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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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25.失言

『は~っ?!大丈夫かだって?!団長、俺らを鍛えたのアンタでしょうが!』


『AランクっつったってオークキングならほぼBランクみたいなもんだし、余裕っすよ!』


『シドです。オークエンペラー、楽勝でした。』


『ネルガン・ドレイス、隣の南四区にいた新人のセイル・グランがククルカンと交戦時に負傷していたのでそちらに移動し加勢、オークエンペラー討伐後回復させてますが・・・誰か治癒魔法の得意な奴を寄こしてください。』


「了解。キリル。」


「はい、えっと・・・南四区ならナリスが近いですね。」


「ナリス、南四区でセイルが負傷、ネルガンが応急処置しているそうだ。行けるか?」


『いっ・・・けます!今シースハの本体にとどめ刺したんですけど、まだ頭が二匹動いてるのがいるんで誰かこっちに向かわせてください!ネル爺のトコにすぐ向かいます!』


「キリルです。南一区、ノヴァルさん!南三区のナリスが別地区の応援に回ります。頭二匹残ってるシースハにとどめをお願いします!」


『ノヴァルだ。任された。』


キリルの右手に握られた石から声が流れ続ける。

大噴水広場では、Aランクの魔物に勝てるわけがないと言い張るコロネリオに聞かせる為、アダムスが全員に声をかけ、現状を確認している所だ。


ククルカンとシースハとは蛇の身体を持つ魔物で、前者が羽を持ち風を操るのに対し、後者は複数の頭を持ちその全ての口から毒液を吐く。

ククルカンは空中を飛び回りながら刃のような鋭い風や小さな竜巻を複数巻き起こす攻撃を繰り出し、シースハは凄まじいスピードで敵の周囲を回りながら弱らせていく習性を持つ。

もちろん両方Aランクの魔物である。


「・・・という訳だ。まあ新人は別として、数年間在籍しているような団員達は皆Aランク程度なら倒せるように鍛えている。お前さん達の計画とやらは最初から破綻してるんだ。」


呆然としているコロネリオ。

心なしかカールしている前髪の元気もないように見える。

すると、ハッと何かに気が付いたように顔を上げた。


「お、おい!ハスラー!ハスラー!いるんだろ!」


「・・・ちっ・・・。名前を呼ぶんじゃねえよ。隠れてる意味がねえだろうが。」


まるでカーテンを捲る様に何もない場所から現れたのは、身にまとったローブと同じ灰色の頭をした髪も顔も長い男だ。

面倒そうな口調だが、剣に右手をかけたまま、左手には北の森で見つけた小袋を持っている。


「あっ・・・!団長、あいつ、前の情報ギルドのギルド長のハスラーですよ!」


「ギルド長?情報ギルドのトップはボスって呼ぶんじゃないのか?」


「それはイヴェリン様の趣味で・・・いや、そんな事今はどうでも良いんですよ!あいつが主犯です!」


アダムスの視線を正面から受け止めると、面長の顔の下にある口を曲げ、左口角だけニヤリと上げて見せる。


「どうも、第一魔法騎士団団長サマ。前はちゃんと挨拶できなかったから今回がハジメマシテ、だな。」


「・・・前?」


「アンタが団長に就任した時に賄賂を仕込んだ贈り物をしたら、ソレを表に出して返してきただろ。使えねえ奴が団長になっちまったと思ったもんだぜ。」


「ん?ん~??・・・ああ!手違いで金が入った菓子が届いたやつか。あれが賄賂だったのか?」


「・・・これだから脳筋は嫌なんだ。アホばっかりだ。」


うんざりした様子のハスラーに、コロネリオが叫ぶ。


「おいハスラー、どうするんだ!コイツら、魔物は全部倒したって言ってるんだぞ?!俺を王にするんじゃないのか?!」


「うるせえなぁ、仕方ねえだろ。そんな異常な人間が増えてるなんて誰も思わねえっての。・・・仕切り直しだ。そのまま第三王女連れてサハラードに逃げるぞ。」


「逃げ・・・?!この俺様に、国を捨てて逃げろと言うのか?!お前のような薄汚れた平民やあいつらのような落ちぶれた元貴族じゃない、正真正銘の貴族だぞ?!」


「アンタはもう貴族じゃないわよ。」


コロネリオの腕の中でイヴェリンが言い放つ。


「ルクレイン王国建国当初からの国法第一章に書かれてるわ。『たとえいかなる理に依ろうとも、王族に危害を加えし者は第一級の大罪人とみなし、死罪またはこれに準ずる刑を免るることなし』ってね。私に手を出した時点でアンタはもう貴族じゃないわ、犯罪者よ。」


何故かそれを聞いたアダムスが慌ててキリルの方を見た。


「え、そうなのか?俺、訓練で結構イヴェリンとやり合ってるんだが、大丈夫なのか?」


「団長、ちょっと黙ってください。」


キリルに冷たくあしらわれて口をキュッと一文字に閉じるアダムス。


「うっ、うるさい!黙れ!」


コロネリオが腕に力を入れイヴェリンの首を絞めるが、首輪があるので息苦しくなる事もなく、イヴェリンは不快そうにするだけだ。

と、小袋を持ったままのハスラーがコロネリオの腕に手をかけた。


「おい、今の俺たちの切り札はこの小袋とその王女サマだけなんだ。下手に手を出すな。それに、俺達もそいつには恨みがあるんだからな。」


「恨みじゃなくて逆恨みの間違いでしょ。言葉も正しく使えないリーダーなんて組織のレベルの低さが丸わかりね。」


捕らえられ、身動きを封じられているイヴェリンの口は止まらない。


「Sランクの魔物って言ったって、どうせ魔の森の表層にいるようなのでしょ。薄汚れた布被らないと表も歩けない臆病者が中層や深層まで行けるわけないものね。」


魔の森の表層。

広大な面積の魔の森はその中心に向かって表層部、中層部、深層部と三段階に分けられており、深層部には長い歴史の中でも人類が入って戻ってきたという記録は残っていない。

年に数回専門家が行う調査や採掘においても、表層部のごく表面でしか行われない。

表層部にいるのはAランクやSランクだが、中層部にはSランク以上、深層部にはそれ以上の魔物が生息しているのだと考えられているのだ。


「仮にも情報ギルドを名乗ってたくせに情報不足で返り討ちに合うようなネズミ面と、ネズミに中身を啜られてるのに気が付かないチョココロネ。醜い食事風景だわ。続きは牢屋の中でしてちょうだい。」


