27 卵は何もしていない。
魔法少女要素、どこいった?
先に断っておくと、ゴブリンは魔物だ。この世界にある魔法の力によって生まれた亜人と言われる存在で、知性は低く狂暴。RPGとかにあるゴブリンと同じ存在で、魔法少女の討伐対象でもある。
それを手助けするのは、魔法少女達への裏切りになるかも?ぐらいは俺は考えている。
「ぎぎ。」「ぎぎぎ!」
そもそも会話が成立しない。彼らの言葉の意味は分からないし、仮に俺が話しても伝わらないだろう。いやそもそも初手でこちらを食べようとする相手に協力するとかないでしょ。
最初の回復は気まぐれの慈悲と同情だ。あのまま死体になられてもちょっとなという潔癖な気持ちの方が強い。だから2日目以降は意識してバフは与えていないし、バリアによる風よけもしていない。
「ぎぎぎぎ。」
だから、君たち。俺を囲んで祈るのを日課にするのはやめてくれないかな?
気づけば山から転げ落ちてまた1年ほど経っていた。一時的なピンチをしのいだゴブリンたちは勤勉でそこそこ器用なものだった。石斧で伐採した木を組み合わせたログハウスが数件たち、粗末な竃は少しだけ立派になり調理場には屋根ができていた。あと、ゴブリンたちの服装だが、紡績技術があるらしく腰布から簡素な布の服にレベルアップして、男女?の差らしきものも分かるようになった。
「ぎぎぎ。」
祈りが終われば、散っていくゴブリンたち、その数30。生まれたのか周囲のゴブリンが寄ってきたのかわからないけど、その中には山頂でやらかしてくれたあのゴブリン君も混ざっていたりする。
「ぎぎ。」
そんな彼の朝の仕事は、清潔な布で拭くことからはじまる。石と木を組み合わせた台に置かれた俺の身体をそっと丁寧に拭く。出会いが出会いだったらしく、この思いやりの溢れた行動には驚きだ。
俺を拭いたら深々と頭を下げて、ゴブリン君は去っていく。興味が惹かれてその行動を追ってみると、そのまま集落の外の森まで向かい、そこに設置された罠の確認をしていた。
しならせた枝の先に輪っかを作って結ばれた紐、その先に穴が掘ってあり、中には木の実。リスやウサギが木の実を狙えば首がしまって捕まるという代物だ。漫画とかで見たことはある気がするけど、紐と木の枝だけ器用に作るものだ。
残念なことに成果はなかったらしく、少しだけ残念そうに肩を卸すが、すぐに歩き出すゴブリン君。更に森の奥へと入りながら見つけた山菜や木の実を背負ったズタ袋にしまっていく。そのまま半日ほど帰ってこないので周囲に視線を向ける。
あるゴブリンたちは、なにかフワフワしたものを広場に持ち込んで捩って紐を作っていく。できた紐を他のゴブリンたちが組体操ように動き回りながら織って布にしていく。10人以上で行われるその動きは見事な物で、踊るように動き回りながら糸を織って、大きな布が出来ていく。出来上がる布の大きさは風呂敷台。一番の年配らしい腰の曲がったゴブリンのおばあちゃんが石のナイフで丁寧に切り分け、その切り目を丁寧に結んでいく。
真っ白な布はそのままゴブリン達で分けられ、ある者は服に、ある者はターバンのように頭に巻いたりとゴブリン達のおしゃれぐあいが日を追うごとに上がっていて、ちょっと面白い。
ゴブリン達の1日はだいたいこんな感じだ。ゴブリン君を中心に数名の食力確保担当を覗けば残りの全員で、機織りをしたり、家を作ったりと牧歌的である。
食事に関しても木の実や山菜などが多く、先ほどの罠にかかった小動物も、食用というよりは毛皮目的な感じだ。
ここのゴブリン達が特殊なのか、それとも種族的な特徴なのか、少なくともここのゴブリン達は編み物大好きで、平和主義らしい。
となると1年前、なぜあんなにボロボロだったのか、それが気になるところだけど、少なくともこの1年は平和そのものだ。
知覚できる範囲で周囲を探索したけれど、虫以外はリスやウサギといった小動物ぐらいで、危険な魔物の姿は見えない。時折あのバカ鳥がはるか上空を飛んでいるのが見えるぐらいだ。
案外、俺がいるからなのかもしれない。そう思ったりもしたけれど、それにしてはゴブリン達に緊張感がなさすぎる。あれは天敵の存在を知らない平和ボケに近い気配を感じる。もともと天敵も少ない土地で、俺がたどり着いたときは、たまたま運が悪く何かに襲撃されたのだろう。
そう思えるほど、ゴブリン達は戦うという意識が皆無で、罠を使わなければネズミ一匹殺せない。どこかから卵を失敬してくることはあるが、少なくとも野蛮ではない。
まあ、襲われても撃退できるという実力差があっての見解ではある。眠りを妨げられなければ問題はない。その程度の問題と割り切って、俺はのんびりとゴブリン達の生活を見守っています。
まだまだ孵化する気配はないけれど、俺は元気です。
卵「僕は何もしていません。」
そこにいるだけで周囲にバフをくれる有難い卵です。




