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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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22.オリヴァンの戦い

「それで?」


オリヴァンが短剣の血を拭いながら問いかけた。

短剣には釣り針のようなトゲが無数に付いており、抜こうとするとトゲが引っ掛かりさらなる痛みを与える作りをしている。


何も知らない侍女などに目撃されても面倒なので、手近な部屋で防音魔法を展開し聞き取りを開始してから二十分ほど。

太ももから回復魔法の淡い光を放つ元伯爵家長男のニオルダン・フェルゼが泣きながら答える。


「ふぐっ・・・『黒牙の影法師団』のリーダーが、一気に終わらせてしまえば・・・ぐすっ・・・王太子も帰国出来なくなるって・・・王の座が手に入れれば他の者も、ひっく・・・従うだろうと・・・」


ニオルダンの言う王太子とはイヴェリンの兄の第一王子、ヌアレス・ルクレインの事である。

春になると王の代理として近隣の同盟国を数か月かけて巡るのが慣例となっている事は、この国に住む者なら誰もが知っている。


「だからこのタイミングでこんなクーデター紛いの事をしたってわけ?にしてはお粗末だよねぇ。計画も杜撰だし、使ってる魔法も偏ってるし。」


「それはぁ・・・逃亡先がサハラード王国で、雇った魔法師たちが水と評決魔法しか使えなかったから、こういう計画に・・・。」


サハラード王国とは、魔の森を隔てた反対皮に位置する砂漠の国である。

つまり、イヴェリンに潰された元情報ギルドの『黒牙の影法師団』と、手を出そうとして返り討ちに合った元貴族が逃亡先の魔の森を超えたサハラード王国で手を組み、ルクレイン王国の乗っ取りを企てた、という訳だ。


「にしたって、第二だけならまだわかるけど、俺らがいるのにあんな雑魚バラまいたって国の危機になんないでしょ。」


「おい!我が第二魔法騎士団を馬鹿にするな!我らは誇りを貴族としての矜持を胸に日々研鑽を」


いまだカーテンをスカートにしたままのテオバルトが異議を唱えるが、二人は無視して話を続ける。

回復魔法の光が薄くなり、傷が癒え痛みが引いてきたのかニオルダンがニヤリと笑った。


「ふっ・・・今お前たちが目にしたのは、我らが長い時をかけて集めた魔物だけだ。たかがCランクやBランクの魔物を相手にしただけで終わったと思うなど、おめでたい頭を・・・あ!ごめんなさい!嘘です!」


子爵家三男のオリヴァンが鞄から金属を練り込んだ鞭を取り出そうとしていて慌てて頭を床に付けて全力で謝罪する元伯爵家長男。

オリヴァンが手を鞭にかけたまま無言で見下ろしているのを見て、すぐに口を開く。


「魔の森で捕らえたAランクの魔物を数十体と、Sランクの魔物を五体持ち込んでますうっ!Sランクの入った袋は『黒牙の影法師団』のメンバー五人がそれぞれ持っていて、その中の三人は国王の近くで身を隠してい・・・んぎゃっ!」


バシッ!


ニオルダンの言葉が鋭い鞭の打撃により遮られる。

オリヴァンが手にしていた鞭を素早く引き抜くと、ニオルダンに巻きつけ鞭ごと部屋の奥の壁へと放り投げたのだ。

ニオルダンは巻きついた金属製の鞭先が壁に刺さり完全に拘束された形になったが、本人は痛みと恐怖で泡を吹いて気を失ってしまったようだ。


「おっ・・・お、お前、一体何を」


テオバルトが壁に貼り付けられたニオルダンからオリヴァンの方へと顔を向けると、言葉を失った。

オリヴァンがいつの間にか抜いている細剣を持ち、ニコニコと細かった糸目を見開いて正面を見据えている。

その視線の先では、先ほどまでニオルダンが居た場所に刺した剣を抜く首のない騎士の鎧が剣を構え直し、その周囲には火の玉が四つほど浮かんでいる。


「まっ・・・まっ・・・魔物っ・・・!」


「・・・オールドデュラハンだね。どっからこんなの持ってきたんだか。」


困ったように笑うオリヴァンが呟いたのは、目にする機会がほとんどない非常に珍しい魔物だ。

成り立ちは不明だが、騎士や冒険者の遺体に魔物が取り付いて生まれると考えられている首のない騎士の魔物、デュラハン。

そのデュラハンが生まれて百年か二百年かそれ以上、討伐も魔物に倒されることもなく生き永らえると、さらに上位のオールドデュラハンとなり、火炎魔法を操るようになると言われている。

