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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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16.春の日差しと謁見

遠征開け最初の訓練日。


先週まで残っていた冬の女神の面影はルクレイン王国から消え去り、街ゆく人々の足取りを軽くする春の女神の歌声が響き渡る。

第一魔法騎士団の訓練場では、食後の満足感と暖かな日差しに瞼を撫でられた団員達が木陰で睡眠の魔法をかけられていた。


今は昼休憩で、団員達も思い思いに好きな場所でまったりと過ごしている時間だ。

訓練場の端にある木の下ではオリヴァンが座り、その横に立ったカリナと話をしている。

先日のイヴェリンの暴走を止めるべく店を出たカリナに、オリヴァンがその後の話を聞いているようだ。


「それで、イヴェリン様のお屋敷に着いたらいつの間にか王国中の成人以上の未婚女性をリストアップさせてたのよ。あれ使って何するつもりだったんだか・・・。」


「ええ~怖ぁ~!」


言葉とは裏腹に楽しそうに笑うオリヴァン。

手には午前中の訓練で使っていた細身の剣を持ち、手入れをしながら話を聞いている。


「で、それを取り上げて燃やして、女性の方じゃなくて団長側から探りを入れましょう?!って言ったのよ。そしたら今度はイヴェリン様、魔の森にまで走ってウルバヌス・オルドに話を聞きに行くって言いだして・・・。副団長が十日も留守にしたんじゃ、副官のアタシはたまったもんじゃないわ。」


「・・・ん?十日?魔の森って東の国境だから往復で一ヶ月はかかるんじゃない?」


剣の手入れをする手を止めてオリヴァンが王都から魔の森までの最短ルートを頭の中で考える。

が、途中のダンジョンを突っ切って近道してもやはり二十日はかかりそうだ。


「・・・『中央商会で開発中の魔力式走行車に私の全魔力ぶち込めば、十日で帰って来れるから安心なさい!』だってさ。」


「魔力式そーこー・・・何?それ。」


「なんか魔力で走る馬車みたいなのを作ってるらしくて、めっちゃ早いんだって。」


「魔力で走るって・・・魔力が有り余ってるイヴェリン様しか使えなくない?」


「まだ開発途中らしいからね。まあそんなこんなで何とか説得して、影を総動員して調べる事で納得してもらえたってわけよ。情報ギルドに依頼してる人達には申し訳ないけど、平和の方が大事だからね。ホント、陛下に今度イヴェリン様手当でも直訴しようかな。」


「ウルバヌスさんのとこまで行ったって知らないかもしれないのにね~。団長に直接聞けないってのがまたイヴェリン様らしいや。」


剣を片付け、両手を頭の後ろにやって寝転ぶオリヴァン。

その横にカリナが座り込む。


「ただ、これまでは王都の中でも外でも、影が情報を集めてたじゃない?魔物は別として、盗賊や暗殺事件なんかもイヴェリン様が事前に教えてくれてたから防げてたし、それがしばらくないんだと思うと・・・なんか、嫌な予感がするんだよね。」


「遠征で見つけた袋の事もあるしね。あれ、結局何だったんだろう?」


「それも中央商会の結果待ちだし・・・イヴェリン様に頼りっきりだね。」


「前も何かあれば潰れた情報ギルドに調査依頼してたじゃん?俺らも憲兵と一緒に捕まえに行った、あの~・・・何だっけ?なんか黒そうな名前の。」


オリヴァンが人差し指をクルクルと回しながら思い出そうとしているのは、イヴェリンが情報ギルド『影』を設立する前の話である。

かつて王都にあった情報ギルドは、情報を得る為ならば恫喝や脅迫も日常茶飯事で偽情報も多く信頼性も低いが、評判の悪い貴族が後ろに付いていたため王都で唯一の情報ギルドとして幅を利かせていた。

