ユニコーンの飼育員はレストランに呼びつけた婚約者と浮気相手を懲らしめてスッキリさせていると愛されてほしいとあなたが囁く〜浮気癖のあるお花畑達のことなんてもう忘れる〜
この時の自分に教えてあげたい。多くの人々が二人を祝福してくるようになる、と。
「はぁ……信じられない」
ユニコーンの世話をしながら大きくため息をついた。ふわふわの白い毛並みを梳かしながら昨日の出来事を思い出してまたイライラ。優しかったはずの婚約者、テカイルが浮気だなんて。
しかも相手は領地のちょっとお洒落なだけの男爵令嬢とか。どこがいいわけ?あんな頭の中がお花畑みたいな女!
「お嬢様、どうかされましたか?」
心配そうな顔で近寄ってきたのはユニコーン牧場のベテラン飼育員、アンナ。
「アンナさん、聞いてくださいよ!私、婚約破棄することになったんです!最悪なんです」
「まあ、それは大変ですね。一体何が?」
「テカイルが浮気したんです。信じられます?あのテカイルが」
テカイルと浮気相手の信じられないようなやり取りをアンナにぶちまけた。浮気相手の男爵令嬢がいかにテカイルの地位や財産に目が眩んでいたか。婚約を軽く考えていたかを。アンナは話に真剣に耳を傾けてくれた。そして、最後に。
「お嬢様は、お優しい方ですけれど時にはご自分の身を守ることも大切ですよ」
アンナの言葉が心に火をつけた。そうよ、ただ泣き寝入りなんてしない。なにがなんでも懲らしめるのだ。絶対に絶対に後悔させてやると意気込む。
数日後。テカイルと男爵令嬢を呼び出した。場所は王都でも有名な高級レストラン。二人はこんな場所に呼ばれるとは思っていなかったらしい。顔を青くしていた。
「ティアロ。ずいぶんと大胆になったじゃないか」
テカイルはまだ余裕の表情を浮かべている。隣の男爵令嬢はキョロキョロと辺りを見回して、落ち着かない様子だ。
「あなたたちに、話しておきたいことがあるの」
冷静な声で切り出した。用意しておいた証拠を二人の前に突きつけた。テカイルが男爵令嬢に送った甘い手紙。二人が密会していた写真。全て、この数日間で集めたものだ。ありすぎだろ、と突っ込んだ。二人の顔はみるみる青ざめていく。男爵令嬢はガタガタと震え始めた。
「こ、これは……!」
テカイルは言い訳しようとしたけれど、証拠はあまりにも明白だった。
「あなたたちがやったことは婚約者に対する裏切り。社交界のルールを大きく踏み外す行為です」
言葉は冷たく響いた。
「ティアロ、許してくれ!おれは、その、一時の気の迷いで……」
テカイルは必死に謝ろうとしたけれど、もう遅い。
「気の迷い?何度も密会を重ねて、私との婚約をないがしろにしたことが?そんな言い訳通用すると思っているの?本気で?」
冷笑。事前に準備しておいた手紙を取り出した。
「これは、王家と実家、あなたのご両親に送る婚約破棄状。もちろん、あなたが犯した罪も全て詳細に隅から隅まで書かれている」
テカイルは絶望の表情を浮かべた。男爵令嬢は完全に泣き出してしまう。汚い顔を見せないで。せっかくいいお店を選んだのに。
「そ、そんな……!わたくしの家は……!」
男爵令嬢如きが令嬢ぶらないでほしい。他の男爵令嬢に謝っておけばいい。人のことを気にするんなら、初めから倫理観を持っておけと思う。
「あら、心配なの?大丈夫。あなたの両親にも、きちんと話を通しておくから。娘さんの教育がなっていないとね。きっと、泣いてありがとうございますと地面に額を付けて土下座するのではない?」
にっこりと微笑んだ笑顔は、きっと二人には悪魔のように見えただろう。こちらからするとあちらがどろりとした毒池である。
こうして、テカイルと愚かな男爵令嬢は、社交界から完全に追放された。二人の悪行は瞬く間に広まり、誰も彼らを相手にしなくなったのだ。まぁ、広めたけど。自業自得。
それからしばらくして、ユニコーン牧場で穏やかな日々を送っていた。ユニコーンたちの優しい瞳を見ていると、心が安らぐ。やってやったので二度とあの人達は現れない筈。
そんなある日、見慣れない立派な馬車が牧場にやってきた。中から現れたのはキラキラひた上品な物腰の青年。
「失礼いたします。わたしは、ジーシ・ガハ・トリトナーと申します。子爵家の者です」
優雅に微笑んだ。
「ユニコーンの飼育員をされている、ティアロ様にお会いしたく参りました」
ドキッとした。こんな格式高い人が何の用だろう?
