけるとは!ようこそおいでくださいました、第三王女様!」


伯爵家に着きパーティ会場である大広間に入ると、イヴェリンを呆けた顔で見ていた受付の使用人から連絡が行ったのかすぐに肉団子が会場の奥から転がって・・・いや、走って来た。

うやうやしくお辞儀をしながらもイヴェリンの顔や身体から目を離せない様子なのは、クロイツェル伯爵家当主、クレマン・クロイツェル。

細く見せるデザインの燕尾服でも隠せないでっぷりとしたお腹を揺らしながら、薄くなった頭を下げている。


「お久しぶりね、伯爵。建国二百年のパーティでお会いした時は身体と態度がもっと控えめだった気がするけど。」


伯爵家に着いた時には外してアダムスの腕を取っていたイブニンググローブを、わざわざ付け直して伯爵に手を取らせる。

その意味を全く理解しておらず、嬉しそうに手袋の甲に口をつけるクロイツェル伯爵。


「はっはっは、いやはや手厳しい!建国記念パーティと言いますと、もう十五年ほど前になりますかな。幼少の記憶は曖昧になりますから、あまり当てにはなりませんなあ!はっはっは!しかし、イヴェリン様はお噂の通り、いえそれ以上にお美しい事で・・・」


豪傑に見られたいのかやたらと大きな声で笑うが、誰も笑っていないので白々しい空気になっている。という事にも気が付いていなさそうな様子の伯爵。

すると、貴族というより商人の様に両手を揉みながらイヴェリンに釘付けだった視線が、チラリとアダムスやオリヴァンの方に移った。


「ええと、こちらは?」


「第一魔法騎士団団長を務めておりますアダムス・オルドと申します。」


軽く頭を下げてもなお高い位置にあるアダムスの目に見下ろされ、あからさまにムッとした顔をする。


「ああ、あの平民の英雄の孫だとかいう団長サマですか。魔法を使えぬという噂でしたが、なるほど、確かに力だけはありそうな身体つきですなあ。」


魔法騎士団団長と言えば引退後の爵位が約束された身分ではあるが、伯爵より上になる事はないので媚びる必要がないと判断したのだろう。わかりやすく対応に差を出してきた。

イヴェリンのこめかみに青筋が浮かんだのを見て、カリナが慌てて口を開く。


「お招きいただきありがとうございます。副官のカリナ・ヴォルクと、こちらがオリヴァン・グレイスです。」


張り付いたような笑顔で挨拶をすると、カリナの細い腰を見てまた顔をニヤつかせる伯爵。


「ヴォルク家と言えば以前にも先日のパーティにもお越しいただきましたなぁ。はっはっは!親ばかではありますが次男は見目がなかなか良いので、貴女方のような美しいお嬢さんなら息子と並ぶとお似合いでしょう!」


