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29 卵、見守る。

 何もしないことが時にトラブルを招くこともある。

『きひひひ、まあここならしばらくはのんびりはできるだろな。』

 ヱンペル先輩の置き土産。その言葉の意味が分かったのはそれから更に数か月後、集落に招かれざる客が現れたことで発覚した。


 いつものように豪華に飾られた神棚でのんびりとまどろみつつ、周囲を観察する。そんないつもの日課をこなしていると、不意に見慣れない影が見える。

「おいおい、マジかよ。なんだあれは。」

「ゴブリンが宝をため込むというのは聞いたことがありますが、これはあんまり。」

「一攫千金、見ただけでわかる。」

 森の奥茂みからこちらをうかがう4人の男女。揃いの革鎧を着こみ、油断なく周囲を伺いながら望遠鏡でゴブリン村(俺命名)を観察している。

 こんな場所に人間とは珍しい。というか運ばれてから初めて見た。

「場所とルートは覚えたし、戻って応援を。」

「いやいや、ゴブリンだぜ、見た限り戦闘能力はない、私たちだけで充分よ。」

 4人の面子を率いているのは若い女の子だった。自信ありげな顔をしているが、武器は持っておらず革鎧の下もフリルなどがついたドレスのような服を着ている。

 魔法少女?とも思ったけど契約している精霊の気配は確認できないので見習いさんだろう。

 そういえば以前見習いさんたちから、精霊と契約することなくフリーで仕事を引き受ける子もいるとか。魔法を使うことは精霊が居なくてもできる、未踏領域の探索や魔物退治をする職種もあるとかで総じて「冒険者」と呼ばれてるらしいとか。 

「待ってください。あんな魔力のこもった金の布ですよ。何が隠れているか。」

「だから、こうして何日も観察して、ゴブリンしかいないってなったんでしょ。」

 諫める2人の少女と見守る野郎たちが2人。そういえばこの世界は女尊男卑で、魔法少女ファーストだったけ?

「お嬢、宝は逃げません。一度戻る方が。」

「黙りなさい、ここまで一か月以上かかっているのよ、もどって手続きなんてしてたら半年以上はかかる。それに証拠として布の一部でも持ち帰る必要があるわ。」

 どうやらリーダーの少女はリーダーシップが強すぎるらしい。立ち居振る舞いはなかなかだけど、あれではまずいねー。

「たかがゴブリンよ。数が増える前に魔法で一網打尽にします。」

 魔物の脅威から人々を守ることや、魔物がもたらす素材や恩恵を得るのも魔法少女や「冒険者」の仕事というのは分かる。素人目にもこのゴブリン産の布や糸に底知れぬ価値を感じるのも正しい。この人外魔境で一か月以上探索しているということは、彼らの実力を証明している。

 

 でも俺は何もしない。何もする必要がない。

 

 何日も集落を観察していたという言葉通り、冒険者たちの行動は素早く、的確だった。昼間は数体のゴブリンが集落から狩りや収穫にでているので絶対数が減る。その瞬間を狙って昼間に集落へと近づき、気づかれるぎりぎりまで近づき、装備を準備する。

「いい、私の攻撃と同時に中に押し入り、数の確認。いけそうなら、そのまま殲滅よ。」

「だめだった場合は?」

「その時は、バラバラに退避。集合場所は打ち合わせ通りに。」

 やや高圧的だけれどもリーダーの指示は的確だし、他の3人も行動に無駄がない。痕跡を最小限に行動し、逃げ道のルートも確認済み。魔法を主体としたチームワークを戦いの術とするのは、この世界ならではだ。

「いくよ。」

 だが、無意味だ。


 勢いよく一歩踏み出したリーダー、だが次の瞬間にはその体が無数の糸に巻き取られる。

「えっ?」

 茶色に染められ隠された糸。巧妙に隠された罠を踏んだリーダーは連動する糸に絡まれて宙づりになる。

「リーダー。」

 慌ててもう一人の少女が魔法を放って糸を切ろうとする。こぶし大の火の玉。見習いさんたちには一歩及ばないけど、即座に出して正確に吊るしてある糸に当てる技量はなかなかのものだ。

 なのだが、特性の糸は表面が焦げる程度で大した被害はない。

「なっ、なんで。」

 驚きに足が止まる少女の横で2人の男が飛び上がって紐を切ろうとするが、そこそこの高さであるために届かない。

「「ぎゃあああああ。」」

 そして着地地点に用意された落とし穴に勢いのまま落ちていく。うん、上に意識を向けさせてから足元にトラップって基本だよねー。

 ちなみにこの罠は、ゴブリン君が丹精込めて掘ったものです。スピニングゴブリンたちの中で、彼だけは紡績をしないで、こういう罠作りや狩りに勤しんでいるんだよねー。

「ぎぎぎぎ。」

「やばい、アンナ、にげなさい。」

「で、でも。」

 騒ぎにかこつけるゴブリン達。その気配にリーダーは唯一無事なアンナという少女に逃げるようにうながすが、仲間を見捨てられず、アンナは立ち止まってしまう。

「ぎぎぎ?」

「ぎぎ!」

 万事休す。と言いたいところだけど、ピンチなのはゴブリン達も同じだ。スピニングゴブリン達は基本的に臆病で、ひ弱だ。紡績技術は天下一品だけど、彼らは基本的に戦わない、嫌戦えない。

「ぎゃあああ。」

 一目で、4人の冒険者の危険度を察知したゴブリン達は天幕の内側へと引っ込み、なぜかの俺の近くに集まって固まってガタガタと震えだす。

「ぎぎぎぎ。」

 そんな彼(彼女たち)を落ち着かせるように鷹揚に振る舞っているのは、最年長のおばあちゃんゴブリンのゴブ子さん(俺命名)。彼女は冷静に仲間たちの話を聞き、そっと天幕の外を覗き、慌ててもどってくる。

「ぎぎぎぎ。」

 そして、なにやら指示をだすが、ゴブリン達は俺の近くから動けない。いや、俺の近くが一番安全だと思っているのかもしれない。

 そんなゴブリン達が慌てる中。

「ひ、ひえええ。」

「なんであなたまで捕まってるんですか。」

 残った1人、アンナさんは、リーダーと同じような罠に捕まって宙づりになっていた。

「お二人ともすぐにお助けします。」 

 落とし穴に落ちた2人が穴から出るのは時間の問題だろうけど、あのあたりはゴブリン君が時間をかけて作った罠がたくさんあり、ゴブリン達も近づかない危険地帯だ。彼らが無事に切り抜けるとは思えない。

「参ったなー。」

 思わず声がでてしまい、ゴブリン達が震えるのやめて俺を見る。

「うん、大丈夫。危険はないよ。」

「ぎ?」

 残念ながら、言葉は通じないらしい。分かっていたがちょっと寂しいと思いつつ、これはゴブリン向けじゃない。

「危険はないから武装を解除してくれないかな?こちらは争う気はない。」

 届ける相手は罠にはまっている冒険者たち。届くかはわからないけど、動きがぴたりと止まったから大丈夫だろう。

「な、何者だ。」

「ゴブリンの巣だと思ったけど、もしかして高ランクの魔物が?」

 うん、彼らの話をもっと聞きたい。

「そうじゃないよ。もっと君たちには親しみのある存在だ。」

「「えっ?」」

 即座に反応したのは少女達2人だった。

「そうだよ、とりあえず安全なルートを教えるから正面から入ってきてもらえるかな。」



なんだかんだ、魔物は強い。


久しぶりの更新、こちらは週一ぐらいで更新できたらと思っています。

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