24.隷属の首輪
アダムスが、流れる景色の中で剣についた石に触れた。
「全員聞こえるか?一人この騒動を起こした奴を捕まえて詳細が分かった。」
オリヴァンから聞いた話を簡単に説明した後、軽く息を吸う。
「あと・・・イヴェリンが捕まったそうだ。」
ぐっと剣を握る手に力が入る。
「おそらく犯人たちは全員そちらに集まるだろう。今から俺はそっちに向かう。もし助けが必要になってもすぐには行けないから、危険な時は近くにいる団員を大声で呼んでくれ。手が空いたやつは、近くのフォローに回ってくれ。頼む。」
指を離し、前を向く。
すると、一呼吸置いた後、石が大音量で喋り出した。
『イヴェリン様何やってんすか!』『団長以外の全方向に敵を作るからですよも~!』『俺らの事は気にしないで、思いっきり戦ってください!』『魔物の事はこちらで何とかしましょう。』『どこっすか?!大噴水んトコっすか?!全部やっつけたら行きます!』『自分たちの事は心配ご無用ですよ。』
頼もしい叫び声がどんどん溢れて来て、石にひびが入りそうだ。
止まらない声、声、声。こんな状況なのに思わず笑みが漏れる。
すると、カリナの声が一際はっきり聞こえて来た。
『イヴェリン様が捕まるって・・・普通に戦ってたらありえないですよ。団長、気を付けてください。』
「ああ、俺もそう思う。何か卑怯な手を使ったんだろう。・・・そういえば、イヴェリンの影はどうしてるんだ?カリナ、何か聞いてるか?」
イヴェリンをボスと呼ぶ情報ギルドの影達。
情報の収集能力や隠密力、戦闘力もさることながら、イヴェリンへの忠誠は他の者とは比較にならない。
その影は普段ならば常にイヴェリンの傍にいるのに、まだ姿が見えない。そういえば気配もない気がする。
イヴェリンが捕まったとなれば、なりふり構わず助けに行きそうなものだが・・・。
『・・・あっ!敵がっ!すいません、倒してきまっす!!』
そう言い残してカリナの声は聞こえなくなった。
何か理由があるんだろうか。
走りながら考えつつ、道から出て来たゴブリンをひき逃げする。
もうすぐ広場だ・・・!
もしかすると、拘束されたイヴェリンが拷問でも受けているかもしれない。
噴水に頭を押し付けられたり、太陽のように輝く髪を切られたり、ナイフで脅されたり・・・いや、想像が付かないが。
だがキリルが捕まったと言っていたのだ。
何かしらの辱めを受けているかもしれない。
踏み出す足に力が入り、頭の中を血が駆け巡る。
広場に入る、角を曲がった。
行きよりも早い時間で同じ距離を戻り、肩で息をしながら噴水の方を見る。
イヴェリンと、キリルは・・・?!
噴水の左手に人影が見え、近寄ろうと足を踏み出そうとして、止めた。
「立て!立てと言ってるだろ!」
「いぃぃぃやぁぁぁだっっっ!!」
背の高い男がこちらに背を向け、地面に向かって声を荒げている。
足元には、亀のように丸まった・・・イヴェリン?
「な・・・何事だ?これは・・・」
「あっ!団長!!」
イヴェリンの向こう側から、剣を構えたキリルが叫んだ。
「アダムスっ?!・・・あぁっ!!」
イヴェリンが、重力を無視したような不自然な動きで立ち上がり、男の腕の中に納まった。
何が何だかわからないまま、男から距離を取りつつキリルの方へと回り込む。
イヴェリンを腕に抱いた男が振り向くと、見覚えのある顔と前髪。
「お前は・・・!伯爵家の、あ~・・・コロネだったかコルネだったか」
「コロネリオだ!コロネリオ・クロイツェル、この国の王となる男の名だ。」
「・・・は?」
アダムスが口を開けたままどうしていいかわからず戸惑っている。
団長の珍しい表情を見ながらキリルが横に並んだ。
「団長、イヴェリン様は・・・隷属の首輪を付けられてます!」
「ヴェル・・・何だって?」
「隷属の首輪です。サハラード王国の遺跡から発掘された神話時代の遺物で、首に嵌めると嵌めた相手の奴隷になってしまうそうです。」
「遺物って・・・なんでそんなもん持ってるんだ?」
「そんなもんどころか、国宝ですよ、国宝!間違いなく盗品です。」
改めてコロネリオの方を見ると、ニヤリと勝ち誇ったように笑ってイヴェリンの首に回していた腕を緩め、髪を手で掬った。
