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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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24/33

23.走り出したアダムス

「だから言ったのに~。そんな走んなくていいって。」


肩で息をするテオバルトに、オリヴァンが声をかけた。

ニオルダンに諸々の手を使い事情を聞き出した二人が勢いよくドアを開けた広い応接間の一番奥の窓際には、国王陛下や大臣達を守るように輪になった近衛兵や第二魔法騎士団の団員数名。

彼らがプルプルと子ウサギのように震えながら見る先にいるのは・・・。


「おう、遅かったな。何か縛るもん持ってないか?」


と座ったまま手を出す我らが第一魔法騎士団長アダムス。

そのお尻の下には、グレーのローブを纏った男が気を失っている。

何とか縛る物を作ろうとしていたのか、手には紐状になったローブの端が数本。

さらにアダムスの目の前には、真っ二つになったミノタウロスと、砂の山。


「なあ、これの名前なんだったかわかるか?」


オリヴァンから拘束具を受け取りながらアダムスが尋ねると、つま先で砂の山を軽く崩していたオリヴァンが、さっと足を引いて答えた。


「サンドレイスっすね。俺の方にこいつ来なくて良かったぁ~。」


サンドレイス。簡単に言うと砂で形作られた死霊である。

稲妻を帯びた砂が人の形をしており、直接攻撃をすれば感電死、遠隔で攻撃すると死霊を飛ばし精神破壊、逃げようとすれば呼吸器から侵入して命を吸う、Sランクの中でもさらに上位、言うなればSSランクの魔物だ。