「わたしの妹がこちらのユニコーンを大変気に入っておりまして。ぜひ一度、お礼を申し上げたいと」
ジーシは深々と頭を下げた。
「嬉しく思います」
それから何度かジーシが牧場に訪れるようになる。彼はユニコーンの話だけでなく、仕事や趣味の話にも興味を持って聞いてくれた。優しくて知識も豊富で一緒にいると心が安らぐ。
ある日の夕暮れ時、ジーシは真剣な眼差しで見つめた。
「ティアロ様。もしよろしければ、わたしとお友達として、お付き合いいただけませんか?」
心臓はドキドキと高鳴った。テカイルのせいでもう恋なんてできないと思っていたけれど……。
「はい、喜んで」
照れながらも笑顔で答える。ちらりと、ジーシが相手となるといざというとき爵位が下ではない。だから、負けてしまうかもしれないと思った。
(全て、捻り潰されるかも)
それからというもの、ジーシとの時間はかけがえのないものになった。忙しい合間を縫って牧場に顔を出してくれたり、王都の素敵な場所に連れ出してくれたり。格式高い子爵家の御曹司なのに全然偉ぶったところがなくて、いつも穏やかで優しい。
一緒にいると自然と笑顔になれた。傷が癒える。ある日、ジーシが少し緊張した面持ちで話しかけてきた。
「ティアロ様。あの……もし、差し支えなければ、あなたのご家族にお会いさせていただけませんか?」
少し驚いたけれどすぐに嬉しくなった。家族にジーシを会わせたいと思っていたから。
「はい、ぜひ。父も母もきっと喜びます」
数日後、ジーシは立派な贈り物を持って実家を訪れた。両親は彼の誠実な人柄と物腰の柔らかさにすっかり感心して。特に、ユニコーンの飼育という少し変わった仕事にも、理解を示してくれたことが両親には嬉しかったようだ。夕食の席で父が少し照れながらジーシに尋ねた。
「ジーシ様はティアロのことをどのように思っていらっしゃるのですか?」
「お父様」
父に呆れた目を向ける。気が早い。ジーシは真剣な眼差しでこちらを見つめ、ゆっくりと答えた。
「わたしにとって、ティアロ様はかけがえのない大切な女性です。初めてお会いした時から優しさと思いの強さに惹かれておりました。もし、ティアロ様が許してくださるなら、将来を共に歩みたいと願っております」
胸は熱くなった。隣に座る母はうるうると目を潤ませている。父も少し鼻の奥がツンとしているようだ。
「ジーシ様……」
思わず言葉に詰まってしまった。嬉しくて、どう言えばいいかわからない。
「ティアロ様」
ジーシは手を取り優しい眼差しで続けた。
「もちろん、まだお付き合いを始めたばかりです。ですが、わたしの気持ちは本物です。どうかわたしと一緒に、ゆっくりと未来を築いていただけませんか?」
彼の温かい手に自分の手を重ね、力強く頷いた。
「はい。喜んで」
その夜、両親は祝福してくれた。テカイルのことでしばらく落ち込んでいた時を見ていた両親にとって、ジーシの存在は希望の光のように思えたのだろう。テカイルは酷すぎたからね。
それからしばらくしてジーシは改めてプロポーズしてくれた。夕焼けが美しい庭園で、跪いて差し出されたのはキラキラと輝く美しい指輪。
「ティアロ様。わたしの妻になってください」
真剣な眼差しに、迷いはなかった。
「はい。よろしくお願いします」
涙を堪えながら笑顔で答えた。あの時、婚約破棄という辛い経験をしたけれどこうして、本当に幸せな未来が待っているなんて想像もしていなかった。
結婚の準備はジーシが全てを取り仕切ってくれる。格式高い子爵家の結婚式はそれはもう華やかで、多くの人々が私たちを祝福してくれた。
ウェディングドレスを着て夢の中にいるようだった。隣には優しくて頼りになる夫がいてくれる。式にはアンナをはじめ、牧場の仲間たちも駆けつけてくれた。みんな、幸せを心から喜んでくれているのが伝わってきて胸が熱くなる。
テカイルとあの男爵令嬢は今頃どうしているだろうか。落ちぶれていれば、めちゃくちゃ嬉しい。
社交界から追放された二人はきっと最悪最低な日々を送っていることだろう。自身の性格は悪くない。裏切り者に優しい気持ちはいらないし。裏切った代償はあまりにも大きかったのだ。
新しい生活が始まり、ジーシの温かい愛情に包まれて毎日幸せに過ごしている。
元婚約者達にヒリヒリさせられた日々の己に会ったら、是非教えてあげたい。
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