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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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26.だって団長ですから

フッと軽くなる身体。

快感を覚えるほどの解放感。

この感覚、何だっけ・・・あ、そうだ、訓練の後に団長が公衆浴場に連れてってくれて、大きな湯船に浮かんだ時の、あの感覚だ。

キリルが数秒間の現実逃避から帰って来た時、アダムスがイヴェリンの肩に手をかけた。


「ア、アダムス・・・?あのね、違うのよ、あ、いえ、違くはないんだけど、あいつの言ってたのは・・・その・・・」


イヴェリンの逆立っていた髪の毛が、ふわりさらりと降りてくる。

両手を出し慌てて弁明するのを制し、アダムスがうんうんと頷いた。


「まったく・・・。こいつらが逆恨みなのはわかってるが、お前もやり過ぎだ。あと言い過ぎだな。今度、反省文でも書いて陛下の所に持って行くぞ?」


イヴェリンの頭にポンと手を置いた。

ルクレイン王国だけでなく、世界中を探してもイヴェリンにこんな事が出来る男は限られているだろう。

そのまま手を滑らせると、髪の毛を軽く手で掬う。

アダムスの指が髪を伝って耳に触れると、イヴェリンがピクッと反応する。


「この首輪も・・・まあ後でどうにかしてやるから。だから、そんな顔するな。」


困ったような声で肩をポンポンと軽く叩いて、そのまま横を通り過ぎた。

下を向いているイヴェリンの表情は見えないが、赤くなった耳を見る限り『そんな顔』の原因は首輪ではないのだろう・・・本人はわかっていなさそうだが。


いつもの二人のやり取りをむず痒い気持ちで眺めていたキリルだが、アダムスの背中を見て思考を切り替えた。


日々厳しい訓練を繰り返し、他の者よりもスタミナがあると自他共に認めるキリルですら、手が震え膝が笑っている。

それなのに、同じようにあの凄まじい重力を受けていたアダムスは何事もなかったように歩いて行く。

あの人の身体はどうなっているんだろう・・・。

もしかして、骨はアダマンタイトで出来てるとか?う~ん、ありえそうだ。

そう思いながら震える手で取り出した長釘ほどの大きさの短剣を三本、素早く投げた。


ビシビシビシッ!


