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完全無欠の第三王女は最強剣士を射止めたい  作者: 斉藤りた


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13.レストラン『金の麦の穂』での打ち上げとアダムスの過去

伝説のドワーフが喜びそうな酒精の香りが充満する店内。

眩し過ぎない灯りの下で、競い合うように無くなっていく酒のコップと食欲をそそる食事がテーブルの上に所狭しと並んでいる。


ここは第一魔法騎士団が打ち上げによく使う店、『金の麦の穂』だ。

団員全員が入っても余りある広さと、庶民的な料理からちょっと値の張る高級食材まで幅広く扱っているレストランだ。


この時間はいつも賑わっている店内も、第一魔法騎士団が遠征から帰ると途端に客足が遠のき団員達以外の客はまばらになる。

魔物の素材が出回り始めて忙しくなるのが主な理由だが、お疲れの団員達の邪魔をするまいと王都民が気を使っている、というのも理由の一つである。


その広い店内の中央に位置するテーブルで、興奮した様子の団員が大声を上げた。


「あの団長の太刀筋みたかよ?!オークキングの首が、まさに一閃!くぅ〜っ!かっけ〜!」


片脚を椅子にかけ、腕をブンブンと水平に振っている。


「そんな事言わないでもらえますぅ?団長ならもっと綺麗に素材が取れるように倒せるのに、首を落とすもんだからオークキングの喉仏の骨も砕けちゃってたし、皮も頭の部分まで広く取れたはずが途中で切れてるし・・・。」


アダムスを讃える団員を見ながら、顔を真っ赤にしてジョッキの取っ手を握ったまま愚痴っているのはギルドに文句を言われたキリルだ。

アダムスかイヴェリンが一緒に居ればその迫力から文句を言われることもないのだが、今日は全ての魔物が小袋に入っていた為一人でギルドに向かってしまい、難癖をつけられる羽目になったのだ。

ちなみにオークキングの喉仏は美しい音色を奏でる楽器になるため、音楽家に非常に人気の希少素材である。


「団長と副団長が居れば、ギルドの奴らも何も言えないくせにぃ・・・。」


ずれた眼鏡を直す事もせず、ジョッキのエールをチビチビと舐めるように飲んでいる。

そんなキリルの横を通り過ぎて、追加の注文を聞きに来た新入団員を捕まえたのはオリヴァンだ。


「お疲れ~。ん?注文?いいのいいの、そんな気を使わなくて。自分で出来る事は自分でやるから。えっと・・・」


「あ、セイルです。セイル・グラン、いちおう侯爵家の出なんですけど、五男なんで・・・。」


そう言いながらオリヴァンの向かいに座ったのは、オークキングとの戦いで最後にウィンドカッターを出した新入団員だ。

侯爵家とはいえ五男ならば家を継ぐことも政略結婚の駒に使えるほどのうま味もないので、ここで手柄を上げて騎士男爵位あたりを狙っての入団、といったところか。


「五男!ご両親は仲良しなんだねぇ。」


「はい。なので、学園にも通わせてもらえて、そこで剣術と魔法の才能を褒めてもらえたので入団させてもらいまして。あと、一度学園に来た団長を見た事があって、あんな風になりたいと思ったんですけど・・・。」


そう言うと視線を落とす。

歯が立たなかったオークキングを、アダムスが一瞬で倒した事を思い出しているのだろう。


セイルの言う学園とは、貴族と優秀な平民が通う学園の事である。

基礎的な学問はもちろん、専門的な魔法の知識や実践、魔法道具の作成や剣術指導など、将来につながる学びや人脈を作る場所でもある。

だが希望制なので、遠方の貴族やその跡取り、王族は行かない事もある。

もちろんイヴェリンもアダムスも卒業生ではないが、スカウトを兼ねた講演に呼ばれて赴く事があるので、その時の事を指しているのだろう。


「いやいや!初めてであれだけ戦えたら立派なもんだよ!最後のウィンドカッターも、軌道を変えたのなんてなかなか良かったし。」


「ほ、本当ですか?」


セイルの瞳に僅かな光が戻る。


「そうそう。まずは無詠唱の練習からになるだろうけど、見込みがあるのはホント。団長なんて人じゃないんだから、目指したってなれるもんじゃないって!」


「おい、誰が人外だ、誰が。」


オリヴァンの頭に上にコツンと拳が乗る。


「だ、団長!お疲れ様です!」


「だんちょーお疲れ様で~す!どうでした?」


オリヴァンが片手に持ったエールを軽く上げて自分の隣の椅子を引くと、そこに腰掛けながらアダムスが自分のエールを注文する。


「どうもこうもなぁ。とりあえず報告はしたが、オークキングが単独でいたって言っても信じてもらえなかったんで、イヴェリンのトコで調べてもらってる袋の結果待ちだな。まあ被害が出てなくて良かったとは言われたよ。」