勝手に脳内で並べられたカリナは不快感を隠しきれない表情で引きつった笑顔を浮かべ、イヴェリンは無表情になっている。


「次男が王都に友人が欲しいと言うので、仕方なくこうやって頻繁にパーティを開く羽目になっているのですよ。まったく、ウチでなければ破産してますな!はっはっは!」


もはや何が面白いのかもわからない笑い声を出す伯爵。

すると、後ろから背の高い人物が近づいてきて声をかけた。


「父上、華やかな女性達を独り占めするなんてずるいですよ。僕にも紹介してください。」


「おお、ちょうどお前の話をしていたところだったんだ。紹介しましょう、次男のコロネリオ・クロイツェルです。」


コロネリオ・クロイツェルと紹介されたのは、父親に似ず細身の男性。歳の頃は二十五、六くらいか。

イヴェリンと同じくらいの身長だがひょろっとした体系のせいでもう少し高くも見える。

髪は癖っ毛で、特に横に流した前髪はくるりと巻かれている。

なるほど、父親の言う通りとても整った顔つきをしている。だが、内面がにじみ出ているのかへらへらとした笑顔に軽薄な印象を受けたのは女性陣だけではないだろう。

コロネリオが薄ら笑いを浮かべたまま四人へと視線を移すと、イヴェリンの所で動きが止まった。

初めて天使を見た子供の様に、激しく瞬きをする目の中にはキラキラと小さな星が浮かんでいる。


「ち、ち、父上、この方は・・・?」


「おお、お前も子供の時にお会いしたことがあるのだが、覚えていないか?第三王女のイヴェリン・ルクレイン様だ。」


「どうも」


コロネリオのような反応にも慣れているのだろう、もうイヴェリンはまともに挨拶をする気すらないらしい。

口角を上げ笑顔らしき表情を作っただけで上出来だ。

だがそんな百パーセントの義理笑顔ですら優美に見えるせいで、コロネリオは自分に対して美しい笑顔を向けたと感じたようだ。


息子の表情の変化に気が付いたのか、伯爵がニマリと笑う。


「イヴェリン様は未だに婚約もされていないとか・・・。お年は確か今年で二十二、でしたかな?おお、コロネリオとはちょうど良い年齢だな!はっはっは!」


何がちょうど良いのかわからないが伯爵的には面白い事だったらしい。

一緒に笑うような仲でもないのだが、もしかすると望んでいる展開になるかもしれないとそっと後ろのアダムスの様子を伺うイヴェリン。

そのイヴェリンの前に、スッと一歩コロネリオが歩み出た。


「お美しい王女様。初めまして、コロネリオ・クロイツェルと申します。もしよろしければ姫君のファーストダン」


「申し訳ない、少しよろしいですか?」


演技がかった動作でイヴェリンの手を取ったコロネリオのダンスの申し込みを遮り、アダムスが声をかけた。

もしかして?!とコロネリオの手を払い、目を輝かせてアダムスを見るイヴェリン。


「今回コチラにお邪魔させてもらったのは、こちらのコロネリオ・クロイツェル殿に苦情が出ているとお伝えするためでして。」


イヴェリンがじっと見つめてみるが、特に嫉妬や焦りの表情が見当たらない。完全に仕事中の顔だ。

形の良い口を尖らせて、小さくちえっ、と呟く。

せっかくの見せ場を邪魔されたコロネリオが、眉をひそめて父親に小声で問いかけた。


「コレは?」


「ほらアレだ、平民上がりの癖に魔法騎士団団長とかいう・・・」


「あ~だからここに入って来れたのか。」


アダムスの方に向き直り一瞬その威圧感に怯むも、ハンッと笑って顎を上に向ける。

身長が足りてないが、本人的には見下しているつもりらしい。


「で?一体どんな苦情が?文句を言われるような事をした覚えはないのですがね?」


「ギルドの方に『店の物を全部買ってやるから夜に一人で家に届けに来いと言われた』『レストランで勝手に支払いをされた挙句、奢ってやったのだからと連れて行かれそうになった』『普通に接客していたら待ち伏せされた』など、主に女性からの苦情ですね。恋愛は自由ですので、嫌がられない程度に、とお願いしようかと。」


「なっ・・・なっ・・・!」


恥ずかしいのか怒っているのか、コロネリオの顔がどんどん赤くなっていく。

が、イヴェリンが感情のない顔で見ているのに気が付くと、ハッとした顔で冷静さを取り戻し、前髪をいじり始めた。


「いやあ、困ったもんですよ。街を歩くと平民の女性からよく声をかけられてしまい・・・いつもお断りしているのですが、逆恨みされてしまう事が多くて。」


「おや、そうだったんですか。」


素直に与太話を受け入れるアダムスに呆れた表情を向けるカリナとオリヴァン。

イヴェリンは興味がないのか相変わらず無の表情だ。


「しかし、それも今後は無くなるでしょう。彼女達には悪いのですが、今宵、僕は運命の女性と出会ってしまった・・・。」


「ほう、それは良かったですね。」


「ええ、その瞳を見た瞬間、お互い身体に雷が落ちたような衝撃を受けました。そして僕は悟ったのです。これが運命なのだ、と。」


片膝をついたコロネリオの伸ばした右手は明らかにイヴェリンの方を向いているのだが、アダムスは生真面目に返事をしている。


「そんな事があるんですねぇ。」


この反応はむしろバカにしてるんじゃないかとオリヴァンが考え始めた時、後ろからメイドに小さく声をかけられた。


「すいません、魔法騎士団の方だと伺ったのですが・・・」


「ええ、そうですよ~。どうしました?」


一方、イヴェリンに向けたコロネリオの熱い語りはまだ続いている。


「まるで花畑に咲いた一輪の青いバラ、いえ、大海原の岩場に座った人魚姫!そう、それは貴女の事です、イヴェリン王女様!」


大海原の岩場って何だろう・・・とカリナが心の中でツッコんだタイミングで、いつの間にか周囲に出来ていた人だかりから、おぉ~!と声が上がり会場がざわつき始めた。

よくよく耳を澄ましていれば、その声が「身の程知らずな・・・」「イヴェリン様の事をご存じないのね」といった内容であることに気が付いたのに、自分に酔いしれていたコロネリオには残念ながら届かなかった。


「アナタも感じたでしょう、この出会いは必然だったのだと。いえ、もしかしたらこれから時間をかけて実感していくものなのかもしれませんね。二人で紡ぐ愛と言う名の未来を・・・」


独り舞台に立っているかのように目を閉じてウネウネと身体をくねらせている。

人だかりから一歩前に出て、珍妙な動きをする息子に向かって声をかけたのは父親のクロイツェル伯爵だ。


「おお、コロネリオ!お前はなんという男らしさを秘めていたんだ!はっはっは!イヴェリン様、息子は貴女様に運命を感じてしまったようですな。いやはや、イヴェリン様も良いお年ですし・・・ここだけの話、実は我が家は複数の高位貴族の方々から推薦を受けて陞爵を控えている身なので、王女であるイヴェリン様とつり合いも取れましょう。いかがですかな、明日にでも王城へ婚約の申し込みを・・・」


伯爵が早口で謎の理論を展開し、無理矢理に息子と王女の縁談をまとめてしまおうとした、その時。

ずっと黙っていたイヴェリンが、ついに口を開いた。

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