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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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18.空気の読めない襲撃

「まったく・・・。ちゃんと手続き踏んで申請すれば、王女様なんですから情報なんていくらでも見れるでしょ。一応副団長でもあるんだし。」


「一応って何よぅ。一応って。」


カリナに叱られ、ブスくれたイヴェリンが文句を言う。

王都周辺の草原に群生しているフルフル花のような淡いピンク色の唇を尖らせている姿は、何とも愛らしい。


「で、結局見つける手立てはないのか?何か、隠蔽魔法を解除したり出来るようなものなど・・・王城には戦えぬ者も大勢いるのだ。」


第二魔法騎士団団長のテオバルトが、中央商会の全商品を管理しているツブランに問いかける。

イヴェリンが「王城の中くらいアンタ達が守りなさいよ!」と文句を言っているが、聞こえないフリをしているようだ。


ツブランが、ん~・・・とアゴに指をかけて考えていると、イヴェリンが「アレは?アダムスの剣と一緒に作らせたやつ」と耳打ちする。


「剣?」


アダムスが挨拶以外で初めて声を出した。

腰に付けている自身の剣を手をかけ、軽く持ち上げて見せる。


「そっちのじゃなくて、あの時私が持ってた少し大きめの石あったでしょ?あっちよ。」


「アレはまだ試作段階ですが・・・。しかし、いや、確かに使えるかもしれませんね。ええ、ええ。アレなら数も充分ありますし・・・。」


ツブランが一人で納得すると、陛下に向かって話し始めた。


「イヴェリン様が言われたのは、現在中央商会研究部にて魔物感知補助珠と仮称している試作道具でございます。原理としては、周囲に漂う魔素流の微弱な乱れを検知し、その位相差を内部の魔力干渉結晶が共振偏光として反応する仕組みでして、対象となる魔物が発する魔力の波形ゆらぎを感覚的に可視化しおおよその位置を把握出来る仕組みとなっています。しかしながら現段階ではその精度がやや“感覚的すぎる”傾向にありまして・・・。」


長い説明に陛下の目が泳ぎ、イヴェリンの方へとたどり着く。


「つまり?」


「持ってると何となく魔物の位置が分かる道具。ここら辺にいるな~とか、その程度。」


「つまり、王城ではそれが反応する場所に第二の団員を、街にはウチの団員を配置するという事か。あとは手の空いている憲兵にも見回りを強化してもらって・・・まあ現状打てる手としてはそれ位しかないな。あとはギルドにも声をかけて、手が空いている冒険者を回してもらおう。」


アダムスの言うとおり、しばらく全員で頭を捻るが他に有効と思われる手立てが思いつくはずもなく。

王城を飛び出しすぐに戻って来たツブランが持ち込んだ大量の魔物感知石の仕分けや人員の配置などを決めた所で解散となった。


そして王城からの帰り道。

カリナは先に第一騎士団の訓練場に魔物感知石を持って行き、団員達へ事情の説明と即出発を言い渡している。

訓練場に早足で戻りながら夕陽に照らされ琥珀色をしたイヴェリンを横目で見ると、アダムスが話しかけた。


「そういえば、王城に影を入れてまで何を調べてたんだ?何か困り事か?」


「えっ?!ええっと・・・こ、個人的な事よ!別に大したことじゃないわ!」


まさか、アンタの想い人を調べてんのよ!と言う訳にもいかず、フン!とつっけんどんな言い方をしてしまう。

そんな慌てるイヴェリンを見て、アダムスが思わず笑いだす。


「な、何笑ってるのよ・・・。」


「いや、魔物の攻撃はさらっとかわすのに、ふいに話しかけられて慌てるのは初めて会った時から変わらないな、と思ってな。」


白い歯を見せて笑うアダムス。

その横顔に、心臓が掴まれたように苦しくなる。

ああ、そうだった。この笑顔にやられたんだ。

貼り付けたような笑顔に囲まれて育ったイヴェリンが、八歳で初めて出会った本物の笑顔。


この世に生まれ落ちた時から持っていた、美貌と才能、そして王族の地位。

どんな物も手に入ったし、どんな事でも難なく出来た。

記憶の中にいる大人も子供も、機嫌を取ろうと必死な顔をしていた。

その瞳には、イヴェリンは映っていない。

利権にまみれた欲望か、秀でた才能に怯える恐怖。その二つの感情しか映っていなかった。

そしてそれを当然と受け取っていた、傲慢な子供だった自分。


魔の森の視察だって、兄姉より早い歳で行き、何なら全ての魔物を倒してしまおうと驕っていた。

そんな狭く退屈な世界に生きていたイヴェリンを、輝く広い世界に引っ張り出してくれたこの人。


アダムスの近くに行くために中央商会を作り、情報ギルドを立ち上げるまでに八年。

十六歳で魔法騎士団に入団し、一年で副団長に就任し肩を並べるようになって五年。


そうね、カリナの言うとおり。

もうそろそろ、勇気を出してもいいかもしれない。


「んんっ・・・ち、違うわよ・・・。」


「ん?何か言ったか?」


立ち止まったイヴェリンの声が聞き取れず、振り向くアダムス。


「わ、私が、話しかけられて慌てるのは、アダムスだけなんだから・・・。」


「え?何だって?」


振り向いたアダムスの表情は逆光で見えない。

夕陽のせいか、顔がドラゴンの火炎魔法を浴びたように熱い。

震える手を握り締め、一歩前に出ると、ギュッと目を瞑った。


あともう少し、もうちょっとだけ勇気を出すんだ・・・!