上位種であるオークキングがいるならばオークがいるのは当然である。

だが遠征帰りの戦闘時、オークキングが来た方向に向かったオリヴァン達はそこにいるであろう普通のオークも被害に遭った住民の姿もなく、ただ驚いている様子の人々から話を聞くだけ聞いて戻って来ていたのだ。


上位種が不在の大量のゴブリン、そこにいるはずのない魔物、単独のオークキング、そして謎の収納小袋。

アダムスはこの奇妙な状況を王城に報告し、やっと団員達の打ち上げに合流できたのだ。

ちなみにイヴェリンは「余計な小言貰うだけだし行かない!」と王城には行かず、いくつかの小袋を持って中央商会に行っている。


「魔法に関しちゃ俺は役立たずだからな。イヴェリンやわかる奴に任せるさ。」


「って言いながら攻撃魔法には誰よりも詳しいのも団長なんだけどね~。」


オリヴァンがアダムスの顔を指で突っつこうとして払いのけられる。


「お前結構酔ってるな?・・・魔物の攻撃は昔っから受けてたから知ってるだけだって。」


エールを受け取って一口飲むと、セイルが緊張した顔で口を開いた。


「だ、団長は、どんな環境で育ったんですかっ?!」


「ん?俺か?」


「は、はい。魔の森近くの出身で、あのウルバヌス・オルド氏が祖父だというのは話に聞いてるんですけど・・・。」


「あ~・・・そうだな。そんなに面白くない話とは思うが・・・。」


「オレも聞きたい聞きたい~!酒のツマミに!」


「おっ!俺も聞きたいですっ!」


「ん~そうだな。大断層の時の話でもしてやるか。俺が子供の時にはもう両親は魔物に殺されててな・・・」







アダムスが育ったのは、万魔の森(パンデモニカ)、通称『魔の森』のすぐ側で湧き出てくる魔物を倒し続ける祖父の元だ。

魔の森は位置的にはルクレイン王国の最東にあるが、その広さは人が住める領土の半分ほど。つまり、王国の三分の一は魔物の住処という事になる。

もはや森というよりそこ自体が魔物の国に近い大きさだ。


そんな場所で育ったアダムスは、英雄と呼ばれる祖父の血を色濃く継いでいたのだろう。

物心がついた時には冒険者が落としていった剣を振り、祖父が逃した魔物を倒すのが当たり前になっていた。

さらに両親の最期、魔物に食べられている母親の姿を見てしまったせいで、魔物の殲滅こそ自分の使命と信じて疑わないようになってしまった。


だが魔の森はこの世の全ての魔物が生まれるとされる場所。

冒険者ギルドが定める魔物のランクはSランクまでだが、それは「これ以上はSランク」というだけの事。

厳密にランク分けしてしまうと、SSランク、SSSランクと際限が無くなってしまう。

人里に出て来ないだけで人間が見たことがない魔物などいくらでもいるのだ。


「魔の森は中心に向かえば向かうほど強い魔物がいる。外に出てくるような弱っちいのくらいは倒せねぇと、俺の孫じゃねぇぞ。」

と言ったのはアダムスの祖父、ウルバヌス・オルドだ。

彼はアダムスを強くするため、まだ幼いアダムスをコボルト、いわゆる犬型の魔物の群れに放り込んだり、ソルジャーアントと呼ばれる戦闘特化型のアリの巣に置いて帰ったり・・・。

孫を強くしようと行き過ぎた教育をしてきた結果、異常な強さと常識の通用しない青年、アダムス・オルドが出来上がってしまった。


そして、世界にとって大きな意味を持つ出来事『大断層カタクリズム』が起こったのは、そんなアダムスが二十三歳の時だった。

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