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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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15.アダムスの爆弾発言

レストラン『金の麦の穂』での宴はまだ続いている。


「団長はもうずっとご実家・・・というか、ウルバヌス・オルド氏の所に戻られてないんですか?」


お代わりを貰って冷えたエールを両手で持って飲みながら、新人のセイルが尋ねた。


「あ~用事がある時は帰ってるが、何しろ遠いからなぁ。」


三杯目のエールを喉に流し込みながらアダムスが答える。

とその時オリヴァンが細い目をさらに細め、セイルに向かってニヤニヤしながら口を開いた。


「セイル、だっけ?せっかくの無礼講なんだしさ、俺が聞いてもなかなか教えてくれないようなことも聞いちゃってよ~!」


「え、え、え?あ、えっと・・・き、聞きたい事・・・?」


「こらオリヴァン。新人を困らせるな。」


「だってさ~団長ってば俺が恋バナしよ~って言っても全然乗ってくれないしさぁ。」


「こんなオッサンの恋愛話なんて誰が興味あるんだよ・・・。」


アダムスがうんざりした顔をした時、入り口付近のテーブルに座っていたカリナが立ち上がり、一際大きな声を出した。


「イヴェリン様、お疲れ様です!」


「お疲れ様、カリナ。座っていいいわよ。」


「いえ~い!俺らの女神イヴェリン様がやっと登場じゃないっすか~!」


遠征で見つけた小袋の調査を、自身がオーナーを務める中央商会に指示してきたイヴェリンが店に入って来た。

すると、上着を脱いでいるイヴェリンに顔を真っ赤にした立派なヒゲをたくわえた強面の団員が近づいて行く。


「イヴェリン様、いや、女神サマ!遅いじゃないっすか~待ちくたびれましたよ~!」


「あら、私ってばいつの間にアンタ達の女神になったのかしら?」


「見た目だけなら入団した時から女神っすよ~!中身を知ったら手なんて出しませんけどねぇ!」


わっはっは、と片手にジョッキを持ったまま絡んでいく姿は見事な酔っ払いだ。

一緒に飲んでいた団員も、慌てて止めようと腕を引っ張って引き離そうとしている。

すると、イヴェリンが酔った団員に近付くとその顔にそっと手を伸ばした。


「そうね、私に手なんて出したらこの髭みたいに燃やして骨も残さないものね。」


「え?」


ボワッ


「う、うわぁ~っ!」


イヴェリンの手から天井まで届くかのような大きな炎が出て、酔っぱらった団員の頭部全体が火に包まれる。

パニックになった団員が炎を消そうと顔を両手でバシバシと叩く、が・・・


「うわあ~っ!あぁ~・・・あ、あれ?」


顔を叩いていた手が止まると、火が消えている。

髪の毛も顔も火傷をした様子はない。

だが、お酒の入った真っ赤な顔が先程よりよく見える。

巨大な炎の火力と温度を操作し、髭だけを燃やしたのだ。


「フン。私に絡もうなんて五百年早い!アンタは次の遠征が終わるまで禁酒よ!」


「へ、へい!」


大きな体を小さくして謝る酔っ払い団員。

周りの団員達からはヒュ~!とイヴェリンを持て囃す声が飛び交っている。

そのやり取りを見ながら、「流石ぁ~よくあんな器用に魔法操作できますよね~」と感心しているオリヴァン。

と、その時、意を決したようにアダムスとオリヴァンの前に座っていたセイルが叫んだ。


「だっ!団長はっ!ご、ご結婚はされないのですかっ?!」


本人が思っていたより大きな声が出て驚いたのだろう、思わず「あ、すいません・・・」と口を押さえる。

しかし、時すでに遅し。

レストラン『金の麦の穂』の中にいる第一魔法騎士団全員の動きが止まり、全神経がセイルたちのいるテーブルに注がれた。

一瞬後には何事もなかったかのようにそのまま会話を続けているが、全員の耳は完全にアダムスの返答を待っている。


そしてもちろんイヴェリンも、いや、イヴェリンは、カリナの横に座りかけた中腰の姿勢のまま固まり、その大きな瞳を見開いて顔の見えないアダムスの後頭部を凝視している。


「あ~・・・たまに聞かれるんだが、多分出来ないと思うんだよなぁ。」


ええっ?!

