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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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30.アダムスの返事

「は・・・?」


ポカンとしているのはアダムスだけではない。カリナやオリヴァンら他の魔法騎士団員達も同じ顔をしている。

そんな仲間たちの表情を見て、誰も見た事がない満面の笑みを見せるイヴェリン。


「ふふふ、さっき言ったじゃない。『責任を取って相手の望みを叶える』んでしょ?」


心の底から嬉しそうに、喜びが溢れて止まらない、そんな笑顔。

雲間からこぼれた月の光が彼女の頬を柔らかく照らし、まるで彼女の周囲にだけ神々が祝福を授けに来たようだ。

花々が咲き誇るかの如く、感情を露にしたイヴェリンの微笑みが花開いている。


あまりの神々しさに全員が言葉を失っていると、アダムスが最初に正気を取り戻した


「・・・はっ!いやいや!イヴェリン、話してたのはお前の事じゃなくて、俺が昔会った二、三歳の女の子の事で」


にゅっ


アダムスが慌てて否定しようとすると、二人の間から手が生えて言葉を遮った。


「アダムス殿、それについてはわたくしめの方からご説明させていただければ。」


いつの間にか二人の間に移動していたのは、情報ギルドの影、ソルだ。


「いやソル、説明って言っても」


「今回わたくし共はイヴェリン様のご命令で、ウルバヌス・オルド氏の所まで影を派遣いたしまして・・・」


「はあっ?!ジジイの?!」


「これまでのアダムス殿の足取りは、王都に足を踏みいれた日から今日まで全て把握しております。なので、アダムス殿のお心に残る様な女性がいるのであればそれ以前、魔の森に住まわれていた頃であろうと推測した次第であります。」


「・・・おい、ちょっと待て。」


「しかしながら魔の森までは距離がございます。王族専用の通信魔法道具を拝借する案もありましたが、一度ご命令を受けた身で姫の手助けを乞おうなどという甘い考えは影として不相応。ならばと各地に散らばる影を総動員いたしまして、伝達魔法を使いウルバヌス・オルド氏の所まで繋ぐことが出来たのです!」


「いや・・・、そうじゃない、問題はそこじゃないんだ。」


「そこで伺った話では、魔の森に住まわれていた十数年、女性とのかかわりはほぼ無いに等しく、近隣の村でも妙齢の女性は既に伴侶を得ているとの事で、話はふりだしに戻りました。」


「おいソル、俺の声、聞こえてるか?」


「ですが、ウルバヌス・オルド氏に訪問の目的を聞かれ、現地に赴いた影は素直に答えました。いずれは姫の義祖父になる御方を謀る事は義に反する事。隠すことなくこれまでの経緯と目的をお伝えしたところ、それは豪快に笑ってくださり、快くアダムス氏の話を聞かせて頂きました。」


「はっ?!ジジイ、あいつ何勝手に話してやがる!いやその前に義祖父って」


「ウルバヌス・オルド氏の話では、アダムス殿が物心ついてから魔の森を視察訪問した女性の中で、アダムス殿が思い入れるような接点を持った女性はただ一人、姫様だけでございました。」