「だからっ・・・!私がっ、私にとって、特別なのはアダ・・・」


「しっ!」


いつの間にか目の前にいたアダムスが、イヴェリンの口に指をあてる。

アダムスの顔が目の前に、口に指が、息がっ、息がかかってる・・・!

イヴェリンの頭の中はパニックに陥り、口から心臓が飛び出しそうになるのを必死でこらえる。


だが、そのアダムスはどこか別の方向に意識をむけているようだ。


・・・カーンカーンカーンカーン・・・


王城の東、今向かっている訓練場のある方向から大きな鐘の音が鳴り響いてきた。

この音は・・・。


「魔響の鐘だ・・・!」


魔響の鐘とは、かつて神々が地上にいた頃に存在したと言われる神獣グレイスホーンの化石から取れたツノを使って作られた鐘の事だ。

注ぎ込む魔力の量で音の響く範囲が変わるので、非常事態が起こった際にその範囲を指定して回転させながら鳴らし、非常事態を知らせる道具として第一魔法騎士団の宿舎の上に設置してある。


その魔響の鐘が、王都全体に響き渡るほどの音量で鳴り続けているのだ。


「・・・っ!」


すぐさまアダムスが風のように駆け出し、すぐにイヴェリンも続く。

このタイミングで起こった王都全体を対象とする非常事態。

あの魔物が入った袋であることは間違いないだろう。


「・・・魔物凍らせた奴、見つけたら氷漬けにしてやる・・・!」


前を走る背中を追うイヴェリンが吐き捨てた声は、風に遮られアダムスの耳には届かなかった。

しばらく走ると、こっちに向かってくるオリヴァンが見え、その後ろからカリナも走ってきている。


「現状は?!」


「王城内と東八番地区、南六番地区でゴブリンが現れたと報告されています!ただ、他の地区でも目撃情報、中にはオークが居たという話も上がって来てて、現在確認中です!」


アダムス達が訓練場横にある倉庫に辿り着き、陛下との謁見用に着用していた礼装鎧を外しながら話を続ける。


「団員達は?」


「全員予定通り、王都中に配備しました。ただ、いかんせん王都が広いんで、どこでどんな魔物が出て来てるのかすぐに確認が出来なくて・・・。」


「出来るわよ。アダムス、ちょっと剣貸してちょうだい。」


アダムスの動きが止まり、怪訝な顔をしたままイヴェリンに剣を渡す。

受け取ったイヴェリンが、剣の柄に埋め込まれた石を指で押し、話しかけた。


「あ~、あ~、聞こえる?イヴェリンよ。聞こえたら、名前と返事をしてちょうだい。声に出すだけでいいわ。」


『イヴェッ?!イヴェリン様っすか?!』

『うわっ!なんだコレ!頭に響いてる!』

『・・・シド、南三番地区でゴブリン三匹を発見、二匹は倒しましたが、一匹が逃げたのでナリスが追ってます。』

『ナリスです!ゴブリンは討伐しましたが、追いかけた先の南一番地区でニールが討伐中のオークを発見、加勢に向かってます!』

『馬鹿、俺んとこじゃなくあっちのゴブリン倒してくれ!左に曲がってった!』


石からは止まることなく団員達の声が聞こえてくる。


「・・・これ、どういう仕組みなんですか?」


カリナが顔を近づけて石を人差し指で突っつきながら尋ねると、イヴェリンがいたずらっぽい顔をする。


「教えようか?」


「あ、いえ、イイデス。」


カリナの顔を見てフフッと笑うと、首元からネックレスを取り出す。

細いチェーンの先にはアダムスの剣と同じ石が付いている。


「対象を思い浮かべながら石を触ると相手の声が聞こえるの。王都全体に配置した団員達の中に私とアダムスは入ってないでしょ?私もこれ持ってるから、コレで状況を聞きなが危なそうなところがあれば向かうわ。アナタ達もすぐに向かいなさい。」


「「はっ!」」


オリヴァンとカリナが走り出し、すぐに見えなくなる。


「準備はいいか?」


戦闘用に作られた、デザインこそ無骨だが防御性に優れた鎧を身に付けたアダムスが剣を腰に付け直して振り向く。


「ええ、行きましょ。」


パチン、と同じく戦闘用の鎧のガントレットを付けたイヴェリンが前を向くと、二人は同時に走り出した。

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