ちなみにデュラハンはBランク、オールドデュラハンはSランクである。


「こ、こんなのどうすればいいんだ・・・終わりだ。オールドデュラハンなんて・・・。」


本でしか見た事がないような魔物に、テオバルトが文字通り頭を抱える。

錆びた鎧と剣を構えた魔物は、周囲に作った火の玉をシュルシュルと回転させながらこちらの様子を伺っているように見える。

すると、オリヴァンがオールドデュラハンから視線を外さないまま片手で腰に付けていた鞄に手を入れ、中から先ほどとは違う短剣を取り出すとデュラハンより二人分ほど離れた左側の床を向かって投げた。


バスッ!


「ちっ!外したか。」


「え?どこに投げ・・・えぇっ?!」


床に刺さった短剣から、徐々に光沢のあるグレーの布地が現れ段々と人型になって行く。

先程アダムスに殴られたニオルダンが纏っていたのと同じローブだ。

現れた髭面の男が、オールドデュラハンから離れようと必死で床に縫い留められたローブを引っ張っている。


「あ、アイツ、前の情報ギルドの・・・?」


テオバルトがそう口にした時、オールドデュラハンが動いた。

右腕で剣を持ち上げ、そこから逃げようとしている前情報ギルドの男の首を狙い振り下ろす。


バンッ!カンッ!


間一髪、テオバルトが前情報ギルドの男に体当たりして転がり、そのまま壁にぶつかった。

手元を見ると、前情報ギルドの男は頭を打ったのか目を回している。


た、助かった・・・!

