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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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29.ついに

こ、これは聞いちゃいけない話なんじゃないだろうか・・・。


人生で一番のピンチを感じているキリル・ハイネは、第一魔法騎士団イチ仕事が出来て空気の読める男である。

しかしまだ血生臭さの残る広場で魔物の死骸に囲まれ後処理に追われる部下を尻目に、まさか国の王女たる副団長が甘い空気を出し始めるのは想定外で、イヴェリンのネックレスを握り締めたまま固まってしまった。

幸いにも背を向けているから、このまま存在感を消して少しづつ離れて行けば・・・あれ、隠蔽魔法ってどうやって発動させるんだっけ・・・?!


『キリル?!キリル~??』


石からオリヴァンの声が聞こえて思わずネックレスを落としそうになり、両手で掴んだ。


「いっ、今、団長と副団長が良いとこなんですっ!こっ、こここっ、こくはっ、告白する所かもしれないんですっ!ちょっと待ってくださいっ!」


小声で告げると、ソ~ッと方から後ろを覗き見る。

幸か不幸か、元々の存在感の薄さのおかげでまだ邪魔はしていないようだ。

と言うよりも、アダムスは何の事か分かっていない顔をしている。

キョトンとしているアダムスにイラ立つようにイヴェリンが近付いて行く。


「何の話だ?」


「あのグルグル前髪が言ってたでしょ?!すっ・・・すっ、好きな、男って・・・!」


「・・・あ?言ってたか?でもお前、クロイツェル伯爵家の次男は別に好きじゃないんだろ?」


「好きなわけないでしょ!!ここにきてまだそんな事っ・・・!だからっ、私が好きなのは・・・私は、ずっと、アダムスのこ・・・」


「姫様!!」


向かい合い、段々とその距離を縮めていた二人の間に音もなく降り立つ黒い影。

結局離れる事も出来ず聞き耳を立てていたキリルがガクッとズッコケた。


影だ。

イヴェリンが所有する情報ギルドのメンバー、影。

その中でも常にイヴェリンの側で仕えている精鋭で、名前はソル、小柄で性別のわからない愛らしい見た目をしているが、実はまだ十代の少年である。


「お、影じゃねえか。確か・・・ソルだったか?お前ら、イヴェリンが大変だったってのにどこ行ってたんだよ。」


「お久しゅうございます、アダムス殿。これには深い事情がございまして・・・」


「~~~~~ッ!!ソルッ!!」


「はっ!」


「・・・なんでこのタイミングで来るのよっ!!今!まさに!私がっ!言おうとしてたでしょっ?!~~~ああもうっ!アダムスっ!!」


「おお、ど、どうした?」


驚いたアダムスの顔を見て、何度も邪魔され溜まっていた鬱憤が爆発した。


「私が好きなのはアンタなのよっ!他の男なんか好きになるもんですかっ!勘違いしないで頂戴っ!」


ビシッとアダムスの鼻先に人差し指を突き付け、宣言する。

数秒間、もしくは数十秒かもしれない間、時が止まったように人も、風も、雨も、動かない。

いつの間にか雫を落とし終わった雨雲さえ動いていないように見える。


そして言われた方はもちろん、言った方も、口と目を丸くして、何故か驚いた顔。

間に挟まれたソルは動かず喋らず息を止めて存在感を消そうと努めている。


キリルもアワアワしながら二人の顔を交互に見て脳内で必死に言葉を組み立てている。

すると、遠くから声が飛んで来た。

いや、人が飛んで来た。


「~!・・・ちょ~・・・!だ~んちょおおおお!!!」


ドガンッ!