そう言うと、両肩に着いたエメラルド色をした宝石がまばゆい光を放つ。

イヴェリンを中心に風が回り始め、ハスラーが纏っていた隠蔽用の布がバサバサと飛ばされそうになり慌てて手で押さえている。


徐々に強くなる風。

さらに噴水を挟んだ向こう側と、アダムスの背後の建物の壁際からも同じく布を必死で抑えている男が二人が現れた。

おそらく前情報ギルドの人間なのだろう。


「クソッ!おい、やめさせろ!コロネリオ!」


「おい!魔法を止めろ!」


「グッ・・・」


抵抗しようとするも、首輪の効力で発動した風魔法を無理矢理中断させられる。

吹き荒れていた風が止み、空中を待っていた枯葉が地面へと舞い降りて来た。


「せっかく隠れてたのに台無しじゃねぇか!コロネリオ、コイツに動かないよう命令しろ。」


「俺に指図するんじゃねぇよ!・・・おい!『動くな』!『喋るな』!」


コロネリオが耳元で叫ぶと、イヴェリンが直立したまま動かなくなる。

いや、動こうとしている様子はあるが、動けないのだ。


「クソッ。最初っからちゃんと言う事聞いとけよ・・・。だが、流石にもうこの女は俺のもんだろ。」


「おい、余計な事喋ってねえで行くぞ。・・・団長サマも、隣の眼鏡も動くなよ?俺達にはもう一匹Sランクがここにいるんだ、余計な事したらその辺の家に放り込むからな。」


顔の前で小袋を振るハスラーと残りの二人の前情報ギルドの男がまた隠蔽用の布を着ようとしているが、コロネリオはまだ喋り続けている。


「やっぱりどんな女も俺には服従する運命なんだ。どうせなら惚れた男の前で屈服させてやりたかったが、ゆっくり調教するのもいいだろう。楽しみにしてろよ。」


「・・・!!!!!」


イヴェリンが目を見開き、一瞬、時が止まる。


「・・・あっ。」


キリルが思わず声を出して、左手で口を押さえた。


『惚れた男』・・・って、言った?


そ~っとキリルがアダムスの顔を伺うが、無表情の顔からは感情が読み取れない。


ど、ど、どうしよう・・・あいつ、勝手にイヴェリン様の気持ち言っちゃった・・・!

キリルがお邪魔じゃないかと居場所なさげにソワソワし始めるが、そもそも敵だらけの状況でお邪魔も何もあったもんじゃないのだ。

動くに動けずキョロキョロしていると、小石が目の高さにあるのに気が付いた。


「小石がなんでこんなとこに・・・。え?小石?え?浮いて・・・っ?!」


周りを見渡すと、小さな小石から手の平大の大きさの石まで浮いている。

足元を見ると、大噴水広場の石畳が小刻みに揺れ、よくよく意識すると自分の身体も軽くなったように感じる。


「・・・?!あっ!イッ、イヴェリン様っ!こ、これ、重界魔法の前兆じゃ・・・!ぐあっ!」


「ふっ・・・ざけるんじゃないわよぉ~!!!このっ・・・このザココロネ!!!!」


一気に圧しかかる重圧。

何倍もの重さになった自身の身体を、地面に押し付けられないよう膝に手を置き必死で支える。

まるでこの世で一番重いとされるアースメタルの塊が肩に乗っているようだ。


重界魔法とは、多量の魔力を消費して重力を操る魔法である。

使う魔力が多ければ多いほど重くなり、自身の周囲に重力場を作ることが出来ると『言われている』。

『言われている』とは、重界魔法を使えるほど魔力が豊富な者が希少であり、その中でも魔力を一気に消費する重界魔法を使おうとする者などいないに等しい為、お目にかかる機会がほとんどない魔法だからだ。


キリルが重力に押さえつけられている首を、必死に力を込めて持ち上げ顔を上げる。

正面には、金の髪を逆立てて空を仰ぎ、一人その場に立ち尽くすイヴェリン。

コロネリオも、ハスラーも、逃げようとしていた前情報ギルドの男二人も、地面に縫い付けられ指の先も動かせなくなっている。

Sランクの魔物が入っているという小袋はハスターの手から離れ、氷が割れた大噴水の近くへと転がっている。


するとその時、イヴェリンの背後で動くものが見えた。

眼鏡がずれてよく見えないが、あの土気色と定まらない輪郭、そしてあの動きは・・・。


さっき、イヴェリン様が凍らせたモルグレムだ。

重力で氷が割れ、隙間から出て来たのだろう。

重界魔法に魔力を流し込み続けて背後の気配に気が付いていない。

段々と近付いて来るモルグレム。


このままじゃ危ない・・・!

せめて、声開けでも出せれば・・・!

キリルがそう思った時、隣から声が聞こえた。

何があっても何とかしてくれる、安心感。

ムカつくほどいつも通りの、頼もしい声。


「イヴェリン、もういい。あとは俺に任せろ。」

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