が、イヴェリンが『影』を立ちあげると瞬く間に全ての罪状を明るみにし、バックの貴族ごと潰したのだ。


「あ~あのクッソダサい名前のやつね。えっと・・・あっ、そうそう『黒牙の影法師団』よ!」


カリナが目の前で回っていたオリヴァンの指を捕まえる。

と、真後ろから声がした。


「あら、アンタ達もアイツらの話してるのね。」


話題のご本人登場で、二人とも思わず飛び上がる。


「イヴェリン様!いつから居たんですかっ?!」


「『イヴェリン様のお屋敷に着いたら』ってとこかしら。」


ほとんど話聞いてるじゃ~ん。とは敢えて言わずに、口をパクパクさせているカリナの代わりにオリヴァンが話を変える。


「アイツらの話って何ですか?」


「その黒いナントカ団の残党だか上層部だか下っ端だかが、逃げてたじゃない?それが国外から戻って来てたって影から報告されたのよ。二、三週間前だったかしら?国内の色んな所で見たらしくてね。まだ王都では目撃されてないらしいんだけど。」


「え、それ、逆恨みされてるし危なくないっすか?他に戻って来る理由なんてないし・・・イヴェリン様が狙われるだろうし、俺らも何か動きましょうか?」


「別に何もしなくていいわ。どうしても何かやりたいんなら、牢か墓の準備でもしといてちょうだい。」


ハンッと形の良い鼻で笑われる。

つまり自分の所に来たら返り討ち、というわけだ。


副官の二人は顔を見合わせ「頼もしい事で・・・」と言いながら立ち上がり、部下たちに休憩時間の終わりを告げに歩き出した。






数日後、王城の廊下を並んで歩くアダムス、イヴェリン、そしてその少し後ろを離れて歩くカリナと、大きなカバンを持って眼鏡をかけた小太りの中年男性。

三人は武器こそ携帯していないが、珍しく第一魔法騎士団の正装である鎧を着ている。

今日は遠征で発見した小袋の調査結果が出たので、その報告と今後の対策のために登城したのだ。

陛下との謁見の間まで歩きながら、イヴェリンがブツブツと文句を言う。


「年始に来たばっかりなのに・・・別に私はいなくてもいいじゃない・・・。」


「たまには陛下に顔を見せてやれよ。ああ見えて心配してるんだと思うぞ?それに、副団長としてだけじゃなく中央商会のオーナーとしても行くんだから、仕方ないだろ。」


アダムスに言われ、口を尖らせたまま反論出来ずにいると後ろから激しい同意の声が飛んできた。


「そっ、そうですよっ!陛下の御前で一人で説明なんて、私がストレスで痩せたらどうしてくれるんですか?!」


大きなカバンを持っていない方の手で額の汗をぬぐいながら三人に付いて来ているのは、中央商会の商品開発・研究のリーダーをしているツブラン・モルクだ。

イヴェリンの無茶ぶりに文句を言いながらもしっかり注文通りの商品を作り、世に売り出せるよう改良したヒット商品の数々は彼の手腕によるものだ。

ちなみに彼が小走りなのは普通に歩いている三人の足が長いからであって、一般的な中年男性の彼の足が短いからではない。


「ツブランは痩せた方がいいでしょ。奥さんも喜ぶわよ。」


「いえいえ、妻は私のこのお腹が好きだと言ってくれてますからね!」


ふふん、と胸を張ってみせるが、突き出されたお腹は早足でボヨンボヨンと上下に揺れている。

そのお腹をジッと見た後、イヴェリンが吐き捨てるように言う。


「今度痩せる薬でも作って寝てる間に人体実験してやる。きっとバカ売れするわよ。」


「ううっ!すぐそう言う興味を引く事言う~!でもそんな薬なら実験体になりたいって人が殺到するでしょうからね。僕に飲ませる分なんて余りませんよ!」


「イヴェリン様?そんな薬作ったら、まずアタシに声かけてくださいね?」


カリナがいつの間にかイヴェリンのすぐ後ろに来て腕を掴む。

初めて見るほどの真剣な目つきを見て声に出さずにうえ〜と顔で返事をするイヴェリン。


「ほら、そろそろ静かにしろ。着いたぞ。」


アダムスが立ち止まったのは、シンプルな木目の両開きの扉の前だ。

その両サイドには鎧を着た兵士が立っている。

コチラをジッと見ていた右側の兵士が小さく頷くと大声でアダムス達の来訪を告げ、扉を開いた。


「第一魔法騎士団団長、アダムス・オルド、並びに随行三名、ご入室されます!」

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