4 先輩精霊は人格者だけど、俗物でした。
精霊の先輩がこの世界について説明してくれるようです。
最初の攻撃はなんだったのか、部屋に突撃してきた魔法少女は、ヒコロクさんに詰め寄られて口喧嘩をしていた。
「リランカ、よりもよってなぜその恰好なんだ。お前というやつはどうしてもう。」
「お、おじ様に言われたくありません。なんですか、そのゴツゴツしたの?」
「これは、我らブラックドラゴンウイングスの由緒ある制服なのだぞ。」
「それがださいっているんですよ。」
「それは知らん、それよりもなんだその足は、丸出しじゃないか。年ごろの娘がそれでいいのか?」
あれれ、数秒前の命の危機はいったい?
「きひひひひ、安心しな、あれは親子の痴話げんかってやつだ。」
「親子、親子なのあの二人?」
「きひひひひ、正確には叔父と姪だそうだ。ちなみに、あのブラックドラゴンウイングズも合法的な団体だから心配しなくていい。」
「いやーそっちはどうでもいいっす?」
「きひひ、お前さん、なかなかいい性格しているなー。気に入った。特別に状況を説明してやろう。このエンペル様が直々にな。」
そういって機嫌よさげにエンペルという精霊が羽を動かすとパラパラと火の粉が舞う。よく見ると火の粉は羽の形をしておりトカゲのようにゴツゴツとした体に対して羽は天使みたいに羽毛がびっしりだった。
「まずは自己紹介だ。俺は、エンペル。炎の上位精霊だ。精霊については分かるか?」
「今さっき、説明を受けました。魔法少女に力を貸すために、異世界から召喚された存在だとか。」
「50点だな。なるほど、お前、精霊としての記憶はないな、生まれたてっぽいし。」
まあ、卵ですから。そんな軽口を口に出そうと思ったタイミングでエンペル先輩の目が赤く光る。そして、
「きひひひひ、驚いた。ユニークだとは思っていたがまさか黒竜とは、あいつら100年の悲願とやらを成就したのか。こいつは面白い。」
「100年の悲願って?」
「文字通り、100年以上かけた計画だったてことさ。きひひひひ、まあそれは後回しだな。まずは精霊についてのお勉強だよ。卵ちゃん。」
そっすね。まずは現状の確認だ。
【エンペル先輩の精霊と世界の関係講座】
きひひひ、昔々、キューカンバっていう異世界からこの世界にやってきた面白い人間がいた。そいつはこの世界では手つかずだった魔力を解析して魔法の技術を発見して、魔法という奇跡を使えるようにした。その力を使って、当時の暴君たちを打倒して、「キュウリア」という愉快な国を作った。
この国がまた愉快な国でな、それまでは世襲制だった国の代表は何年か置きに行われる選挙でえらばれる上に、血筋とか家柄じゃなくて魔法の実力が出世の鍵となっていた。
どいつもこいつも魔法の訓練と研究。日々新しい魔法が開発され、20年と経たずに魔法は、ハイハイしている赤ん坊だって使えるレベルまで一般的なものになった。
きひひひひ、実に便利で夢がある世界だろ。だけど、そいつにはキューカンバも想定していなかったいくつかの落とし穴があった。大きくは二つ。
まず一つ目の穴は、魔法が一般的になりすぎたせいで、魔法による犯罪や戦争行為が増大したことだ。キュウリア建国当時に淘汰された国の生き残りどもは、祖国を取り戻すといって魔法の力で戦争を仕掛け、理想主義者どもによる魔法テロが横行してしまった。魔法に対抗するには魔法しかない。皮肉にもこの戦争で魔法の技術は更に進化していった。
そしてもう一つは、魔力の使用による世界の汚染だった。無限に使える上に、コストの少ない夢のエネルギー、そんな便利なものじゃない。魔力というのはどの世界にも存在する超自然的なエネルギーでしかないのだ。使えば消費するし、消費された魔力は汚染させて瘴気となってしまう。瘴気がたまれば、生き物や土地、何より人の精神は汚染されて、利己的で狂暴な側面が強くなってしまう。便利な力にはそういった負の側面があるもんだ。そういうもんだろ?
