7 卵は契約したい。
そろそろ身の振り方を考えたい卵さん。
「きひひひ、生まれたての精霊が自由に動けないこともある。そういう精霊の保護も魔法少女の仕事だ。万が一ご機嫌を損ねたらとんでもないことなるよな、リランカ。」
口調は笑っているのに、エンペル先輩の雰囲気は明らかに変わっていた。
「ああ、そうだな。」
「だから、今は余計な事をアレコレ聞くなよ。万が一、悪印象なんて持たれたら最悪だ。」
『そっちの方が面白いしな。なあ。』
うわー、精霊様って俗物だ―。
「くっ、ヱンペル、絶対なにか隠してるな?」
「きひひひ、今は知らない方が面白いってだけだ。それに子ども無条件で保護されるべきだと俺はおもうけどな。」
「ああ、自力で動けない身としては、保護はありがたいですねー。」
未だに状況は飲み込めないけど、自分が誰かの保護、もとい手を借りないと動けないことは明らかだ。
「となると、リュー殿は早急に魔法少女と契約していただくのが一番ですね。」
「契約?」
「きひひひ、さっき教えただろう。精霊は気まぐれに魔法少女と契約して、その力を何倍も高めたり、協力な力を授けることができる。」
「ほえー。」
なんか見た目の恰好から、助言をするだけのポジションなのかと思ったけど、そう言うこともできるのか。しかし、こんな卵と契約してくれるか?
「契約するかどうか決めるかはお前さん次第だけどな。きひひひ、お前さんは契約することをおすすめするぞ。契約をして、魔法少女を助けていけば、精霊の力も高まる。結果としてお前が孵化するまでの時間も早くなる・・・はずだ。」
なんで最後、言い淀んだ?
「でもあれですよ、俺、卵っすよ。自力で動けない精霊と契約なんて。
「そこは心配ないですわ。」
俺の懸念に対してリランカさんは微笑む。
「自ら動かない精霊様は割と多いです。それに何より魔法少女にとって、精霊との契約は一人前の証。何を置いても契約をしたいと思う子ばかりですわ。」
へえー。
「きひひひ、むしろお前さんが選ぶ側だな。精霊と魔法少女の関係はそういもんだ。」
うわーなにこの精霊に都合のいい世界。
『きひひひ、そのあたり、キューカンバも必死だったんだよ。あいつからすると自分のしでかしたことで世界が滅ぶかもって状況だったからな。それを救った精霊に人間達は頭が上がらないんだ。』
「は、はあ。なるほど。」
会話の間に念話を挟まれると流れで話をしてしまいそうだ。
「では、どうされますか。ヱンペルの隠し事は少し気になりますが、ここまでの会話を見る限り、リュー殿から悪意は感じません。」
「きひひひ、リランカから見れば、精霊はみんな神様みたいなもんだからな。」
「ヱンペル、ここは私に話をさせてくれ。」
「きひひひひ、わかったよ。」
揶揄うヱンペル先輩と真面目に対応するリランカさん。喧嘩するほど仲が良いというやつだろうか?まあ、俺のパートナーというのもこんな真面目な子がいいなー。いや、逆にめんどくさそう。
「では、早速ですが、見習いの訓練場へ向かいましょう。今は訓練中ですから、お好みの子を。」
「その言い方、いかがわしいですよ。」
「はっ、けしてそのような。しかし、王城の訓練場の子はみな優秀な子です。契約するには充分な素質を持っていると思いますので。」
「はあ。」
「はい、キュリアスではキューカンバ様の御遺志を継いで、国ぐるみで魔法少女のスカウトと教育を行っています。国民は10歳の時に適正検査を受けて、自身の魔法の素養を知り、それで将来の進路を決めます。女子の一番の進路は当然のことながら魔法少女です。10歳の時に適正を見出された子たちは、アカデミーといわれる魔法少女の養成施設へ入学することを許されます。そこで3年ほど学び、その資質を高めます。この時点で、この国ではエリートとも言える力を備えているのですが、アカデミーの卒業生の中から更に選抜された子が魔法少女見習いとして王城へ招聘されます。今から案内した居場所では、そんな彼女たちが訓練をしているわけです。」
この人、急に早口になった。
「ええっとじゃあ、そこで訓練した子が魔法少女に?」
「ええ、彼女たちはそれを望んでいます・・・が。」
「きひひひ、誰もが好きに契約できるわけじゃないってわけだ。精霊は気まぐれだからな。」
ああ、なるほど、魔法少女の候補に対して契約できる精霊が少ないと・・・。
「ですので、歓迎されると思います。相性はあるので必ず契約できるというわけではありませんが、みな、精霊様と出会えるだけでも喜びますから。」
説明しながらリランカさんはソファーから立ち上がりかけていた。
『まあ、付き合ってやってくれ。卵ちゃんにとってもいい話だろ?』
『そっすね。』
『かわいい子を選びたい方だぞ。』
いや、そういうのはとりあえずいいかな? できたら平和主義で荒事はしませんって子がいいけど。魔法少女ってのもよくわからないし。
「で、では、さっそく訓練場へ向かいましょう。よろしいですか。」
言うが、リランカさんは俺を抱え上げて早足で歩きだしてしまう。うん、動けない以上俺に選択肢はないね。
だって卵だし。このまま流されるままに流されてみよう。何度目かと思う決意はそんなものだった。
『あっ、先輩。パートナーを選ぶコツとかってあります?』
リランカ「私たちと契約して、魔法少女にしてください。」
リュー「人間から契約をせまってくるスタイル!」