と口には出さない団員達の心の声が揃う。


「出来ないって・・・団長みたいな人なら、誰とでも結婚出来ると思いますよ?!」


店の所々で「誰とでもは無理じゃね?」と首をかしげる団員達がチラホラ。

中には「イヴェリン様が阻止するだろ・・・」と達観した表情をしている者も。

ちなみに団員達はアダムスに不審がられないよう、表面上は各自のテーブルで普通に会話を続けている。


「いや、何というか・・・。相手がわからないから、責任の取りようがないんだよ。あ~・・・もういいだろ、俺の話は!こういう話苦手なんだよ。」


頭をガシガシと掻くアダムス。照れているのだろう、アルコールでも変えられなかった顔が少し赤くなっているように見える。

すると横からニュッと腕が伸びて来て、アダムスの肩を掴んだ。


「ダメっすよ!今日こそは逃がさないっすからね!」


オリヴァンがアダムスを捕まえると、周囲にいた団員達も我慢できなくなったのかアダムス達のテーブルへと一気に押し寄せる。


「そんな意味深な終わり方じゃ納得しませんよ~?!」

「何があったんすか?!責任て何すか?!」

「ばっかお前、男が責任取るっつったらアレしかねぇだろ!団長、男だったんすね・・・!」

「誰?!誰の事っすか?!俺の実家、顔が広いんで調べますよ!」

「その人を諦めさせたら希望が見える!第一魔法騎士団悲願達成のために皆で力を合わせるぞ!」


全員が同時に喋り始めて、アダムスが押し合いへし合い、ギュウギュウと詰め寄られる。


「あ~!うるさいうるさい!もう解散だ!俺は帰る!」


数人を背中に乗せたまま立ち上がると、そのまま途中で一人二人と落としながら店を出て行くアダムス。

この店ではいつもツケで飲み食いしていて、後日宿舎の方に請求書が届くので支払いも気にせず帰ってしまった。


その広い背中を見送った面々は、そ~っとイヴェリンの方を振り返る。

美術品のような美しい顔からは表情が消え、まるで生気を失った本物の彫刻のようだ。

団員達からの視線に無言の圧力を受けたカリナが、おそるおそるイヴェリンに声をかける。


「い、イヴェリン様・・・?」


「・・・ソル!」


テーブルに手を着いたまま叫ぶイヴェリン。

その横に、全身真っ黒の服を着て目元だけが出た小柄な人間が音もなく降り立った。

アダムスと出かけた時に迷子の話をしていた影だ。


「はっ、ここに。」


「影を全員招集しなさい。」


「国外に出ている者はいかがいたしましょう?」


「全員よ。」


「はっ!」


短く返答すると、来た時と同じく一瞬で消え去る。


「い、イヴェリン様・・・?」


先程と同じ声をかけるカリナ。だが心配する相手がイヴェリンから見ず知らずの誰かへと変わっている。

イヴェリンの事だから、おそらく諜報組織の影を使いアダムスの言っていた『責任を取るべき相手』を見つけ出すつもりなのだろう。


「団長が言ってたのが誰の事なのか知りませんけど、出来るだけ穏やかに・・・」


「ねえ、カリナ?ちょっと私用事が出来たから帰るわね。」


にっこりと微笑むイヴェリン。

始めてその笑顔を見た者ならば、どんな事でもしてしまうであろう魅惑の微笑み。

だがその笑顔を向けた相手は数年間寝食を共にし、常に自身の傍らに控えている副官のカリナ・ヴォルクだ。

ほんの少しクラリとしたが、すんでの所で踏みとどまる。


「ダッ・・・ダメですよ、そんな顔してもっ!どうせ団長の言ってる人が誰か影に調べさせようとか考えてるんでしょう?!」


「やあねえ、情報ギルドの職員が情報を集めるのは当たり前じゃないの。」


「いや、それはそうなんですけどっ・・・!でも、イヴェリン様、相手が分かったら手を出すでしょう?!」


「あら、ダメなの?じゃあ足にするわ。」


「そういう事じゃありませんっ!」


バンバンとテーブルを叩くカリナ。

大きく息を吸い、上に乗っている食事を全て吹き飛ばしそうなほど大きなため息を吐く。


「・・・わかりました。私も行きます。」


「え?どこへ?」


「イヴェリン様と一緒に影の所ですよ!被害が出たら困るんですから!」


「え~来るのぉ?証拠も全部綺麗サッパリ消してもダメぇ?」


「可愛く言ってもダメですっ!はい!行きますよ!」


そう言うと、すっかり酔いの覚めた顔でイヴェリンを引っ張って店を出て行くカリナ。

それを見送る団員達が、イヴェリンが見えなくなってから全員同時にはぁ~っと息を吐いた。


「ど、どうしたんですか、皆さん・・・」


セイルが不思議そうに尋ねると、カリナたちが出て行った扉を見ながらオリヴァンが答えた。


「前の遠征の打ち上げでね〜。店に来て団長に声かけた娼婦の子がいたんだけど、団長が出て行った後イヴェリン様が荒れに荒れてさあ。魔物と戦うより怪我人が出ちゃったんだよね~。」


あっはっは、と笑うオリヴァン。

団員達が困って怪我をしている様子を思いだし楽しそうな顔をしている。

団員随一のドSの座をイヴェリンと争うだけあって人の困り顔は大好物な様子だ。


「そ、そうだったんですか・・・。あ、でも、団長でもそういうとこ行くんですね。」


「ああ、違う違う。質の悪い客が居たから助けに行っただけだったんだよ。で、すぐ戻ってきたんだけど店は大惨事だし団員達は怪我してるしでさ。結局イヴェリン様が酔ってたって事にして誤魔化したんだけど~。」


余談だが、その時もこの『金の麦の穂』を利用していて、壊された店内はイヴェリンのポケットマネーで改装している。

平屋だった店は三階建てになり、豪華な家具付きで倉庫を食材でいっぱいにされるというオマケ付きで。

ただそれ以降、店主も第一魔法騎士団の打ち上げ時に入店する客には気を配るようになったのだとか。


「は~、皆さん、色々大変なんですね・・・。」


「でもセイル、グッジョブだよ。あの二人、なかなか進展しないし、これでちょっとは変わるといいんだけどね~。」


「あ、え、そうですか?お、お役に立てたなら良かったです!」


あまり理解していない様子のセイルをニコニコして見ながら「あとで詳細を聞かなきゃ~」と三人が出て行った入り口を見ながら呟いた。

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