キューカンバと仲間の研究者たちがこの事実に気づいたときには、もう手遅れ、世界に広がり実害を持った瘴気の存在を目の当たりにしても、人々は魔法という便利な力を手放すのはもはや不可能だったというわけだ。
このままでは緩やかに世界は滅びる。
そう確信した、キューカンバが頼ったのは何か? 自分がもともといた世界だ。
やつは、もともとの世界に住んでいた魔法生物、もとい精霊だった俺たちに移住を持ちかけた。
生物なのか、精霊なのか?きひひひ、それこそ人間達が勝手に名前を付けただけでどっちでもない。
キューカンバの世界に住んでいた俺たち精霊は、瘴気を浄化して魔量に還元することができるのだ。まあ、あれだ、植物の光合成みたいなもん?
「この世界で移住して、好きに生きてほしい。けど魔法を使うときはレギュレーションを守ってね。」
キューカンバの誘いは俺たち精霊にとっても渡りに船の話だった。
なにせ、元の世界というのはあれだ。人口過密ならぬ精霊過密状態。それこそ、猫や犬のようにそこら中に精霊たちがいるので、窮屈なことこの上ない。奴の言葉に踊らされて結構な数の精霊がこの世界に移住したわけだ。その時の解放感たらなかったねー。
というわけで、多くの精霊たちがこの世界に移住したのが150年前、キューカンバがこの世界に現れてから50年ほど経ってからだ。
以来、俺たちはこの世界で自由に生きている。
そんな自由の中には、俺のように気まぐれで人間に力を貸している奴もいるというわけだ。
きひひひひ、どうが、お前も感じるだろ、この世界の自由度を。
いや、全部が全部が自由じゃない。世界の均衡を崩さないために、精霊と契約する人間には厳しいルールが設定されいる。性格や適性に、衣食住、そういうのも細かく決められている。
きひひひ、俺たちも新天地が傾くのがいやだったからな。キューカンバとの約束を未だに守っているというわけだ。
きひひひ、後は質問タイムだよ。
思った以上に長かった。、そして、なんとなくわかったこととして。
「つまり、キューカンバって人が、あのコスチュームを考えたってことですか?」
色々と思うことはあるけど、あの狙いすぎな美少女戦士スタイルは。
「きひひひひ、理解が早いな、卵ちゃん。そうだぞ、あの恰好や女子と契約するという決まりを作ったのはキューカンバだ。それも奴の趣味全開でな。ちなみに、契約の3大条件は。」
1 精霊と人間は相互契約であり、複数同時に契約は認められない。
2 魔法少女はその力を行使する際、専用装備の着用を義務とあする。
3 魔法少女の力は、自衛以外に私的に魔法を使ってはいけない。
「きひひひ、意外とちゃんとしてるだろ。ただ専用装備ってのが明らかにおかしい。」
「実用性は皆無ですねー。」
「まあ目立つから、俺たちが見分けやすいってメリットはある。」
「いらねー。」
まあ、あれだけ尖った装備、もとい露出をするには覚悟がいるだろう。
「いくら力が使えるっていってもあんな恰好をするのは、ちょっとあれですねー。」
「きひひひひ、わかってるじゃないか卵ちゃん。だからこそ、魔法少女になる子は純粋で真面目な子が多い。大真面目にコスチュームを選んで、あれだ。」
「なんともまあ、親御さんが泣きそうな。」
「いやいや、あれで、魔法少女はエリートだからな。あれだ、アイドルになった娘と親みたいになる。あんな感じに?」
すっかり打ち解け、観戦モードになった俺とエンペル先輩は、キャーキャー言い合っていたヒコロクのおじさんと、魔法少女?
「シュリ・スカーレット・リランカ。あれでもランキング4位、炎属性では最強の魔法少女だ。」
うん、リランカさんでOK?
「きひひひ、そうだ、なまじ実力があるせいで、後進が見つからずにそろそろ引退とか結婚を考えたいけど相手がいない、そんな不運だけど最強の魔法少女だ。ちなみに魔法少女は10代とで引退だけど、あいつの年齢は。」
「エンペルーーーー、やめろーーーー。」
あっ羞恥が勝ってこっちに突撃したきた。
世界観の説明が長くなってしまった・・・。次回からやっと魔法少女と絡みます。