「・・・あ?え・・・?は?」


再びポカンと固まるアダムス。

だがそれに構う事なくソルは話を続ける。


「その時の状況も詳しく聞かせていただきまして・・・。姫様、魔の森の視察の際、おいくつでしたか?」


「え?私?えっと、八歳ね。初めてアダムスと会った時だもの。忘れないわ。」


「は・・・?八歳?」


アダムスが壊れた玩具の様に言葉を繰り返している。


「その時姫はご自分の実力を試されようと、オルド家のお屋敷から護衛の目を盗んで魔の森に向かわれました。」


「・・・あ~っ!だから、アダムスが・・・、そう言う事ね!・・・え?でも、それだとおかしいわよ?」


「姫はオルド家からこっそり抜け出すために時齢魔法を使われましたね?」


「ええ、確か窓が小さかったから、通れるように体を小さくしたのよ。覚えてるわ。」


団員達の中の数名がざわついた。

剣よりも魔法を得意とする団員達だ。


「時齢魔法・・・?!高等魔法の中でも超難易度のやつじゃない?」「俺まだ使えねえよ」「いや魔法学の先生でも使えないって。イヴェリン様がおかしいんだよ」


「でも私がしたのは二、三歳程度の変化だったから、それでも五歳程度の見た目だったはずだけど。」


「そして、ウルバヌス・オルド氏からのお言葉です。『あいつは小さい子供の見分けなんてつかん!どうせ姫様を見ても思い出さん!真正面から行って下され!』だそうです。」


ソルの言葉で、やっと団員達が動き出した。

首を回し、アダムスの方を見る。

だが当のアダムスは、まだ固まったままだ。

すると、そっと手を挙げたのは、新入団員のセイル・グランだ。


「えっと、じゃあ団長は八歳だけど五歳の見た目の副団長をもっと幼いと勘違いしてて、ず~っと副団長に気付いていなかったって事ですか?」


セイルの言葉で現実に戻って来たアダムスが、思い出したように慌てて口を開く。


「だぎゃっ!いや、だがっ!あの子は頭に怪我をしててっ!い、イヴェリンには傷跡がないだろっ?!」


「あんなのその場ですぐに治したわよ。私の治癒魔法の腕前知ってるでしょ?」


「は・・・いや、まあ、それは知ってるが・・・。でも、俺の背中の傷は残ってるし・・・。」


「え、あれ残っちゃったの?途中まで治したんだけど、おじい様に止められたのよ。あとはこっちでやるからって。」


「マジかよ・・・あのクソジジイ・・・。」


「・・・私をデススパイダーから守ってくれた時の傷でしょ?いいじゃない、残しておいてよ。」


頭を抱えてしゃがみこんだアダムスに、ふふふ、と笑いながら近づくイヴェリン。

膝を抱えて座り、アダムスと同じ目線になる。

上がる口角を止める気もなく、ニコニコと嬉しそうに頬杖をついた。


「・・・マジで、お前があの時の子なのか?」


「ええ、そうよ。まさか覚えててくれたなんて思ってなかったわ。アダムス、私が教えた王国法もすぐ忘れちゃうんだもの。」


「あれはお前がいるし必要ねえから、元々覚える気がだな・・・。」


「ふふふ。そうね、いつも私がいるものね。」


いつも通りの会話だが、二人を包む空気はいつもより甘い。

まるでピンク色の綿菓子が周りに飛んでいるような光景だ。

ソルと団員達はお互いに顔を見合わせ、二人の空気を壊さないようにそっとその場を離れ始める。

数人がその場に残ろうとするが、周囲からげんこつが飛んできて襟元を掴まれ引きずられて行った。

ニコニコと周囲に花を飛ばすような微笑みが止まらないイヴェリンが口を開く。


「それで?怪我させた責任を取るんだっけ?」


「・・・出来ない事は無理だぞ。」


「大丈夫よ、出来る事だもの。紙にちょっと名前を書いて、付いて来て欲しいだけ。」


「付いて?どこにだ?」


「神殿。」


「・・・それ、婚姻誓約書の事じゃないのか?」


「そういう言い方をする人もいるかもしれないわね。」


「お前なぁ・・・。」


額に手を置いて、大きなため息を吐く。

嫌なわけじゃない。

嫌なわけでは決してないが、頭が付いて行かない。


「私と結婚するの、嫌?」


額に当てた手の下から覗き込んでくるイヴェリンの顔。

コイツが、あの時怪我をさせてしまった女の子で、いつも一緒に居て、背中を預けられるほど信頼していて、でもさっき告白してきて・・・うん、確かに言われてみれば髪の色も同じだし、大きな瞳を持った愛らしい面持ちはそのまま美しい大人の女性へと成長している。


改めて見るまでもなく絶世の美貌を持ち、自分の隣で共に戦える強さを持つ美女が、上目遣いで自分と結婚したいとプロポーズしているのだ。

自分でも呆れるほどの戦闘バカに、全てを持った完璧な女性が。

イヴェリンが、俺の事を、好きだと・・・


顔に血液が集まり、熱くなってきた。

これほど息が苦しいのは、同盟国への遠征でリヴァイアサンに足を取られて海に沈められた時以来かもしれない。

団員がこんな相談してきたら、イチもニもなくうんと言え!と言うだろう。言うだろうが・・・。


ガバッ!


座り込んでいたアダムスが、勢いよく立ち上がった。


「・・・っ!ほっ!保留だっ!!」


「・・・保留?」


「ほ、ほりゅ・・・要検討だっ!検討する!イヴェリンと、けっ・・・こ、婚姻するとしたら、色々と考える事があるだろうし、お前は王族だから陛下の許可も必要だし、俺は宿舎暮らしだから、しっ!し、新居とか、そういう問題もあるし、他にもっ、色々と・・・と、とにかく、考える!考えるから、時間をくれ!」


ほとんどイエスと言ったのと同じくらい具体的に考えているのだが、感情が追い付いていないのだろう。

浅黒い肌を真っ赤にして叫ぶ様子はこれまでの恋愛経験のなさを物語っている。

キョトンとしてアダムスの顔を見上げていたイヴェリンの顔が、ニマ~っといたずらっ子のような笑顔に変わった。


「・・・その考えてる時間は、アプローチしてもいいのよね?」


「あぷっ?!」


「当たり前よね。商談をまとめる時にも、相手がうんって言いたくなるように働きかけるのは当然だもの。」


「・・・しっ、知らん!好きにしろ!」


「うんっ!」


立ち上がったイヴェリンが、アダムスの腕に飛びついた。


「がっ!お、おま、おまっ!」


「アプローチだもの。いいでしょ?」」


「・・・っだっ!ダメだっ!こ、こういうのは、きっ、きちんと、段階を踏んでからだな・・・」


『おいおい、保留って何だよ。』


すぐ後ろで声が聞こえ、二人の動きが止まる。

二人が後ろを振り返るが、その空間には何もない。

が、また声が聞こえて来た。


『団長の頭ン中、アダマンタインでも詰まってんじゃねえの?』『カッチンコッチンじゃねえか!じゃあ下半身はミスリルだな!ぎゃはは!』『ちょっと、下品な話止めてくれない?!』『いいじゃない、あのくらい固い方が結婚したら浮気の心配もないわよ、きっと。』『ってかこれは付き合ってんの?付き合ってないの?』『結婚前提って事だな。いいじゃないか、前よりは進展したんだ。』


アダムスが無言で腕をイヴェリンの手から抜くと、剣を鞘ごと腰から外し、空中でゆっくりと動かした。

景色がはらりとカーテンの様にめくれ上がり、下からキリルの姿が現れる。


「ちょっと!静かにしてくださいよ!そっちの声も聞こえるん、で・・・。あ、あはは・・・」


笑ってごまかそうとしているその手には、イヴェリンのネックレス。

アダムスの剣の鞘先には、ヒューベルトに連れて行かれた誰かが使っていたローブがぶら下がっている。

先程とは違う色で顔を真っ赤にしたアダムスの声が、大噴水広場に響き渡った。


「おっ・・・おっ、お前ら~っ!!!!!」

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