固まっている三人とキリルの間に落ちてきたのは、イヴェリンの副官、カリナだ。

割れた石畳に埋まった足を見るに、火炎魔法を爆発させて飛んで来たようだ。

黒い煙がまだ少し燻っている。

その煙ごと足を引き抜くと、アダムスに掴みかかった。


「ホントですからね?!アタシが証言しますから!冗談でもないですよっ?!本当に、イヴェリン様はずっと団長の事想ってたんです!」


「ちょ、ちょっと、カリナ?!アナタ、ど、どこから?!なんで知って・・・?!」


飛んで来た副官に慌てるイヴェリン。

しかしカリナの口は止まることなくアダムスを詰めていく。


「どうせ団長の事だから信じないとか何も考えずに断ったりするでしょ?!そんなんじゃなく、ちゃんと考えてくださいよ?!同じくらいの時間・・・は長すぎるけど、しっかり悩んで答えを出してください!」


「お、おい、落ち着けって・・・。」


「い~え、これが落ち着いてられますか!第一魔法騎士団全員の悲願ですからね!皆もうすぐ駆けつけてくるんですから、情けない姿なんて見せないでくださいよ?!」


「は?皆って・・・。」


アダムスがカリナの剣幕に一歩下がると、背後や前後左右から声が降って来た。


「カリナの言う通りっす!」「団長ニブ過ぎるって!」「イヴェリン様流石ぁ!そんな所もカッコいい~!」「団長、男として、生半可な気持ちで返事は出来ませんよ?」


気が付くと、数人の団員達が大噴水の周りに集まってきている。

見渡すと、道の向こうからも、まだ駆け付けてくる団員達。


『俺もっ!俺もすぐ行きますっ!ちょ、ヴァンパイアさん、早く帰ってくださいっ!』


キリルの手元からはオリヴァンの叫び声。


「あぁ、そういえば状況確認とか言ってたわね・・・。」


握り締められたネックレスを見てイヴェリンが察する。

団員達に呼びかけていた時に後ろにいた声が入ったんなら、おそらく全員が聞いたのだろう。

でも、こんなに応援してくれる仲間がいるのだ。

知られて困る事もない、どうせ皆知っていた気持ちなんだし、と開き直ると、改めてアダムスに指を付きけた。


「アダムスっ!アナタに忘れられない人が居るのは知ってるわ。でもこっちだって、諦めるつもりなんてないんだから!見てなさい、これからはもっとガンガン・・・」


「ちょ、ちょっと待て、お前ら!イヴェリン、何の話だ!」


団員達にもみくちゃにされていたアダムスが両手を挙げて皆を制する。


「俺に、忘れられな・・・あっ!おい、誰だ俺の頭触ってた奴!」


アダムスの頭が綺麗な七三分けになってる。

乱暴な手つきで髪をガシガシと元に戻すと、イヴェリンに向かって問いかけた。


「忘れられない人ってなんだ?!お前、何の話してるんだ!」


「だって、アダムス言ってたじゃない。どこにいるのかもわからない人が居るから結婚しないって・・・。」


思い出してほしくない、考えてほしくない。

そう思いながらイヴェリンが口を尖らせアダムスから目を逸らし、金の麦の穂で聞いた話を口にする。


「え、おま、あれ聞いてたのか?いや違っ、あれは、その・・・」


アダムスが珍しく口ごもる。

モゴモゴと口の中で何か言い、やっと口を開いたと思えばまた口を閉じ、目を泳がせて言葉を探している。

見た事がない団長の姿を黙ってジッと見つめていた団員達が、しびれを切らした。


「・・・団長!言ってるじゃないっすか!俺達を頼れって!」「探しましょ!その人を見つけて、前に進むんすよ!イヴェリン様待っててくれるんすよ?!」「まず、どんな人なのか、何があったのか教えてもらわないといけませんね。」


「いや、だから、お前達には関係な・・・」


ガシャーン!!