イヴェリンの首には色とりどりの宝石が装飾された金色の太い首輪が嵌められ、細い首筋を完全に隠している。
「外すのは不可能だ・・・この首ごと斬らない限りな。つまり、この女は死ぬまで俺の言う事を聞くお人形さんって事だ。」
ニヤニヤと黄ばんだ歯を見せて笑っている。
よくよく見て見ると、くるりと丸まった前髪や顔もギトギトと脂ぎっている。
「きったないのよ!臭いし!アンタお風呂入ってないでしょ!」
イヴェリンがコロネリオの腕の中で叫ぶ。
隷属の首輪と言えど、全てを思い通りに操れるわけではないのだろうか。
「誰のせいだと思ってるんだ!」
「アンタが汚いのはアンタの老廃物のせいでしょ!」
「お前のせいに決まってるだろ!お前を捕まえるためにあんな下賤なやつらの話も聞いて指示にも従い、身を隠して忍んでいたんだ。だが、お前を捕まえた。もうこれですべて終わったんだ。」
はっはっは!と、あの夜会で聞いた父親そっくりの笑い声を出す。
「臭いから口を開かないで頂戴。吐き気を催すわ。」
「旦那様に酷い言い分だな。まあ気の強い女が屈して行く様も嫌いじゃないがな。」
「・・・あいつはさっきから何を言ってるんだ?」
話が見えないアダムスが視線を前に向けたままキリルに問いかける。
「えっと・・・さっき言ってたのをまとめると、『国王陛下や大臣達は魔物に殺され、役に立たなかった魔法騎士団長は魔物に殺されるか国民に糾弾され捕らえられる。だが魔物の襲撃が過ぎ去り疲弊した王都にイヴェリン様を救った英雄として俺様が降り立ち、イヴェリン様に懇願されて仕方なく娶り自動的に国王になる』らしいです。」
「・・・何を言ってるんだ?」
「いえ、ホントその通りで・・・。」
「アイツらの計画を聞いた時には、多大な犠牲を払ってしまう事に躊躇もしたさ。だが歴史上で見れば、正しい場所に正しい人間が在る事こそ正義だと言わざるを得ないんだ。お前達には悪いが、真の歴史を紡ぐために犠牲になってもらわなくちゃいけないんだ!」
「アンタのいる場所は汚物入れでしょ。同じ臭いがするもの。」
吐き捨てるように言われると、コロネリオは腕を引き寄せイヴェリンの後頭部に口をつけようとする。
「~~~~~ッ!!!!!」
イヴェリンが必死の形相で首を前に伸ばしそれを避ける。
負け惜しみか、引き攣ったニヤニヤ顔のままコロネリオが言い放った。
「ふふふ。ご主人様に対して生意気なのも、今のうちだけだ。もうすぐこの王都にはSランクやAランクの魔物が溢れる。王城ではSランクの魔物がお前の父親達を喰い尽くし、この国を生まれ変わらせる為に必要な儀式が始まるんだ。」
自分に酔った男の声が、誰も居ない広場に響き渡った。
湿った風が吹いて枯れ草が転がり、空々しさをさらに演出しているようだ。
呆れた顔の三人を代表して、アダムスが口を開いた。
「あ〜・・・何から言えばいいのか。・・・とりあえず、王城の魔物はもう倒したぞ。」
「・・・は?」
先程のアダムスと同じ表情で、同じ言葉を発するコロネリオ。
「あと陛下も宰相や大臣達もみんな無事だ。まだ他にも魔物がいるのかもしれんが・・・オリヴァンを残してきたからな。Sランクがあと数十体とか、そんなんじゃなけりゃ何とかなるだろ。」
「・・・何の話をしてるんだ?俺は、魔物の話をしてるんだぞ?」
「だから、Sランクの魔物が」
「そんな訳ないだろう!Sランクだぞ?!熟練の冒険者パーティや国家魔法師達が隊列を組んでも勝てるかどうかわからんような魔物だ!お前らが何人いたって勝てる訳無いだろ!」
「勝てるわよ。」
コロネリオの腕の中で、イヴェリンがキッパリと言い切った。
「田舎育ちのアンタや何年も国を離れてた『黒牙の影法師団』の馬鹿共、あとウチを見下してる第一の奴らなんかは知らないでしょうね。」
そこまで言うと「教えてやる義理もないけどね!」とハンッと鼻で笑う。
「言え。ご主人様の命令だ。」
笑う余裕も無くなったのか、真剣な声色でコロネリオが言うと、軽く抵抗して見せたイヴェリンがゆっくりと口を開いた。
「第一魔法騎士団は、アダムスが団長になってから徹底的に鍛えられ直したの。Aランクの魔物程度、敵じゃないわ。」