這うようにして動こうとしていた、前情報ギルドのメンバーの灰色をしたローブが地面に貼り付けられる。


「動かないで。・・・動けないだろうけど。モルグレムは動きに反応するから、死にたくなければそのまま地面に伏せててください。」


そう言うキリルの口の動きも最小限だ。


イヴェリンの後ろにいるモルグレムは人の形をしてはいるものの、粘土のような身体は波打ち、所々から黒や白の石が見え隠れしている。

人型をしているのはその形から頭や首を狙わせるためと言われてはいるが、どこを切っても簡単に倒せる魔物ではない。

体内を移動し続けている魔核、つまり魔物の魔力の源となる石を破壊しない事には倒せないのだ。

そしてその魔石はどこにあるのかわからず、様々な魔法を使っても体内の鉱石類が邪魔をして位置の把握は不可能だと言われているのだが・・・。


団長はどうやって倒すつもりなのだろう。

団長が戦っているのは何度も目にしているが、ほとんどの魔物を一撃で、もしくは数回の斬撃や打撃で倒している。だが、力押しで勝てない相手は初めてだ。

体力オバケの団長の事だから、もしかすると魔核に当たるまで切り刻み続けるのかもしれない。

ただ、モルグレムの泥は触れる物を巻き込み吸収してしまうはず。

飛び散る泥を避けながら、魔核を破壊するまで攻撃をし続けるなんて・・・いや、団長ならやりかねないな。


キリルが頭をフル回転させながら固唾をのんで見守っていると、先にモルグレムが動いた。


自分に向かって歩いて来るアダムスを敵か自身の栄養源と見なしたのだろう。

ボールを投げるように右手を大きく振りかぶって投げると、手の平の部分がそのまま攻撃となり飛んで行く。

が、見切っていたアダムスは剣を抜きながら小石を避けるような動きで左前に一歩踏み出し、手の形をした泥は目的を失い石畳に落ちた。

ビシャッと汚れた音を出した泥は、プルプルと小さく震えると磁石が引き寄せられるようにまたモルグレムの身体に引っ付き、吸収される。


ゴクリ、と飲み込んだ生唾は、自分の音か地面に伏せた男達の音なのか。


アダムスが剣を片手に歩いて行き、モルグレムが間合いに入った。


右手に持った剣を、アダムスが両手で持つ。その瞬間。


その白刃は、下から救い上げるような動きで天へと緩やかな曲線を描いた。

人型のモルグレムの、右太ももから左肩へ。

まるでケーキを切るように簡単に斬られたモルグレムは、元に戻ろうと泥を蠢かせる。

が、段々とその蠢きは小さくなり、動きを止め、人の形が崩れ始め、泥は溶け、地面へと広がった。


「・・・は?え・・・・?だ、団長・・・?」


「ん?なんだ?」


振り向いたアダムスは、もう戦っている時の顔ではない。


「え、えぇ?!いや、え、も、もう倒したんですか?ま、魔核はっ?!壊したって事・・・?!どっ、どうやって位置が分かったんですかっ?!」


「あ?魔核?」


「だって、モルグレムの魔核は、ずっと体内を移動しててっ・・・!」


「あぁ、ああいうウネウネした魔物と戦ってたら、なんかこう、この辺が怪しいな~ってのあるだろ?さっき王城で倒したんだが、サンドレイスとかもそうだな。そこを、こう、ズバッと切るんだよ。そうしたら大体倒せるから。」


「は・・・っ?!・・・はぁ・・・?」


キリルが口を二度、三度開閉させると、開いた口を塞ぐ事なく両手で頭を抱える。

ブツブツと漏れる声は「そんな訳・・・いや、でも団長だし・・・」と言っているようだ。

少し離れた場所では、地面に伏せた男達も小声で言葉を交わしている。


「・・・あ~あ、ありゃバケモンじゃねえか。誰が言ったんだよ、Sランクの魔物で王都を無茶苦茶にしてやろうなんて言い出した奴。」


「アンタっすよ・・・。あの姫サマにやり返そうつったのもギルマスっす。」


「あ~そうだったか・・・くそ、あのままサハラード王国で大人しく暮らしてりゃ良かったぜ。」


大噴水広場の石畳の上を、諦めを含んだ小さな笑い声が走る。

すると、その笑い声を踏みつぶして立ち上がった男がいる。コロネリオだ。


「まだだ・・・!まだ、俺にはこの女が居るんだ!コイツがいる限り、あの男も手出しできないはずだ。・・・おい!俺を守れ!俺を守りながら、この国から出るんだ!」


大声で叫ぶと、ガクガクと震える膝に手を置いて中腰になる。

先ほどまで抵抗していたイヴェリンの身体が声に反応し、スッと背筋を伸ばすと剣を手に取り構えた。

驚くほど素直にコロネリオの命令を聞くイヴェリンにキリルが怪訝な顔をする。


「・・・?あっ!そうか、魔力が・・・!重界魔法で、魔力を使い切ったんだ。イヴェリン様・・・!」


キリルの言う通り、動かせない身体に魔力ではなく純粋に力で抵抗しようとする様子のイヴェリン。


「んっ・・・ぐっ・・・!」


「いい。イヴェリン、大丈夫だ。力を抜いてろ。」


軽く剣を振り付着していたモルグレムの泥を払い飛ばすと、アダムスが正面からイヴェリンに向き直った。

剣を構え、真っすぐ、一直線にイヴェリンを見つめている。

その瞳に迷いはない。


「アダムス・・・。」


「大丈夫だ。」


やっと震えが収まってきたキリルが二人を見守る。

膨大な魔力と才能で第一魔法騎士団副団長まで一気に駆け上って来たイヴェリンだが、剣士としての腕が他の団員に劣っている訳では決してない。

だが今はのイヴェリンは魔力を使い果たしており、対するは魔法が使えなくてもイヴェリンより上の地位にいるアダムス。

正々堂々と闘えばアダムスの圧勝だろう・・・が、目的は勝つことではない。


先程のモルグレムの戦いとは比べ物にならないほど張り詰めた空気が辺りに漂う。


暗くなった空にかかる分厚い雲から、一粒、雨が落ちて来た。

雫が石畳に落ちると同時に、アダムスが動いた。

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