ガラスの割れるような音と共に氷の破片を身にまとったオリヴァンが駆け寄ってきた。


「んない訳ないっしょ!仲間なんすよ?!団長の問題は俺たちの問題っす!」


空を見ると、ヒューベルトが手を振りながら厚い灰色の雲に墨を散らしたように消えて行っている。

王城からここまで空を飛んで連れて来てもらったようだ。

先端の折れた氷の滑り台が広場の端に作られ、オリヴァンがそこに落ちてきたことを示している。


「おまっ!あ~・・・!!・・・いや・・・ん~・・・」


上を向いたり下を向いたりして考えていたアダムスが、諦めたように小さな声を出した。


「えっとな・・・あの子は・・・」


「あの子っ?!年下の子なんすねっ?!」


「馬鹿、黙ってろ!」


大声を出したシドが、隣に来たオリヴァンに頭をはたかれた。

いつの間にかアダムスの周りで団員達が円陣を組み、話を聞く体勢になっている。


「・・・さま、姫様。」


「はっ!何、ソル、何よっ?!今大事な話聞いてるんだけどっ!」


座り込みこそしていないが、小さなアダムスの声を聞き逃すまいと近付いて耳を澄ましていたイヴェリンが飛び上がって驚いた。

ソルがイヴェリンに耳打ちしようと顔を近づけてくる。


「その事なのですが、各地にいる影を総動員してウルバヌス・オルド氏の所まで線で繋ぎ、伝達魔法で連絡を取りまして・・・」


伝達魔法とは離れた場所にいる相手と思念を飛ばして会話が出来る魔法である。

だがその範囲は狭く、相手も同じタイミングで伝達魔法を展開させていなければ使えない為、使い勝手が悪い。

最近は、恋人が寝る前にラブコールをするときくらいにしか使われなくなっている魔法だ。


「ああ、だから早かったのね。上手い使い方するじゃない。でも今はそれどころじゃ・・・」


「それがですね・・・」


ソルがイヴェリンに顔を寄せ、耳打ちした。

その間にも、話しにくそうにモゴモゴと言葉を吐き出すアダムスから、団員達が尋問を進めている。


「つまり、ずっと前に出会った女の子が忘れられないと。」「今、十六、七歳・・・ギリギリ成人してるくらいか?イヴェリン様より五、六歳下か・・・」「いや、年上好きじゃないとわかっただけまだ可能性はある!」「てか十年以上前って・・・!団長、どんだけ純情なのよ!」


「いや、違うんだ、そう言う事じゃなくてだな。俺のせいで怪我をさせてしまったから、その責任を取らねばと・・・。だから、責任を取るというのも、別に男としてとか結婚とか、そう言う事じゃなく人として、相手の望みを叶えようとかそう言う事であって・・・。」


「じゃあ別に恋愛も結婚もすればいいじゃないっすか。しない理由にはならないっすよ。」


呆れたように言う団員の声に、モゴモゴと話し照れていた顔が一瞬でキリっと変わった。


「いや、俺の事情に将来の伴侶を巻き込むわけにはいかん。しかも異性に関する事なんだ、相手にとっては不快かもしれんだろう。憂い事を全て清算してから、伴侶には誠実に向かい合うべきだ。」


とてもいい顔をして言い切ったアダムス。

だが団員達の賛同は得なかったようで、


「・・・かてえ!固すぎる!」「ガッチガチじゃねえか!」「馬鹿じゃねえの!そんな奴居ねえよ!」


と男性団員達からブーイングの嵐。

女性陣からは、


「それとこれとは別の話なんじゃないの?」「誠実なのは良いけど、好きな相手の問題なら一緒に背負いたいでしょ~。」「ね。イヴェリン様なら『私に任せれば一瞬で解決してやるわ!』って言いそう。」


とそこまで言うと、全員が思い出したようにゆっくりとイヴェリンの方へ顔を向けた。


ソルに耳打ちされて、大きな瞳をさらに開いてまん丸にしたイヴェリンが、薄ピンクの唇を一度開いて閉じ・・・また開いた。


「アダムス・・・望みを、叶えてくれるのよね?」

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