飛んで逃げないよう風魔法を使う魔法師と死霊使い、更に交代で遠隔攻撃を繰り返す魔法師二人の四人がかりで倒したという資料は見た事があるが・・・。

テオバルトが、唖然とした顔で靴に着いた砂を払うオリヴァンを見ている。


「こんなのどうやって捕まえて持ってきたんすかね?」


「・・・多分、あの子を餌にしたんだ。」


アダムスが顎で示した部屋の隅には、子供が横たわっている。

部屋の窓から取ったカーテンがかけてあり、生気は感じられない。

子供を魔物の前に差し出し、逃げようとした身体の中に入った所で子供ごと氷漬けにしたという事だろう。


「・・・胸糞悪い連中ですね。もっと痛めつけときゃ良かった。」


「お、おい!それ、ミノタウロスじゃないのか?」


オリヴァンの後ろから顔を出したテオバルトが、アダムスの目の前に倒れている魔物を指差した。


「お、よくわかりましたね~第一団長、正解っす!」


「うるさい!指を差すな指を!・・・なあ、ミノタウロスはAランクじゃないのか?」


ミノタウロス。牛のような頭に人間のような体をもった魔物。

背丈は2メートルを超え、体毛に覆われた体は厚みがあり、歩く雄牛といったところだ。

使う魔法も身体強化と、足を踏み鳴らして近くの敵を吹き飛ばす衝撃波で、まさにパワー系モンスターである。

Aランクだからなんだ?と不思議そうな顔をしているアダムスに気付き、オリヴァンが説明を始めた。


『黒牙の影法師団』のメンバー五人がSランクの魔物を五体それぞれ持っている事。

その中の一体、オールドデュラハンは既にオリヴァンが倒した事。

また、魔の森で捕らえたAランクの魔物がまだ数十体ほどいる事。

さらに、前情報ギルドのメンバー五人の中の三人は国王の近くで身を隠している事。


「こっちにその男みたいなのもう一人いませんでした?さっきの奴の話では、残りの二人は陛下の近くにいるって話だったんすけど。」


窓際で固まっていた団体の中心に居る国王陛下が「ひぃっ?!」と小さな声を出した。

近くにSランクの魔物がいるかもしれないと思ったのだろう。


「そうなのか?他には気配を感じなかったから、この部屋には居なかったと思うぞ。だがあと三体Sランクがいるのか。よし、じゃあ探しに・・・」


言いかけた途端に、団子になっている一同から悲鳴が上がった。


「アダムス!本当に本当に本当に、もう安全なのかっ?!」「第一団長!行かないでくださいよぉ!!」「僕達だけでSランクの魔物と戦うなんて無理ですぅ~!」


情けない声を上げる国の重鎮達と第二魔法騎士団員達。

アダムスとオリヴァンが苦笑いしてテオバルトの方を見ると、顔を真っ赤にした第二魔法騎士団長が叫んだ。


「きっ、きっ、貴様らぁ~!!それでもルクレイン王国第二魔法騎士団かっ!!身を挺してでも国王陛下をお守りしようという気概はないのか!!」


テオバルトが足を踏み出そうとした瞬間。


ドゴォォォォ・・・ン


アダムス達の正面、つまり固まっている陛下達の背後の窓、ちょうど見えていた大噴水広場の手前に、巨大な火柱が上がった。


「なっ!なんだ!次はなんだっ?!」


狼狽えるテオバルトと怯える面々を横目に、アダムスとオリヴァンは窓に近寄ると短く会話を交わした。


「・・・あれは、カリナか。」「カリナっすね。ん?上に飛んだの、グロースマザーかな。」


オリヴァンの言葉に思わず全員が振り向いて空を見上げた。


牛ほどのサイズがある巨大な蠅が、空高く飛んでいる。

いや、いたのだが、地上から立ち上って来た巨大な火柱に飲み込まれ、すぐに黒い塊となって消えた。

気のせいか、ジュッという焼けた音が窓越しに聞こえた気もする。


黒い灰となって消えたのは、肥大した半透明の腹部の殻の中に無数の蠢く幼虫を宿した、気持ち悪い母(グロースマザー)と呼ばれる蠅の魔物である。

その黒く濁った羽を羽ばたかせると腐敗魔力の波を放出して生き物を腐り落とし、その死骸を媒介に一瞬で幼虫を孵化させ、群れとして襲わせるSランクの魔物だ。

生まれた子供も同じく蠅の魔物のため、初期の対応を間違えると一気に繁殖して小さな国ならば数日で食い殺されてしまったという伝説もある、非常にやっかいな魔物である。


「グ、グロースマザー、だと・・・?」


「それは・・・見たら全てを捨てて逃げろと言われる、災害級の魔物じゃなかったのか・・・?え?さっきのが?」


各々が目の前で起こった事を受け入れられないまま呆然としている。

が、アダムスとオリヴァンは当たり前のように会話を続ける。


「あいつ、周りに飛び火させてないだろうな?」


「大丈夫じゃないっすか?あ、ほら、防御魔法も展開してるし・・・あはは、叫んでますよ。『キモ~い!』って。」


「アイツ虫嫌いだからな・・・。って事は、残りのSランクは二体か。」


オリヴァンは、目に身体強化の魔法を集中させてカリナの様子を見ているようだ。

そのやり取りを聞いていたテオバルトが口を開こうとした時、アダムスが剣に手をかけた。


「えっ?!第一団長?!な、なんだっ?!まだ敵が」


「アダムスだ。カリナ、炎の威力はちゃんと調整しろ。火の粉が風に乗って火事になるかもしれないだろ。」


『すいません~!でも、とにかく気持ちが悪くてぇ・・・』


「まったく・・・。キリル、今からそちらに戻る。」


剣に付いた石に向かって話しかけるアダムス。

オリヴァン以外はポカンとその様子を見ている。


「お、おい、あいつは何をしてるんだ?」


「あぁ、あれ遠くにいる相手と話せるらしいんですよ。イヴェリン様が開発したやつで。」


テオバルトとオリヴァンが小声で話している。

すると、石から小さな、くぐもった声が聞こえて来た。

キリルだ。


『団長・・・イヴェリン様が、捕まりました・・・まだ抵抗してて・・・噴水のとこです・・・』


バッ!


オリヴァンが、無意識で思わず剣に手をかけた。

テオバルトが、恐怖で一歩、二歩、後ろに下がる。

すぐ近くにいた第一魔法騎士団員のうち数人と、国王陛下も気が付いたのか顔をこわばらせている。


彼らの目は、ただ一人に集まり、畏怖の色を映し出す。

アダムスから、強い、強い殺気が放たれているのだ。


窓から外を見ていたので顔は見えないが、先ほどまでと明らかに空気が違う。

まるで放電しているような、もしくは空気自体の重さを変えたような・・・。

魔法は使えないはずだ。そのはずだが、まるで知らない魔法を使って、身体を押さえつけられているかのようにも感じる。


人間が、こんな威圧感を出せるものなのか・・・?


「・・・オリヴァン。」


「王城の確認ができ次第、すぐに追いかけます。」


目の前の窓を開き枠に足をかけると「頼んだ。」と短く答えて軽く沈み込み、バネのように跳ね城下に向かって飛び出した。

テオバルトがやっと軽くなった体を動かし窓の下を見た時には、もう豆粒のように小さくなったアダムスが角を曲がり見えなくなる所だった。


「さ、先ほどの声は、イヴェリンが捕まったと言ってたのか?」


震える声で近寄って来る国王陛下。

手に負えないとはいえ娘は娘。その顔には父親として心配だと書いてある。

一国の王としてはいただけないが、感情を隠せない所は人として好ましく、それもまた国民に人気が高い所以でもあるのだろう。


「状況はわかりませんが、そのようです。ですが、団長が向かったので程なく解決しますよ。自分も陛下の安全が確保され次第すぐに向かいます。」


「・・・手伝おう。」


振り向くと、テオバルトがばつの悪そうな顔をしている。


「・・・第一団長やお前達副官が異常なのはもう理解した。Sランクの魔物なんて、俺達じゃ陛下をお守り出来ないからな。だが奴らがいないか調べるくらいは出来る。そうすれば早く第三王女の元に行けるだろう?」


「第二だんちょー・・・。」


「ふん、今は協力してやるだけだ。我ら第二魔法騎士団は魔物を倒す為じゃない、陛下を守るために在るからな。」


「ズボン履いてからもっかい言い直します?」


「うううううるさいっ!早く行くぞっ!お前たちも手伝えっ!」


慌てて立ち上がった第二団員達と共に、テオバルトが歩き出した。


苦笑いしたまま窓の外を見たオリヴァン。

夕焼けを覆い隠した雨雲を見て、小さく呟いた。


「イヴェリン様・・・」

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