テオバルトがそう思い後ろを振り返ると、男がいた場所にオールドデュラハンの剣が突き刺さって・・・いなかった。

オリヴァンがオールドデュラハンとの間に立ち塞がり、細剣の鍔の部分で相手の剣を受け止めている。


「第二団長、やるじゃ~ん。」


そのまま持ち上げるようにオールドデュラハンの剣をはじくと一歩下がって距離を取り、視線はそのままに腰に着いた鞄をテオバルトに投げてよこした。


「中に拘束具があるから、そいつ縛っといてよ。」


「お、お前は・・・?」


「ん?コイツ倒さなきゃでしょ?」


オリヴァンに剣を向けられたオールドデュラハンも、敵は一人と見定めたようだ。

首から上がないので表情はわからないが、剣を構えオリヴァンに向き直る。


無理だ・・・!相手はSランクの魔物だぞ!と言おうとしたが、張り詰めた空気に口を開くことが出来ない。

お互い向かい合ったまま動かなかったが、テオバルトが生唾を飲み込んだ時、状況が動いた。


シュルシュルと小さな音を立ててオールドデュラハンの周りに浮かんでいた火の玉が一つ、オリヴァンの顔目掛けて飛んで行く。

それを見つめていたオリヴァンの目の前に小さな水球が生まれ、パシュウ!と音を立てて火の玉と相殺する。


テオバルトの頭の中に言葉が浮かぶ。

無詠唱魔法。

イヴェリン第三王女様が使えるという噂は第二まで届いていたが、まさか、副官までもが使えるとは。


そのまま火の玉が二個、三個と続いてオリヴァンを襲うが、同じように小さな水球でパシュッ!パシュウ!と応戦。

お互い剣を構えたまま微動だにせず、魔法の応酬がしばらくの間続けられる。


だが徐々に、オールドデュラハンが火の玉を作るスピードをオリヴァンが水球を作るスピードが上回り始めた。


「す、すごい!押してる!押してるぞ!」


邪魔をしないように気を付けながら全情報ギルドの男を縛っていたが、思わず口から言葉が漏れた。

すると、そのつぶやきが存在しない耳に届いたのかオールドデュラハンの上半身だけがグルン!と勢いよくテオバルトの方を向く。


「ヒイッ!!!」


テオバルトが悲鳴を上げた瞬間、オリヴァンが動いた。


空中に浮かんでいた水球を一斉に放つと同時に、オリヴァンが跳躍してオールドデュラハンに飛び掛かる。

その気配に気付き、避けようと後ろに下がるオールドデュラハン。

だが、下からギシッという音がしてその動きは叶わない。

テオバルトがオールドデュラハンの足元を見ると、いつの間にか古びた鎧のブーツが氷に包まれ床に固定されている。


「気付かなかったっしょ?」


オールドデュラハンの上から降って来る声。

高く飛んだオリヴァンは、敵が足元に意識を向けた一瞬の隙に錆びた剣に左足をかけ、右足をオールドデュラハンの肩に乗せて鎧の中へと細剣を向けていたのだ。


細い剣先から漏れ出る白い冷気。

また、凍らされる!とオールドデュラハンが思ったかどうか定かではないが、危険を感じたのだろう。

空っぽの鎧の中から、一瞬空気を吸い込むような感覚を覚えた後、大きな重低音の咆哮が衝撃波となり放たれた。


「グォォォォ・・・ォオオオオオォォォォォンッ!!」


音ではなく圧が叩きつけるように襲い、耳から入り脳を直接揺さぶるような衝撃。

火の粉を伴ったその攻撃は距離を取ったテオバルトの動きすら封じ、視界を歪め、鼓膜が破けなかったのが不思議なほどだ。


それを真上から直接浴びたアイツは・・・!と痺れる身体を動かしオリヴァンを見やる。

が、剣を構えたままのオリヴァンは、ニヤッと不敵に笑った。


「対策済みなんだよねぇ、これが。」


そう言うと、剣先から氷結魔法を繰り出した。

バシュッ!と音を立てて剣先から放射状に氷柱(つらら)を広げるクリスタリア・ブルーム、通称氷晶の花である。

通常は手のひらに乗るくらいのサイズで、美しい氷で出来た花のように見える、相手にぶつけて使う氷の武器。

その魔法が今オールドデュラハンの中で爆発し、無数の氷柱(つらら)は鎧を貫いて咲き誇る。


「やっ・・・た、のか?」


テオバルトが内側から飛び出した氷でトゲトゲになった鎧を見つめる。

動きは止まっているが、そもそも空っぽの鎧が動いているのだ。

何をどうやれば倒したことになるのか見当もつかない。


「あ~疲れたぁ~!」


と言いながらオリヴァンがオールドデュラハンの肩から飛び降りた。


「おい、もう大丈夫なのか?!」


「え?!何てぇ?!」


近付いていたテオバルトに、大声で聞き返す。

よく見ると、オリヴァンの耳が氷で覆われている。


「あぁ!忘れてた!」


両手を耳に近付けると、シュンッという音を出し氷が湯気となって消えた。

目を見張るほどの、恐ろしい精度の魔力調整と魔法操作である。

唖然としてしまっていたが、状況を思い出し再度尋ねる。


「このオルードデュラハンは、もう動かないのか?」


「うん、もう倒したから大丈夫だよ~。」


「大丈夫だよってお前、そんな軽く・・・Sランクの魔物だぞ?」


「あ~・・・コツがあるんだよねぇ。あの鎧が本体で外からの攻撃が効かないとか、魔法は基本二通りで爆弾と咆哮しかないとか。」


「・・・爆弾?」


怪訝な顔をするテオバルト。


「あの炎の玉あったっしょ?あれ、ぶつかったり落ちたりしたら大爆発すんの。この部屋くらいはぶっ飛ぶよ~。」


「お、おま、お前っ・・・!そんな危険なら言えよ!!」


「だって大丈夫だしさ~。俺と相性がいいってのもあるよね~。」


戦闘中とは別人のようにヘラヘラと笑っているオリヴァンを見て、何とも言えない気持ちを覚えるが、今はそれどころではない。

テオバルトは立ち上がり縛り上げた前情報ギルドの男に一度目をやって叫んだ。


「それより、陛下の所だ!あっちにも、身を隠した奴がSランクの魔物を持ってるんだ!急いで向かうぞ!」

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