5 卵、状況のカオスっぷりにイラっとする。
人間からみた精霊の存在価値がわかりそうな話。
「きひひひ、そうだ、なまじ実力があるせいで、後進が見つからずにそろそろ引退とか結婚を考えたいけど相手がいない、そんな不運だけど最強の魔法少女だ。ちなみに魔法少女は10代とで引退だけど、あいつの年齢は。」
「エンペルーーーー、やめろーーーー。」
相棒の精霊の無慈悲な評価に、リランカさんはたまらず突撃して、その口を塞ぐ。
「きひひひ、恥ずかしがるなら、そんな恰好辞めればいいだろ。」
「し、仕方ないだろ、私は第四位なんだぞ。新人のようなフリフリの衣装はさすがに。」
ああ、そういうのもある感じかな?プ〇キュアみたいなやつ?それはそれで似合いそうだ。
「きひひひ、そういっているけど、新人服だと子どもっぽいと、ヒコロクに思われたくないからだろうに。」
「そ、そんなことはない。」
なんだろう、このカオス。めんどくせえなー。
いきなり召喚?なるものをされたのは良しとしよう。記憶通りなら召喚前の自分の状態は健康とはいいがたい、もしかしたら死んで転生した可能性が高い。前の世界に未練はあんまりない。
見た目が卵なのも、うん、気になるけど我慢できる。どんな絡繰りかわからないけど、視界も聴覚も正常に世界を知覚できているし、お話もできる。
わが身に起こった、この突拍子もない状況に対して、今更ながら自分はかなり冷静だ。
「いい加減、話を進めてくれませんか?」
冷静に周囲の反応にイラっと来ていた。
「「ひっ。」」
「「「「すんませんでした。」」」」
おっと言葉と共に何か良くないものが漏れ出たらしい。
「きひひひ、召喚した精霊を放置ってのはよくないなー。」
ポンポンとおれのことを叩いてエンペル先輩が頭を下げた。
「悪かったな。卵ちゃん、あの2人はいつもこんな感じなんだ。空気がぶち壊しだ。」
「あんたも大概だぞ、先輩。」
「違いない。きひひひひ。」
うん、この人?精霊はきっとこういう感じなんだろう。
「で、俺はどうなるの?ええっと、リランカさんだっけ?」
なので話が通じそうなヒコロクさんと、リランカという魔法少女さんだ。
「攻撃されるようなら、抵抗させてもらうけどいい?」
「めっそうもない、精霊に手を上げるなど畏れ多いことをするわけがありません。」
いやアナタ、俺ごと炎で燃やそうとしたよね。
「そ、それはありえない魔力の気配があったので何か邪悪な存在がいるのではないかと思って。」
「きひひひ、先手必勝ってやつだ。まあ、精霊だとしたらあれくらい余裕でさばけるしな。」
「また、めちゃくちゃな。」
「実際そうだったろ。」
だけどもさあ。
「申し訳ありません。」
「姪の不始末、このヒコロク、心の底から謝罪いたします。」
いやまて、なんだスタイリッシュな土下座は。格ゲーの総統みたいなおじさんと美少女戦士が並んで土下座って、漫画でも見たことがないんだけど。
「きひひひ、それがこの世界での精霊の扱いってことさ。説明したとおり、この国の創始者であるキューカンバが作った魔法、そこから生じる瘴気を浄化できるのは精霊だけだからな。精霊への無礼はこの世界では最大の罰にして禁忌になるんだ。」
「なるほど、それでこの態度と。」
よくわからないけど、俺はとんでもない存在となったわけだ。
「で、どうなるです、この先。いや、その前に顔をあげてください、そこまで怒ってないので。」
「あ、ありがとうございます。」
おずおずと顔を上げる美少女戦士。うんだめだ、美少女戦士の土下座からの正座って背徳感がすごい。
「基本的に精霊様はこの世界は自由に生きてもらって構いません。あくまで契約は我々人間からお願しているもんですし。」
「きひひひ、基本的には野良の精霊と契約するか、こうやって儀式で呼び出すかのどちらかだな。」
なにそれ、〇ケモンかな?どちらかというとメガ〇ンかもしれない。
「ですが召喚の儀式のスケジュールと場所は厳密に管理されています。そうすることで、キューカンバ様と精霊さまの約定から外れた契約を防いでいるんです。」
「ああ、察するに、俺の召喚はイレギュラーだったてこと?」
「そうなります。」
なるほど、いやー召喚されたときの様子や、ここまでの会話でなんとなくわかってはいたけどん。
「精霊召喚と契約は、国によって管理されています。よってイレギュラーな精霊の召喚と契約の交渉は、犯罪行為となります。」
「きひひひ、その場合、魔法少女は世界の混乱を防ぐためにその力を行使して儀式を邪魔する義務があるんだ。」
うわ、これって警察官に違法行為の現行犯で逮捕されちゃう系じゃん。ヒコロクさんたち、悪い人にはみえないんだけど。しかも、この2人は姪と甥っ子の関係とか、めっちゃ修羅場じゃん。不謹慎だけどドキドキしてきたじゃないか。
「ただ、この場合。召喚の儀式が行われたという証拠が・・・。」
「きひひひ、確かにないなー。召喚の現行犯を抑えられなかったのは失態だ。」
言い淀む美少女戦士と、ニヤニヤしているエンペル先輩。
「いや、我らはブラックドラゴンウイングズの悲願である。」
「おじさんは黙ってて。」
何か言おうとしたヒコロクさんを、美少女戦士が弾き飛ばして黙らせる。うん自白したアウトだったわ。そしてそう言うことですか先輩?
目?もとい視線を向けるとエンペル先輩はたのしそうにうなづいた。どうやらそういうことらしい。
「じゃあ、あれだね。魔法少女さん、俺は迷子みたいだから保護してもらっていい?」
「はい。」
「え、ええ黒竜様。」
「いや、この場はそれが一番でしょ。ヒコロクさんもここまで運んでくれてありがとう。」
そういうことにするのが無難っぽい?
ヒコロクさん達は悪い人じゃないっぽいけど、俺を召喚しようとしたことはやばい事らしい。そして、この美少女戦士は、その事実を認めて彼らを捕まえることは避けたいっぽい。
「きひひひ、そうだな。迷子の精霊、それも卵なんだ、その場に放置ってわけにはいかないよな。さすがは、ブラックドラゴンウイングス、キュウリアでも最も伝統ある組織の人間の倫理観は精霊としても誇らしい。」
もっともらしいことを言っているが、ヒコロクさん達の顔は優れない。
「そ、そのかたは。」
『あとで、話聞いてあげるから。』
「うん、これは。」
おお、なんか意識した、ヒコロクさんだけにメッセージを送れたようだ。いやそもそも、音を出しているのか、わからんけど。
「し、しかたあるまい。これも精霊様のご意思ならば、あとはお任せしよう。」
「任されました。ただ次からすぐに、連絡してくださいね。保護であっても、精霊と勝手に交渉することは、犯罪ですから。」
「わかっている、その方をよろしく頼む。」
そういって頭を下げるヒコロクさんには応えず美少女戦士は私を抱えて部屋を後にする。
「片付けは任せます。叔父さん、こんな無茶はもうやめてね。」
うん、見た目はきついけど、なんかいい子っぽいなこの子。
エンペル「ばれなければ罪なならない。あと罪にしちゃうとメンドクサイ。わかるよね卵ちゃん」
リュー「どうでもいいけど、俺の名前はリューです。」
次回、やっと最初の部屋からでれそうです。